9.5. Hall–König のマッチング定理の証明

目次

続いて、最大フロー最小カット定理 (定理 9.4.3) を使って Hall–König のマッチング定理 (定理 8.4.7) を証明する。

[定理 8.4.7 の証明 (概略)] [これは概略である。詳細は [17s-lec16, proof of Lemma 1.42] を見てほしい1。] 例 9.2.1 で説明したように、二部グラフ \(\left( G,X,Y\right) \) からネットワーク \(N\) を構築し、\(G\) のマッチングと \(N\) のフローが一対一に対応するようにできる。最大フロー最小カット定理 (定理 9.4.3) より次の等式が分かる:

\[ \max\left\{ \left\vert f\right\vert \mid f\text{ は } N \text{ 上のフロー}\right\} =\min\left\{ c\left( S,\overline{S}\right) \mid S\subseteq V\ \wedge\ s\in S\ \wedge\ t\notin S\right\} \]

ここで \(V\) はネットワーク \(N\) を構成する有向グラフの頂点集合を表す。この等式から、\(N\) 上のネットワーク \(f\) と \(N\) のカット \(\left[ S,\overline{S}\right] \) であって \(\left\vert f\right\vert =c\left( S,\overline{S}\right) \) を満たすものが存在すると分かる。この \(f\) と \(S\) に注目する。\(S\) は \(V\) の部分集合であり、\(s \in S\) と \(t \notin S\) を満たす。

フロー \(f\) に対応する \(G\) のマッチングを \(M\) とする (つまり、\(f ( \overrightarrow{e} ) =1\) を満たす \(G\) の辺 \(e\) 全体の集合を \(M\) とする)。このとき \(\left\vert M\right\vert =\left\vert f\right\vert \) が成り立つ。

\(U\colonequals X\cap S\) と定める。\(U\) は \(X\) の部分集合である。簡単な例におけるカット \(\left[ S,\overline{S}\right] \) を表す図を次に示す:

[フロー \(f\) は示されていない。] オレンジ色の楕円が集合 \(U\) を表す。

このとき次の等式が分かる:

\[ \begin{aligned} \left\vert M\right\vert = \left\vert f\right\vert & = c\left( S,\ \overline {S}\right) \\ & = \underbrace{c\left( \left\{ s\right\} ,\ \overline{S}\right)}_{\substack{=\left\vert X\setminus U\right\vert \\[3pt]\text{[なぜ?]}}}+c\left(\underbrace{X\cap S}_{=U},\ \overline{S}\right) +\underbrace{c\left( Y\cap S,\ \overline{S}\right) }_{\substack{=\left\vert Y\cap S\right\vert \\[3pt]\text{[なぜ?]}}}\\ & \quad \left(\because\ S\text{ は共通要素を持たない三つの集合 }\left\{ s\right\},\ X\cap S,\ Y\cap S \text{ の和集合}\right) \\[5pt] & =\underbrace{\left\vert X\setminus U\right\vert }_{=\left\vert X\right\vert -\left\vert U\right\vert }\hspace{15pt}+\hspace{-15pt}\underbrace{c\left( U,\ \overline{S}\right) +\left\vert Y\cap S\right\vert }_{\substack{\geq\left\vert N\left( U\right) \right\vert \\[4pt](\because\ \text{任意の頂点 } y\in N\left( U\right) \text{ は } Y\cap\, S \text{ に属し } \left\vert Y\cap\, S\right\vert \text{ に } \\[2pt] \text{ 寄与するか、 } \overline{S}\text{ に属し }c\left( U,\ \overline{S}\right) \text{ に寄与する} )}}\\[40pt] & \geq\left\vert X\right\vert -\left\vert U\right\vert +\left\vert N\left(U\right) \right\vert \\[4pt] & =\left\vert N\left( U\right) \right\vert +\left\vert X\right\vert -\left\vert U\right\vert \end{aligned} \]

以上で定理 8.4.7 は証明された。□

Hall–König のマッチング定理 (定理 8.4.7) が証明できたので、Hall の結婚定理 (定理 8.3.4) と König の定理 (定理 8.4.6) も証明された。これらの二つの定理は Hall–König のマッチング定理から導出できると以前に示したからである。


  1. [17s-lec16, Lemma 1.42] は多重グラフ \(G\) ではなく単純グラフ \(G\) に対する命題であることに注意してほしい。しかし、これは本質的な違いではない: \(\left( G,X,Y\right) \) が二部グラフで \(G\) が多重グラフなら \(\left( G^{\operatorname*{simp}},X,Y\right) \) も二部グラフであり、\(G^{\operatorname*{simp}}\) のマッチングからは同じ大きさの \(G\) のマッチングが容易に得られる (そして集合 \(N\left( U\right) \) は \(G\) と \(G^{\operatorname*{simp}}\) のどちらを考えたとしても変わらない)。そのため、定理 8.4.7 の証明では一般性を失うことなく \(G\) は単純グラフだと仮定できる。 ↩︎

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