エピローグとアポローグ
本書『かんたん微積分』が職業数学者の手に渡ったとすれば、彼らは (よほど怠惰でない限り) 学者として立ち上がり、この本がどれほどの悪書であるかを騒ぎ立てることだろう。そういった人々が言うところの懐疑的な態度がこの本には全く欠けており、非常に重大で嘆かわしい過ちをいくつも犯している。
第一に、この本は微積分に登場する操作の多くが馬鹿馬鹿しいほどに簡単であることを示している。
第二に、この本は多くの秘密を暴露している。一人の馬鹿にできることは他の馬鹿にもできると読者に示すことで、微積分なるひどく難解な理論を習得したと胸を張っている数学が得意な御仁に頭を下げる理由も大してないのではないかと読者に疑問を持たせている。微積分はこの上なく難しいと思ってもらいたい彼らにしてみれば、真実が暴かれるのは面白くないだろう。
第三に、この本が「簡単すぎる」と言って投げかけられる厳しい言葉の中にはこんなものがあるだろう: 「この本では様々な手法が簡単に説明されているが、その正しさが厳密に示されていない。さらにそんな手法を使って練習問題を解かせている。あり得ない!」 しかし、そうしてはいけない理由はない。 時計を作れない人は時計を使ってはいけないのだろうか? 演奏家が使うバイオリンが他人の作であったとして、そのことを責める人はいない。子供に文法を教えるのは、口に出して言葉を使えるようになってからである。微積分を学び始めた初学者に一般的で厳密な理論を解説するのは、同じく的外れなことに違いない。
この低俗で悪意にまみれた本について自称数学者が言いそうなことがもう一つある: 「この本がこんなにも簡単なのは、著者が本当に難しい部分を全部飛ばしたからだ」この批判に関する恐るべき事実は、それが正しいということである。さらに言えば、これはまさに本書が書かれた理由に他ならない。本書は微積分をよく分かっていない多くの人々に向けて書かれた。微積分を教えるときにまず間違いなく使われるあの馬鹿げたやり方によって微積分の理解から遠ざけられた人々である。本書の目的は初学者が微積分の言葉を学ぶこと、微積分の単純な概念に慣れること、そして微積分を使った強力な問題解決手法を概観することにある。複雑怪奇で誰も気に留めない (ほとんど無意味な) 数学パズルに頭を悩ませることは、実用性など頭にない “数学者” が大好きだったとしても、本書の目的ではない。
若い技術者の中には「一人の馬鹿にできることは、他の馬鹿にもきっとできる」という格言を聞いたことがある者もいるだろう。もし聞いたことがあったとしても、本書の著者を明かさないよう、そして “数学者” に彼らが本当はどれだけ馬鹿なのかを伝えないよう、心よりお願いする。