1.5 論理的含意の証明
「もし \(P\) が成り立つなら、\(Q\) が成り立つ」という形をした命題を論理的含意 (logical implication) と呼ぶ。この論理的含意は「\(P \ \operatorname{\text{\footnotesize IMPLIES}}\ Q\)」とも書かれる。
論理的含意の例を示す:
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[二次方程式の解の公式] もし \(ax^{2} + bx + c = 0\) かつ \(a \neq 0\) なら、次の等式が成り立つ:
\[ x = \frac{-b \pm \sqrt{b^{2} - 4ac}}{2a} \] -
[Goldbach の予想 (予想 1.1.6) の別表現] もし \(n\) が \(2\) より大きい偶数なら、\(n\) は二つの素数の和である。
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\(0 \leq x \leq 2\) なら \(-x^{3} + 4x + 1 > 0\) が成り立つ。
論理的含意を証明するための標準的な方法がいくつか知られている。
1.5.1 方法 1: 素直に示す
\(P \ \operatorname{\text{\footnotesize IMPLIES}}\ Q\) を証明する最も単純な方法は次の通りである:
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「\(P\) と仮定する」と書く。
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\(P\) から \(Q\) が論理的に従うことを示す。
例
\(0 \leq x \leq 2\) なら \(-x^{3} + 4x + 1 > 0\) が成り立つ。
証明を書き始める前の準備として、この定理が正しいことを納得しておこう。
上記の不等式は \(x = 0\) のとき明らかに成り立つ: 左辺は \(1\) であり \(1 > 0\) は正しい。\(x\) が \(0\) より少し大きいとき、\(4x\ (> 0)\) の絶対値は \(-x^{3}\ (< 0)\) の絶対値より大きくなる。例えば \(x = 1\) のとき \(4x = 4\) に対して \(-x^{3} = -1\) でしかない。さらに考えると、\(-x^{3}\) の絶対値が \(4x\) より大きくなる条件は \(x > 2\) だと分かる。よって \(x\) が \(0\) 以上 \(2\) 以下のとき \(-x^{3} + 4x\) は正だと言える。
ここまでは順調だ。しかし、こういった「何となく」正しい文章を隙の無い論理的な議論に書き換えるにはどうすればいいだろうか? 重要だと判明した \(-x^{3} + 4x\) の部分を因数分解してみよう。これは難しくない:
分かった! \(0 \leq x \leq 2\) のとき、右辺の各項は非負になる。非負の値の積も非負だから、\(-x^{3} + 4x\) も非負だと結論できる。
ここまでの様々な観察を一つの証明にまとめよう。
証明 \(0 \leq x \leq 2\) だと仮定する。このとき \(x\), \(2-x\), \(2 + x\) は全て非負である。よって、これらの積に \(1\) を足すと正である:
左辺を展開すれば
となって示したい不等式が得られる。 ■
この証明には、全ての証明に共通する要素がある:
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証明に必要な論理的ステップを見つけるために、ある程度の準備が必要になることがよくある。この準備を理路整然と行う必要はない ── 袋小路に迷い込んだり、奇妙な図があったり、言葉の使い方が変だったりしても問題はない。しかし、最終的な証明は明確かつ簡潔である必要があるので、準備と証明を混ぜてはいけない。
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証明の最初には「証明」と書かれ、最後には「■」や「QED.」といった文字が書かれる。これらは慣習であり、証明の始まりと終わりを分かりやすくする以外の役割はない。
1.5.2 方法 2 - 対偶を示す
論理的含意 \(P \ \operatorname{\text{\footnotesize IMPLIES}}\ Q\) は次の命題と論理的に同値である:
この命題を \(P \ \operatorname{\text{\footnotesize IMPLIES}}\ Q\) の対偶 (contrapositive) と呼ぶ。
命題とその対偶のどちらかを証明すれば、もう一方も同時に証明される。そして対偶の方が証明しやすい命題も存在する。そういった命題の証明は次のステップで書ける:
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「示すべき命題の対偶 \(\cdots\) を示す」と書く。
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方法 1 と同様に進める。
例
\(r\) が無理数のとき、\(\sqrt{r}\) も無理数である。
有理数 (rational) とは、整数同士の比である実数 ── 自然数 \(m\), \(n\) を使って \(m/n\) と表せる実数 ── を意味する。有理数でない実数を無理数 (irrational)と呼ぶ。よって示すべき命題は「\(r\) が二整数の比でないとき、\(\sqrt{r}\) も二整数の比でない」となる。とても込み入っている! 対偶を取れば、二つの「でない」を除去して証明を単純化できる。
証明 示すべき命題の対偶「\(\sqrt{r}\) が有理数のとき \(r\) は有理数である」を示す。
\(\sqrt{r}\) が有理数だと仮定する。このとき次の等式を満たす整数 \(m\), \(n\) が存在する:
両辺を二乗すれば次を得る:
\(m^{2}\) と \(n^{2}\) は整数だから、\(r\) も有理数である。 ■