6.1 基礎関数
基礎関数ライブラリは Lua でコアとなる関数を提供します。もしこのライブラリをアプリケーションに含めない場合には、機能の一部を自分で実装する必要がないかを慎重に確認する必要があります。
assert (v [, message])
引数 v
が偽値 (nil または false) ならエラーを送出し、そうでないなら全ての引数をそのまま返します。エラーが起きた場合には message
がエラーオブジェクトとなります。message
が与えられないときはデフォルト値 "assertion failed!"
が使われます。
collectgarbage ([opt [, arg]])
この関数はガベージコレクタへの一般的なインターフェースです。第一引数 opt
に応じて異なる処理が行われます:
"collect"
: 完全な GC サイクルを実行します。これがデフォルトのオプションです。"stop"
: ガベージコレクタの自動的な実行を停止します。再開するまでの間、ガベージコレクタは明示的に起動されたときだけ実行されるようになります。"restart"
: ガベージコレクタの自動的な実行を再開します。"count"
: Lua が使用中の総メモリ量を返します (単位はキロバイト)。返り値には小数部分があり、1024 を乗じれば Lua が使うメモリの総バイト数が得られます。"step"
: GC ステップを実行します。ステップの「サイズ」がarg
で制御されます。サイズを 0 とすると、一度の基礎的な (不可分な) ステップが実行されます。0 でないサイズを指定すると、その値を Lua が確保したメモリ量 (キロバイト) とみなしたステップが実行されます。実行したステップで GC がサイクルが終了すると true が返ります。"isrunning"
: ガベージコレクタが実行中かどうか (停止されていないかどうか) を示す真偽値を返します。-
"incremental"
: ガベージコレクタのモードをインクリメンタルに変更します。このオプションにはポーズとステップ倍率とステップサイズ (§ 2.5.1) を表す三つの数値が続きます。0 は数値を変えないことを意味します。 -
"generational"
: ガベージコレクタのモードを世代別に変更します。このオプションにはマイナー倍率とメジャー倍率 (§ 2.5.2) を表す二つの数値が続きます。0 は数値を変えないことを意味します。
GC とそのオプションについて詳しくは § 2.5 を参照してください。
dofile ([filename])
指定されたファイルを開き、その内容を Lua チャンクとして実行します。引数無しに呼ばれた場合には標準入力 (stdin
) の内容を実行します。返り値は実行したチャンクが返した値です。実行中のエラーは呼び出し側に伝播されます (つまり dofile
は保護モードを使いません)。
error (message [, level])
message
をエラーオブジェクトとしてエラーを送出します (§ 2.3)。この関数は返りません。
メッセージを文字列とすると、error
関数はメッセージの先頭にエラーが起きた位置を加えます。引数 level
はそのときに表示されるエラー位置の取得方法を指定します。level
のデフォルトの値は 1 であり、このときは error
関数が呼ばれた位置がエラーの位置となります。level
が 2 のときは error
関数を呼んだ関数が呼ばれた位置がエラーの位置となり、以降同様です。level
を 0 とすればエラーの位置情報はメッセージに加えられません。
_G
グローバル環境 (§ 2.2) を保持するグローバル変数です (関数ではありません)。Lua はこの変数を利用しません: この値を変えても環境は影響を受けず、逆も同様です。
getmetatable (object)
object
がメタテーブルを持たなければ nil を返し、オブジェクトが __metatable
フィールドを持てばその値を返し、それ以外の場合にはオブジェクトのメタテーブルを返します。
ipairs (t)
イテレータ関数・テーブル t
・0 という三つの値を返します。この関数の返り値の関数を
for i,v in ipairs(t) do body end
と使うと、キーとバリューの組 (1, t[1])
, ..., (2, t[2])
が最初の存在しないインデックスまでイテレートされます。
load (chunk [, chunkname [, mode [, env]]])
チャンクを読み込みます。
chunk
が文字列なら、その文字列が読み込むチャンクとなります。chunk
が関数なら、load
はその関数を何度も呼んでチャンクの部分を取得します。それぞれの chunk
の呼び出しは前回の呼び出しに続く文字列を返す必要があり、空の文字列または nil もしくは返り値が存在しないことがチャンクの終わりを表します。
構文エラーが無ければ load
はコンパイルされたチャンクを関数として返し、構文エラーが起きたときには fail とエラーメッセージを返します。
メインチャンクを読み込むときは、返り値の関数は必ずただ一つのアップバリュー _ENV
を持ちます (参照: § 2.2)。しかし関数から (string.dump
で) 作られたバイナリチャンクを読み込むときには、返り値の関数のアップバリューの数は一つとは限りません。また一つ目のアップバリューが _ENV
である保証もありません (メインでない関数は _ENV
を持たない可能性さえあります)。
読み込み結果の関数がアップバリューを一つでも持つのなら、一つ目のアップバリューは env
パラメータが与えられればその値に、与えられなければグローバル環境の値に設定されます。他のアップバリューは nil で初期化されます。全てのアップバリューは「新しく」作られ、他の関数と共有されることはありません。
chunkname
はエラーメッセージとデバッグ情報で使われるチャンクの名前です (参照: § 4.7)。chunkname
が与えられないときのデフォルト値は chunk
が文字列のとき "chunk"
で、それ以外のとき "=(load)"
です。
文字列 mode
はチャンクがテキストかバイナリ (事前にコンパイルされたチャンク) かを表します。可能な値は次の通りであり、デフォルトは "bt"
です:
"b"
(バイナリチャンクのみ)"t"
(テキストチャンクのみ)"bt"
(バイナリとテキスト両方)
Lua はバイナリチャンクの一貫性をチェックしません。悪意を持って作られたバイナリチャンクを読み込むと、インタープリタがクラッシュする可能性があります。
loadfile ([filename [, mode [, env]]])
load
と同様ですが、チャンクをファイル filename
または標準入力から受け取ります。標準入力が使われるのは filename
が指定されなかったときです。
next (table [, index])
この関数はテーブルの全フィールドを走査するために使われます。第一引数はテーブルで、第二引数はテーブルのインデックスです。next
を呼び出すと、テーブルの「次の」インデックスとそれに対応するバリューが返ります。第二引数を nil として呼び出すと、next
は「最初の」インデックスとそれに対応するバリューを返します。「最後の」インデックスを渡したとき、および空のテーブルに nil を渡したときは、nil を返します。第二引数を省略すると nil と解釈されます。例えば next(t)
でテーブルが空かどうかを判定できます。
インデックスが枚挙される順番は決まっていません。数値のインデックスさえ順番通りに返ることは保証されていません (テーブルを数値の順番通りに走査するときは、数値を使った for
を使ってください)。
テーブルの走査中に存在しないフィールドに対して何らかの値を代入した場合、next
の振る舞いは未定義となります。ただし既存のフィールドの変更は構いません。特に既存のフィールドに対する nil の代入は許されています。
pairs (t)
t
がメタメソッド __pairs
を持つなら、t
を引数としてそれを呼び、返り値の最初の三つの値を返します。
そうでなければ、この関数は next
, テーブル t
, nil
という三つの値を返します。これにより、
for k,v in pairs(t) do body end
というコードでテーブル t
に含まれる全てのキーとバリューの組を走査できます。
走査中のテーブルの変更に関する注意点は next
関数を参照してください。
pcall (f [, arg1, ...])
与えられた引数を使って関数 f
を保護モードで実行します。これは f
で起こった任意のエラーが伝播されないことを意味します。その代わり pcall
がエラーを捕捉し、返り値として状態コードを返します。一つ目の返り値は状態コード (真偽値) であり、エラーが起きずに実行が終了すれば true となります。この場合 pcall
は呼び出した関数からの返り値を状態コードの後の返り値として返します。エラーが起こった場合には、pcall
は false とエラーオブジェクトを返します。pcall
では捕捉したエラーに対するメッセージハンドラが呼び出されないことに注意してください。
print (...)
可変個数の引数を受け取り、その値を stdout
に出力します。それぞれの引数を文字列に変換する規則は tostring
と同様です。
print
関数の目的は整った文字列を出力することではなく、デバッグなどのために値を素早く確認することです。出力を完全に制御したい場合には string.format
または io.write
を使ってください。
rawequal (v1, v2)
メタメソッド __eq
を呼び出さずに v1
が v2
と等しいかを判定します。真偽値を返します。
rawget (table, index)
メタバリュー __index
を使わずに table[index]
の「真の」値を取得します。table
はテーブルである必要があり、index
はどんな値でも構いません。
rawlen (v)
メタメソッド __len
を呼び出さずにオブジェクト v
の長さを返します。v
はテーブルまたは文字列である必要があります。返り値は整数です。
rawset (table, index, value)
メタメソッド __newindex
を使うことなく table[index]
の値を value
に設定します。table
はテーブル、index
は nil と NaN 以外の任意の値、value
は任意の Lua 値です。
この関数は table
を返します。
select (index, ...)
index
が数値なら、index
番目以降の全ての引数を返します。負の数値は最後から数えたインデックスを表します (-1 なら最後の引数です)。そうでないとき index
は "#"
でなければならず、そのとき select
は index
以外の引数の個数を返します。
setmetatable (table, metatable)
与えられたテーブルのメタテーブルを設定します。metatable
が nil なら、与えられたテーブルのメタテーブルを削除します。元々あったメタテーブルが __metatable
フィールドを持つならエラーを送出します。
この関数は table
を返します。
他の型のメタテーブルを Lua コードから変更するにはデバッグライブラリを使う必要があります (§ 6.10)。
tonumber (e [, base])
base
が指定されない場合には、tonumber
は引数を数値へ変換します。引数が最初から数値 (あるいは数値に変換できる文字列) のときはその数値を返し、それ以外のときは fail を返します。
文字列の変換結果は整数か浮動小数点数のどちらかであり、変換では Lua の字句変換規則 (§ 3.1) が使われます。変換する文字列の前後には空白が付いていても構わず、また先頭の符号も許されます。
base
があるときは e
がその値を底とした数値とみなせる文字列である必要があります。底として使えるのは 2 以上 36 以下の値であり、10 より大きい底では 10 を A
で、11 を B
でというように表します (大文字と小文字の区別はありません)。Z
が 35 となります。e
が底 base
の数値として正しくない場合には、この関数は fail を返します。
tostring (v)
任意の型の値を受け取り、それを人間が読めるフォーマットの文字列に変換します。
v
のメタテーブルに __tostring
フィールドがあるなら、tostring
はその値を v
を引数として呼び出し、結果を返り値とします。それ以外の場合で v
のメタテーブルに文字列の __name
フィールドがあるなら、tostring
はそれを返り値として返す可能性があります1。
数値の変換を細かく制御するには string.format
を使ってください。
type (v)
引数の値の型を文字列として返します。受け取る引数は一つだけであり、返り値は "nil"
, "number"
, "string"
, "boolean"
, "table"
, "function"
, "thread"
のいずれかです ("nil"
は値 nil ではなく文字列です)。
_VERSION
実行中の Lua のバージョンを表す文字列を持つグローバル変数です (関数ではありません)。バージョン 5.4 におけるこの変数の値は "Lua 5.4"
です。
warn (msg1, ...)
引数を全て連結したメッセージを持つ警告を発生させます。全ての引数は文字列である必要があります。
慣習により、'@'
で始まる単一のメッセージは制御メッセージ (control message) を表します。これは警告システムに対するメッセージであり、Lua 標準の警告関数は "@off"
と "@on"
を認識します。"@off"
を使うと警告が無効になり、"@on"
で再度有効にするまで警告が無視されるようになります。この二つ以外の制御メッセージは無視されます。
xpcall (f, msgh [, arg1, ...])
この関数は基本的に pcall
と同様ですが、新しいメッセージハンドラ msgh
を設定する点が異なります。
-
訳注: ソースコードによると、
v
が数値・文字列・真偽値・nil 以外のとき__name
が使われる。[return]