19.1 確率変数の例
\(\mathcal{S}\) を確率空間とする。\(\mathcal{S}\) の標本空間を始域とする全域関数を、\(\mathcal{S}\) 上の確率変数 (random variable) と呼ぶ。
確率変数の終域は何でも構わないものの、たいていは実数の集合である。なお、この定義にある通り確率変数は実際には関数なので、確率「変数」という (標準的な) 用語はあまり適切でない。
確率変数の例を示す。公平で相互独立な \(3\) 枚のコインを投げる試行において、表を向くコインの枚数を \(C\) とする。さらに、全てのコインが表または全てのコインが裏なら \(M = 1\) で、それ以外のとき \(M = 0\) と定める。このとき、\(3\) 枚のコインを投げる試行の任意の結果は \(C\) と \(M\) の値を一意に決定する。例えば、結果が「表・裏・表」なら \(C=2\), \(\,M = 0\) であり、結果が「裏・裏・裏」なら \(C = 0\), \(\,M = 1\) となる。事実上、\(C\) は表を向いたコインの枚数を表し、\(M\) は全てのコインの裏表が一致するかどうかを表す。
任意の結果が \(C\) と \(M\) の値を定めるので、\(C\) と \(M\) は結果を実数に移す関数とみなせる。関数として見たとき \(C\), \(M\) の始域はいずれも標本空間 (結果全体の集合) であり、次の集合 \(\mathcal{S}\) に等しい:
そして、\(C\) はそれぞれの結果を次のように移す関数である:
同様に、\(M\) はそれぞれの結果を次のように移す関数である:
このように考えるとき、\(C\) と \(M\) は確率変数の定義を満たす。
19.1.1 指示確率変数
任意の結果を \(0\) または \(1\) に移す確率変数を指示確率変数 (indicator random variable) と呼ぶ。指示確率変数は Bernoulli 変数 (Bernoulli variable) とも呼ばれる。上記の例で定義した \(M\) は指示確率変数である。
指示確率変数と事象には密接な関係がある。なぜなら、指示確率変数によって標本空間が「\(1\) に移される結果全体の集合」と「\(0\) に移される結果全体の集合」に分割されるからである。例えば、先ほどの指示確率変数 \(M\) は標本空間を次のように \(2\) 個のブロックに分割する:
同様に、任意の事象 \(E\) は標本空間を \(E\) と \(\overline{\mathstrut E}\) に分割する。このため、\(E\) を使って指示確率変数 \(I_{E}\) を定義できる:
これは事象 \(E\) と事象 [\(I_{E} = 1\)] が等しいことを意味する1。例えば、確率変数 \(M\) は \(E = \left\{ \texttt{HHH}, \texttt{TTT} \right\}\) に対する指示変数 \(I_{E}\) に等しい。
19.1.2 確率変数と事象
一般の確率変数と事象にも強い関係がある。\(N\) 個の値を取る確率変数は、標本空間を \(N\) 個のブロックに分割する。例えば、上記の確率変数 \(C\) は標本空間 \(\mathcal{S}\) を次のように分割する:
この分割の各ブロックは標本空間の部分集合、つまり事象である。よって、例えば \(C = 2\) という条件は次の事象を定義する:
この事象の確率は次のように計算できる:
同様に [\(M = 1\)] は事象 \(\left\{ \texttt{TTT}, \texttt{HHH} \right\}\) を定義し、その確率 \(\operatorname{Pr}[M = 1]\) は \(1/4\) である。
一般的に言えば、確率変数に関する任意の条件は事象を定義する。例えば、条件 \(C \leq 1\) は次の事象を定義する:
ここから \(\operatorname{Pr}[C \leq 1] = 1/2\) が分かる。
別の例として、条件「\(C \cdot M\) が奇数」からも事象は定義される。少し考えると、この条件は「\(3\) 枚のコインが全て表」を奇妙に言い換えたものだと分かる。つまり、次の等式が成り立つ:
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訳注: 標本空間 \(\mathcal{S}\) を持つ確率空間上の確率変数 \(R\) と \(R\) の終域の要素 \(a\) に対して、\([R = a]\) は集合 \(\left\{ \omega \in \mathcal{S} \; | \; R(\omega) = a \right\}\) を表す。一般に、述語 \(P\) に対して \([P(R, a)]\) は \(\left\{ \omega \in \mathcal{S} \; | \; P(R(\omega), a) \right\}\) を意味する。確率変数が複数ある場合でも同様となる。 ↩︎