XVI. 偏微分

独立変数が二つ以上含まれる関数で表される値に遭遇することもある。例えば \(y\) が二つの変動する値 \(u,\ v\) に依存しているなら、それは数式として \[ y = f(u, v) \] と表せる。

簡単な具体例として \[ y = u \times v \] を考える。微分はどうなるだろうか? \(v\) を定数とみなして \(u\) で \(y\) を微分すれば \[ dy_v = v\, du \] となり、\(u\) を定数とみなして \(v\) で \(y\) を微分すれば \[ dy_u = u\, dv \] となる。ここで微分記号の右下の添え字は微分の操作中に定数とみなす変数を示している。

こういった部分的 (partial) な微分、つまり複数の変数を持つ式に対して行われる一つの変数に関する微分係数を表す記法がある。\(d\) の代わりにギリシャ文字のデルタ \(\partial\) を使って次のように書く: \[ \frac{\partial y}{\partial u} = v,\quad \frac{\partial y}{\partial v} = u \]

\(dy_{v}\) と \(dy_{u}\) を使った表記を使えば \[ dy_v = \frac{\partial y}{\partial u}\, du,\quad dy_u = \frac{\partial y}{\partial v}\, dv \] である。\(\dfrac{\partial y}{\partial u}\) と \(\dfrac{\partial y}{\partial v}\) を \(y\) の偏微分 (partial differential) と呼ぶ。偏微分は偏微分係数 (partial differential coefficient) とも呼ばれる。

しかしよく考えれば、\(y\) の変位は二つの偏微分の両方に影響を受ける。つまり \(u\) と \(v\) の両方が動くときの \(dy\) は \[ dy = \frac{\partial y}{\partial u}\, du + \dfrac{\partial y}{\partial v}\, dv \] である。これを \(y\) の全微分 (total differential) と呼ぶ。

\((1)\) \(w = 2ax^{2} + 3bxy + 4cy^{3}\) の偏微分係数を求めよ。答は \[ \begin{cases} \vphantom{\Large \dfrac{\partial w}{\partial x}} \dfrac{\partial w}{\partial x} = 4ax + 3by \\ \vphantom{\Large \dfrac{\partial w}{\partial x}} \dfrac{\partial w}{\partial y} = 3bx + 12cy^{2} \end{cases} \] である。

一つ目の結果は \(y\) を定数とみなすことで得られ、二つ目の結果は \(x\) を定数とみなすことで得られる。ここから \[ dw = (4ax+3by)\, dx + (3bx+12cy^{2})\, dy \] が分かる。

\(\text{(2)}\) \(z = x^{y}\) とする。\(x\) および \(y\) を順に定数とみなして偏微分を考えると、前章までに見た方法で \[ \begin{cases} \vphantom{\Large\dfrac{\partial z}{\partial x}} \dfrac{\partial z}{\partial x} = yx^{y-1} \\ \vphantom{\Large\dfrac{\partial z}{\partial x}} \dfrac{\partial z}{\partial y} = x^y \times \log_e x \end{cases} \] が分かる。よって \(dz = yx^{y-1}\, dx + x^y \log_e x \, dy\) である。

\(\text{(3)}\) 半径が \(r\) で高さが \(h\) の円錐の体積は \(V = \dfrac{1}{3} \pi r^{2}\) である。高さを一定にしたまま \(r\) を変化させたときの体積の変化率は、半径を一定したまま \(h\) を変化させたときの体積の変化率とは異なる。これは次の式からも確認できる: \[ \begin{cases} \vphantom{\Large\dfrac{\partial z}{\partial x}} \dfrac{\partial V}{\partial r} = \dfrac{2\pi}{3} rh \\ \vphantom{\Large\dfrac{\partial z}{\partial x}} \dfrac{\partial V}{\partial h} = \dfrac{\pi}{3} r^{2} \end{cases} \]

半径と高さの両方が変化する場合の体積の変位は \(dV = \dfrac{2\pi}{3} rh\, dr + \dfrac{\pi}{3} r^{2}\, dh\) となる。

\(\text{(4)}\) この例では \(F\) と \(f\) を任意の形をした \(t\) と \(x\) の二変数関数とする。三角関数・指数関数・代数関数など何でもよい。この点を理解できたら、次の式を考える: \[ y = F(x+at) + f(x-at) \] ここで \(w\) と \(v\) を \[ w = x+at,\quad v = x-at \] と定めれば \[ y = F(w) + f(v) \] となる。このとき \[ \begin{aligned} \frac{\partial y}{\partial x} &= \frac{\partial F(w)}{\partial w} \cdot \frac{\partial w}{\partial x} + \frac{\partial f(v)}{\partial v} \cdot \frac{\partial v}{\partial x} \\ &= F'(w) \cdot 1 + f'(v) \cdot 1 \end{aligned} \] が成り立つ。\(1\) は \(w\) と \(v\) の \(x\) に関する微分係数である。さらに \[ \frac{\partial^{2} y}{\partial x^{2}} = F''(w) + f''(v) \] も分かる。また \(t\) に関しては \[ \begin{aligned} \frac{\partial y}{\partial t} &= \frac{\partial F(w)}{\partial w} \cdot \frac{\partial w}{\partial t} + \frac{\partial f(v)}{\partial v} \cdot \frac{\partial v}{\partial t} \\ &= a F'(w) - a f'(v) \\ \frac{\partial^{2} y}{\partial t^{2}} &= a^{2} F''(w) + a^{2} f''(v) \\ \end{aligned} \] だから、 \[ \frac{\partial^{2} y}{\partial t^{2}} = a^{2}\, \frac{\partial^{2} y}{\partial x^{2}} \] が成り立つ。この微分方程式は数学物理で非常に重要になる。

二変数関数の極大値と極小値

\(\text{(5)}\) 練習問題 IX の問題 4 をもう一度考える。

三角形の二つの辺の長さを \(x,\ \) \(y\) とすれば三つ目の辺の長さは \(30 - (x + y)\) であり、三角形の面積は \(A = \sqrt{s(s-x)(s-y)(s-30+x+y)}\) と表せる。ここで \(s\) は三角形の全周の半分 \(15\) である。このとき \(A = \sqrt{15P}\) とすれば \[ \begin{aligned} P &= (15-x)(15-y)(x+y-15) \\ &= xy^{2} + x^{2}y - 15x^{2} - 15y^{2} - 45xy + 450x + 450y - 3375 \end{aligned} \] であり、\(P\) が極大のとき \(A\) も極大となる。全微分は \[ dP = \dfrac{\partial P}{\partial x}\, dx + \dfrac{\partial P}{\partial y}\, dy \] だから、極大値で \[ \dfrac{\partial P}{\partial x} = 0, \quad \dfrac{\partial P}{\partial y} = 0 \] の両方が成り立つ必要がある (このとき極小でないのは明らかである)。これを変形すれば \[ \begin{cases} 2xy - 30x + y^{2} - 45y + 450 = 0 \\ 2xy - 30y + x^{2} - 45x + 450 = 0 \end{cases} \] となり、直ちに \(x = y\) が分かる。

この結果を \(P\) に代入すれば \[ P = (15-x)^{2} (2x-15) = 2x^{3} - 75x^{2} + 900x - 3375 \] が分かる。極大値または極小値において \(\dfrac{dP}{dx} = 6x^{2} - 150x + 900 = 0\) が成り立つから、\(x = 15\) または \(x = 10\) である。

\(\dfrac{d^{2} P}{dx^{2}} = 12x - 150\) が \(x = 15\) で \(+30\) となり \(x = 10\) で \(-30\) となることから、面積は \(x = 15\) で極小となり、\(x = 10\) で極大となる。

\(\text{(6)}\) 体積 \(V\) の石炭を運ぶ (天井がない) 貨車を作るとき、側面と底面の面積の合計が最小になる寸法を求めよ。貨車は直方体とする。

貨車は上面がない直方体だから、奥行きと横幅を \(x,\ \) \(y\) とすれば深さは \(\dfrac{V}{xy}\) と表せる。側面積の合計は \(S = xy + \dfrac{2V}{x} + \dfrac{2V}{y}\) である。全微分は \[ dS = \frac{\partial S}{\partial x}\, dx + \frac{\partial S}{\partial y}\, dy = \left(y - \frac{2V}{x^{2}}\right) dx + \left(x - \frac{2V}{y^{2}}\right) dy \] だから、条件 \[ y - \frac{2V}{x^{2}} = 0,\quad x - \frac{2V}{y^{2}} = 0. \] が満たされるとき \(V\) は極小となる (極大でないことは明らかである)。よってここでも条件は \(x = y\) であり、極小値で \(S = x^{2} + \dfrac{4V}{x}\) および \(\dfrac{dS}{dx}= 2x - \dfrac{4V}{x^{2}} = 0\) となる。ここから \[ x = \sqrt[3]{2V} \] が分かる。

練習問題 XV

解答はここにある。

\(\text{(1)}\) \(\dfrac{x^{3}}{3} - 2x^{3}y - 2y^{2}x + \dfrac{y}{3}\) を \(x\) だけおよび \(y\) だけに関して微分せよ。

\(\text{(2)}\) 次の式の \(x,\ \) \(y,\ \) \(z\) に関する偏微分係数を求めよ: \[ x^{2}yz + xy^{2}z + xyz^{2} + x^{2}y^{2}z^{2} \]

\(\text{(3)}\) \(r^{2} = (x-a)^{2} + (y-b)^{2} + (z-c)^{2}\) とする。\(\dfrac{\partial r}{\partial x} + \dfrac{\partial r}{\partial y} + \dfrac{\partial r}{\partial z}\) と \(\dfrac{\partial^{2}r}{\partial x^{2}} + \dfrac{\partial^{2}r}{\partial y^{2}} + \dfrac{\partial^{2}r}{\partial z^{2}}\) の値を求めよ。

\(\text{(4)}\) \(y=u^v\) の全微分を求めよ。

\(\text{(5)}\) \(y=u^{3} \sin v,\ \)\(y = (\sin x)^u,\ \) \(y = \dfrac{\log_e u}{v}\) の全微分をそれぞれ求めよ。

\(\text{(6)}\) 三つの変数 \(x,\ y,\ z\) を積が \(k\) で一定のまま変化させるとき、\(x + y + z\) が極大となるのは三つの変数が等しいときであることを確認せよ。

\(\text{(7)}\) 次の関数の極大値または極小値を求めよ: \[ u = x + 2xy + y \]

\(\text{(8)}\) ある郵便局で送れる荷物の大きさには、高さと胴回りの和が \(6\) フィートを越えてはいけないという制限がある。送れる荷物の体積の最大値を求めよ。荷物が直方体の場合と円柱の場合の両方を考えること。

\(\text{(9)}\) パイを \(3\) つの部分に分けて、三つの角度のサインの積が極大または極小になるようにせよ。

\(\text{(10)}\) \(u = \dfrac{e^{x+y}}{xy}\) の極大値または極小値を求めよ。

\(\text{(11)}\) 次の関数の極大値または極小値を求めよ: \[ u = y + 2x - 2 \log_e y - \log_e x \]

\(\text{(12)}\) 採掘した資材を運ぶコンベアに付いているカーゴを考える1。カーゴの形が二等辺三角形柱で、頂点が下にあり、上側に蓋はついていない。運搬できる資材の体積に対する鉄板の面積を最小にするカーゴの形を求めよ。


  1. 訳注: Frederik A. Fernanld (1890). Telpherage in Practical Use. Popular Science Monthly, 37, 382–391. を見ると、当時のコンベア (telpherage) がどんなものかが分かる。[return]

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