XX. 積分のテクニック

積分の問題では、積分すべき式を積分が知られた式に変形する部分が最も難しくなることが多い。積分法を扱う ──本格的な── 本には積分の変形方法が山ほど載っている。ここに示すのはそんなテクニックの一部である。

部分積分:これは次の等式を使った積分の計算を表す: これを使えば、積分を直接には求められない場合にも を使って を求められる場合がある。この等式の証明を示す。積の微分規則から が分かる。これを変形すれば であり、両辺を積分すれば上の等式が得られる。

を求めよ。

および とする。このとき および が成り立つから、公式に代入すれば を得る。

を求めよ。

と定めれば であり、ここから が分かる。

を求めよ。

とすれば が成り立つ。よって であり、 となる。

を求めよ。

とすれば が成り立つ。よって である。問題 1 と同じ部分積分を使えば が分かるから、 となる。

を求めよ。 とすれば が成り立つ ( の微分は第九章で説明した方法で計算できる)。よって となる。ここで が成り立つから、二つの等式を足せば が消えて を得る。 が前に出てきたのを覚えているだろうか? この関数は を微分すると得られる。つまり の積分は であり だと分かる。

他にも例を自分で作ってみるとよい。他の練習問題は章末にある。

置換積分: このテクニックは前に第九章で説明した変形を使う。例を使って積分への応用を説明しよう。

新しい変数 と定めれば であり、置換した式の積分から が分かる。

とおけば より が分かる。 の微分だから、答は である。

なら であり、積分は と変形できる。 の微分だから、積分の答は である。

帰着の公式: 主に多項式や三角関数のべきを含む式の積分において、考えている積分をより簡単な (答の分かっている) 積分に変形する手順を帰着の公式 (Formula of Reduction) と呼ぶ。

有理化と分母の因数分解: これは特殊な場合に適用できるテクニックだが、一般的な方法を短い言葉で説明することはできない。こういった積分の前処理を使いこなすには多くの練習が必要となる。

第十三章で触れた部分分数分解の手続きを積分に応用する例を次に示す。

一つ前と同じ積分 を考える。被積分関数 を部分分数へ分解すれば となる。この積分は一つ前の例題と同じだが、答を表す式が異なる点に注意してほしい (もちろん二つの式が表す関数は等しい)。

落とし穴: 慣れていれば回避できる点にも、初心者は躓いてしまうことが多い。 を因数として使ったり、 のような値の定まらない式が出てきてしまったりするのがその例である。どんな場合にも使える黄金律というものは存在せず、頼れるのは経験と慎重さだけである。例えば第十八章で考えた の積分では、べき乗の公式が使えないという落とし穴を回避する必要があった。

積分無しでは解けない問題が積分を使って始めて解けるようになる場合もある。例えば物理的な関係の考察によって物質同士の相互作用を支配する法則が見つかると、その法則は係数に代数式を持つ微分方程式で自然に表されることが多い。しかしそういった微分方程式が見つかったとしても、それを積分できない限り解くことはできない。一般に言って正しい微分方程式を突き止めるよりもそれを解く方がずっと難しく、積分の計算で始めて本当の問題が生じる。ただし見つかった方程式が答が知られている標準形に当てはまるなら答はすぐに求まる。

微分方程式を積分して得られる式を、微分方程式の解と呼ぶ1。解と積分する前の式が驚くほど異なる場合が多くある。微分方程式とその解が芋虫と蝶ほどに異なって見えるのである。例えば

という簡単な式が に進化するなど、誰が予想できるだろうか? しかしそれでも、この式は微分方程式 の “解” となる。

この微分方程式の解き方を例として示そう。と言っても部分分数分解を使って とするだけなので、これはそれほど複雑な変態ではない!

ブール著 Differential Equations など、様々な微分方程式の解法について書かれた文献は多くある。

練習問題 XIX

解答はここにある。

次の積分を求めよ:


  1. つまり微分方程式を解いた結果が解である。一方でフォーサイス教授を含む多くの数学者は「微分方程式に含まれる独立変数の値が既知の関数あるいは積分 (計算できなくてもよい) の組み合わせで表せるとき、その微分方程式は解けたとみなされる」と言うことだろう。[return]

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