IV. x のべきの微分

それでは代数で登場する簡単な式を第一原理を使って微分する方法を見ていこう。

\(\text{(1)}\) 簡単な式 \(y = x^{2}\) から始める。微積分で重要な概念は増加量 (数学者が呼ぶところの変動) だったことを思い出そう。\(y\) と \(x^{2}\) が等しいとすれば、\(x\) が増加すると \(x^{2}\) も増加し、\(x^{2}\) が増加するなら \(y\) も増加することは明らかである。さて \(x\) の増加量と \(y\) の増加量の間の比を求めたい。言い換えると、私たちに課せられているのは \(dy\) と \(dx\) の比、つまり \(\dfrac{dy}{dx}\) の計算である。

\(x\) が少し増加して \(x + dx\) になったとする。すると \(y\) も少し増加して \(y + dy\) となる。このとき大きくなった \(y\) は依然として大きくなった \(x\) の二乗と等しい。この事実を数式で表せば \[ y + dy = (x + dx)^2 \] となる。二乗を計算すれば \[ y + dy = x^2 + 2x \cdot dx+(dx)^2 \] を得る。

\((dx)^{2}\) は何を意味するだろうか? \(dx\) が \(x\) の部分 ──それも小さな部分── を表すことを思い出してほしい。そのため \((dx)^{2}\) は \(x\) の小さな部分のそのまた小さな部分を表す。これまでに説明した言葉を使えば、\((dx)^{2}\) は二次の微小量である。よって他の項との比較を考えるときには全く無視してしまってよい。\((dx)^{2}\) の項を消すと、 \[ y + dy = x^2 + 2x \cdot dx \] を得る。ところで \(y = x^{2}\) が成り立っていた。等式からこれを引けば \[ dy = 2x \cdot dx \] となる。両辺を \(dx\) で割れば \[ \frac{dy}{dx} = 2x \] が分かる。そしてこれこそが求めようとしていた式である。\(x\) の増加量に対する \(y\) の増加量の比は、この場合には、\(2x\) だと分かった。

この比 \(\dfrac{dy}{dx}\) は \(y\) を \(x\) に関して微分して得られる結果である。微分するとは微分係数を求めることを意味する。他の \(x\) の関数、例えば \(u = 7x^{2} + 3\) を \(x\) に関して微分せよと言われたときには、\(\dfrac{du}{dx}\) つまり \(\dfrac{d(7x^2 + 3)}{dx}\) を求めることになる。一方で \(y = b + \frac{1}{2} at^2\) のように、関数の独立変数が時間となる場合もある。この関数を微分せよと言われたときには、\(t\) に関する微分係数を求めなければならない。計算すべきは \(\dfrac{dy}{dt}\) つまり \(\dfrac{d(b + \frac{1}{2} at^2)}{dt}\) である。

数値を使った例

\(y = x^{2}\) が成り立つなら \(x = 100\) とすると \(y = 10{,}000\) となる。\(x\) が \(101\) に増加した (つまり \(dx = 1\)) とすると、\(y\) は \(101 \times 101 = 10{,}201\) まで増加する。ただ二次の小ささを持つ量は無視することにしていたから、\(10{,}000\) と比べたときの \(1\) は取り除ける。よって \(y\) の新しい値は \(10{,}200\) となる。\(y\) は \(10{,}000\) から \(10{,}200\) まで増加したから、\(y\) の増加量 \(dy\) は \(200\) となる。

ここから \(\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{200}{1} = 200\) が分かる。三つ前の段落の計算からは \(\dfrac{dy}{dx} = 2x\) が分かるが、この結果は今の計算と矛盾しない: \(x = 100\) とすれば \(2x = 200\) が得られる。

でも \(1\) を無視したじゃないか、とあなたは言うかもしれない。

では、\(dx\) をさらに小さくして同じ計算をしてみよう。

\(dx=\dfrac{1}{10}\) とすれば \(x+dx=100.1\) である。ここから \[ (x+dx)^2 = 100.1 \times 100.1 = 10{,}020.01 \] が分かる。

最後の桁の \(1\) は \(10{,}000\) の百万分の一に過ぎないから、無視しても全く問題はない。つまり \((x+dx)^2\) の最後の桁を無視して \(10{,}020\) とでき、\(dy = 20\) という同じ結果が得られる。\(\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{20}{0.1} = 200\) であり、このときも \(\dfrac{dy}{dx}\) は \(2x\) と等しい。

\(\text{(2)}\) 同じ方法で \(y = x^{3}\) を微分してみる。

\(y\) が \(y + dy\) に増加するとき、\(x\) が \(x + dx\) に増加すると仮定する。このとき \[ y + dy = (x + dx)^3 \] が成り立つ。

三乗を実際に計算すれば次を得る: \[ y + dy = x^3 + 3x^2 \cdot dx + 3x(dx)^2+(dx)^3 \]

\(dy\) と \(dx\) を無限に小さくした場合を考えるので、二次と三次の小ささを持つ \((dx)^{2}\) と \((dx)^{3}\) は \(dx\) と比べて無限に小さくなる。よってこれらの項は無視でき、次の式が得られる: \[ y + dy = x^{3}+3x^{2} \cdot dx \]

ところで \(y = x^{3}\) だった。これを引けば \[ dy = 3x^2 \cdot dx \] つまり \[ \frac{dy}{dx} = 3x^2 \] を得る。

\(\text{(3)}\) \(y = x^{4}\) の微分を考えよう。これまでと同じように \(x\) と \(y\) が少しだけ増加するとすれば \[ y + dx = (x + dx)^{4} \] が成り立つ。四乗を計算すれば \[ y + dy = x^{4} + 4x^{3}\, dx + 6x^{2}(dx)^{2} + 4x(dx)^{3}+(dx)^{4} \] を得る。\(dx\) の二次以上のべきを持つ項は \(dx\) と比べるとき無視できるので、消すことができる。よって \[ y + dy = x^{4}+4x^{3}\, dx \] となる。最初の等式 \(y = x^{4}\) を引けば \[ dy = 4x^{3}\, dx \] つまり \[ \frac{dy}{dx} = 4x^{3} \] が分かる。


こういったケースはどれも非常に簡単だった。結果をまとめて、何か一般的な規則が得られないか見てみよう。二行の表を使って一行には \(y\) の値を、もう一つの行に \(\dfrac{dy}{dx}\) の値を書く: \[ \def\arraystretch{1.5} \begin{array}{c|ccc} y & x^2 & x^3 & x^4 \\ \hline \vphantom{\Large \dfrac{dy}{dx}} \dfrac{dy}{dx} & 2x & 3x^2 & 4x^3 \end{array} \]

この結果をよく見てほしい。微分という操作を行うと、\(x\) の次数が \(1\) 減り (例えば最後の例では \(x^{4}\) が \(x^{3}\) になり)、最初の指数 (肩に載っていた数) が全体に掛けられる。ここから \(x^{5}\) の微分は \(5x^{4}\) で \(x^{6}\) の微分は \(6x^{5}\) だろうと自然に予想できる。これを信じられないなら、実際に微分を計算して予想の正しさを確認してみるとよい。

例えば \(y = x^{5}\) を試すと \[ \small \begin{aligned} y+dy &= (x+dx)^{5} \\ &= x^{5} + 5x^{4}\, dx + 10x^{3}(dx)^{2} + 10x^{2}(dx)^{3} + 5x(dx)^{4} + (dx)^{5} \end{aligned} \] となり、予想通り \(\dfrac{dy}{dx} = 5x^{4}\) が得られる。


この観察を自然に拡張すれば、より高いべきの微分に対しても同様の方法で微分を計算できそうだと分かる。つまり \(n\) 次のべき \[ y = x^n \] に対しては \[ \frac{dy}{dx} = nx^{(n-1)} \] だと予想される。例えば \(n = 8\) とした \(y = x^{8}\) を微分すると \(\dfrac{dy}{dx} = 8x^{7}\) となるに違いない。

実は \(x^{n}\) を微分すると本当に \(nx^{n-1}\) となり、これは全ての正の整数 \(n\) に対して成り立つ [二項定理を使って \((x + dx)^{n}\) を展開すればすぐに証明できる]。しかし \(n\) が負の整数や有理数のときにもこれが成り立つかという問題についてはさらに考察が必要となる。

指数が負の整数の場合

\(y = x^{-2}\) とする。上と同様に計算すると \[ y + dy = (x+dx)^{-2} = x^{-2} \left(1 + \frac{dx}{x}\right)^{-2} \] となる。二項定理を使って展開すれば \[ \begin{aligned} y + dy &=x^{-2} \left[1 - \frac{2\, dx}{x} + \frac{2(2+1)}{1×2} \left(\frac{dx}{x}\right)^{2} - \cdots \right] \\ &=x^{-2} - 2x^{-3} \cdot dx + 3x^{-4}(dx)^{2} - 4x^{-5}(dx)^{3} + \cdots \\ \end{aligned} \] が分かる。二次以上の小ささを持つ項を無視すれば \[ \begin{aligned} y + dy &= x^{-2} - 2x^{-3} \cdot dx \end{aligned} \] だから、最初の等式 \(y = x^{-2}\) を引いて \[ \begin{aligned} dy &= -2x^{-3}dx \end{aligned} \] を得る。この結果は整数に対する規則と合致している。

指数が有理数の場合

\(y= x^{\frac{1}{2}}\) とする。これまでと同様に変形すれば \[ \begin{aligned} y + dy &= (x+dx)^{\frac{1}{2}} = x^{\frac{1}{2}} \left(1 + \frac{dx}{x} \right)^{\frac{1}{2}} \\ &= \sqrt{x} + \frac{1}{2} \frac{dx}{\sqrt{x}} - \frac{1}{8} \frac{(dx)^{2}}{x\sqrt{x}} + {\footnotesize \text{(高次の小ささを持つ項)}} \end{aligned} \] となる。

元の等式 \(y = x^{\frac{1}{2}}\) を引いて \(dx\) の高次の項を無視すれば \[ dy = \frac{1}{2} \frac{dx}{\sqrt{x}} = \frac{1}{2} x^{-\frac{1}{2}} \cdot dx \] が残り、\(\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{1}{2} x^{-\frac{1}{2}}\) を得る。ここでも一般的な規則が成り立つ。

まとめ: ここまでで分かったことをまとめよう。\(\ x^{n}\) を微分するには、この項に指数を掛けてから指数を \(1\) 減らせばよい。つまり微分結果は \(nx^{n-1}\) である。

練習問題 I

次の関数を微分せよ:

\(\text{(1)}\) \(y = x^{13}\) \(\ \)
\(\text{(2)}\) \(y = x^{-\frac{3}{2}}\) \(\ \)
\(\text{(3)}\) \(y = x^{2a}\) \(\ \)
\(\text{(4)}\) \(u = t^{2.4}\) \(\ \)
\(\text{(5)}\) \(z = \sqrt[3]{u}\) \(\ \)
\(\text{(6)}\) \(y = \sqrt[3]{x^{-5}}\) \(\ \)
\(\text{(7)}\) \(u = \sqrt[5]{\dfrac{1}{x^{8}} }\) \(\ \)
\(\text{(8)}\) \(y = 2x^a\) \(\ \)
\(\text{(9)}\) \(y = \sqrt[q]{x^{3}}\) \(\ \)
\(\text{(10)}\) \(y = \sqrt[n]{\dfrac{1}{x^m}}\) \(\ \)

解答はここにある。

これで \(x\) のべきを微分する方法を習得できた。何と簡単なことか!

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