7.2. 独立集合の個数に対する弱いものの単純な下界

目次

定理 7.1.3 を弱めると次の系が得られる:

系 7.2.1

\(n\) 個の頂点と \(m\) 個の辺を持つループレスな多重グラフを \(G\) とする。このとき、\(G\) は要素数が

\[ \dfrac{n^{2}}{n+2m} \]

以上の独立集合を持つ。

この系を証明するには、次の不等式が必要になる:

補題 7.2.2

\(a_{1},a_{2},\ldots,a_{n}\) を \(n\) 個の正の実数とするとき、次の不等式が成り立つ:

\[ \dfrac{1}{a_{1}}+\dfrac{1}{a_{2}}+\cdots+\dfrac{1}{a_{n}}\geq\dfrac{n^{2}}{a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{n}} \]

[証明] いくかの証明が知られている1:

[系 7.2.1 の証明] 多重グラフ \(G\) を \(G=\left( V,E,\varphi\right) \) と書く。このとき \(\left\vert V\right\vert =n\) と \(\left\vert E\right\vert =m\) が成り立つ。\(\left\vert V\right\vert =n\) より、一般性を失うことなく \(V=\left\{ 1,2,\ldots ,n\right\} \) と仮定する。このとき握手補題 (命題 2.4.3) より次の等式が成り立つ:

\[ \begin{aligned} \sum_{v=1}^{n}\deg v & = \sum_{v\in V}\deg v \\ & = 2\cdot\underbrace{\left\vert E\right\vert }_{=m} \qquad \left(\because\ \text{握手補題}\right) \\ & = 2m \end{aligned} \]

一方で定理 7.1.3 からは、\(G\) が次に示す大きさの独立集合を持つことが分かる:

\[ \begin{aligned} \sum_{v\in V}\dfrac{1}{1+\deg v} & = \sum_{v=1}^{n}\dfrac{1}{1+\deg v}\qquad \left(\because\ V=\left\{ 1,2,\ldots,n\right\} \right) \\ & \geq\dfrac{n^{2}}{\displaystyle \sum_{v=1}^{n}\left( 1+\deg v\right) } \qquad \left(\because\ \href{/graph/independent-set/weaker-but-simpler-lower-bound/#lem.indep.cauchy-lame}{\text{系 7.2.2}} \right) \\ & = \dfrac{n^{2}}{n+2m} \\ & \qquad \Bigl(\because\ \sum_{v=1}^{n}\left( 1+\deg v\right) =n+\underbrace{\sum_{v\in V}\deg v}_{=2m}=n+2m \Bigr) \end{aligned} \]

以上で系 7.2.1 は証明された。□


  1. 以降で説明なしに使われている用語については [Steele04] などの不等式に関する教科書を見てほしい (ただし、用語が完全に標準化されているわけではない。本書が「AM-HM 不等式」と呼ぶ不等式は [Steele04] で「HM-AM 不等式」と呼ばれる)。 ↩︎

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