問題: 数十億台へのスケール

目次

前章では異なる種類のネットワークがいくつか集まって構成されるインターネットワークを構築する方法を見た。つまり、不均一性 (heterogeneity) の問題に対する対処は完了した。インターネットワークにおけるもう一つの重要な問題 ── そして間違いなくあらゆるネットワークにおける基礎的な問題 ── はスケーリングである。ネットワークのスケーリングという問題を理解するには、インターネットの成長に目を向けるべきだろう。インターネットの規模は三十年にわたって毎年ほぼ倍増しており、この速度の成長から数多くの課題が生まれてきた。

最も重要な問題は数十万のネットワークと数十億のエンドノードを扱えるルーティングシステムの構築である。本章でこれから見ていくように、ルーティングのスケーリングという問題に対処するアプローチの多くは階層性を導入する。階層性はドメインに含まれる複数のエリアという形で導入される。また、ドメインをまたいでルーティングシステムをスケールさせる上でも階層性は利用される。インターネットを現在の規模までスケール可能にしたドメイン間ルーティングプロトコルは BGP (Border Gateway Protocol) である。本章では BGP の動作を解説し、インターネットが成長する中で BGP が直面した課題を考察する。

ルーティングのスケーラビリティに密接に関係する問題としてアドレス方式の問題がある。20 年前でさえ、IPv4 が用いる 32 ビットのアドレス方式をいつまでも使い続けるわけにはいかないことは明らかだった。ここから新しいバージョンの IP が生まれた ── 「IPv5」は以前に開発された実験的なプロトコルの名前として使われていたので、新しいバージョンの IP は IPv6 (Internet Protocol Version 6) と呼ばれる。IPv6 は主にアドレス空間の拡張を行ったが、新しい機能もいくつか追加された。IPv6 の新機能の一部は IPv4 にも追加された。

インターネットの規模が成長する間に、その機能も進化する必要が生じた。第 4.3 節ではインターネットに追加された重要な機能をいくつか紹介する。一つ目のマルチキャストは基本的なサービスモデルの拡張である。マルチキャスト ── 同じパケットを複数のノードに効率良く届ける仕組み ── がインターネットワークにどのように組み込まれるかを解説し、マルチキャストをサポートするために策定されたルーティングプロトコルをいくつか見る。二つ目の新機能 MPLS (Multiprotocol Label Switching) は IP ネットワークにおける転送の仕組みを変化させる。MPLS によって IP 転送の様式や IP ネットワークが提供するサービスが変化する。最後に、第 4.5 節ではルーティングにおけるモビリティ (デバイスが移動すること) の影響、そしてモバイルのホストとルーターをサポートするために IP に施された改良を見る。こういった改良においても、スケーラビリティの問題は重要であり続ける。

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