12.11 森と木

これまで本書では非巡回有向グラフを何度も使ってきた。しかし、情報科学で最も重要なグラフは間違いなく非巡回単純グラフである。

定義 12.11.1

閉路を持たない (非巡回な) グラフを (forest) と呼ぶ。連結な森を (tree) と呼ぶ。

例えば図 \(\text{12.18}\) のグラフは森であり、その連結成分は定義より木である。

2 個の木 (連結成分) からなる 6 頂点の森
図 12.18\(2\) 個の木 (連結成分) からなる \(6\) 頂点の森

12.11.1

いくつか森を観察すると、多くの森には次数が \(1\) の頂点が存在する事実に気が付くだろう。

定義 12.11.2

森の頂点の次数が \(1\) 以下のとき、その頂点を (leaf) と呼ぶ。また、グラフの頂点の次数が \(0\) のとき、その頂点を孤立頂点 (isolated vertex) と呼ぶ。

図 \(\text{12.18}\) の森は \(4\) 個の葉を持ち、図 \(\text{12.19}\) の木は \(5\) 個の葉を持つ。

9 個の頂点と 5 個の葉を持つ木
図 12.19\(9\) 個の頂点と \(5\) 個の葉を持つ木

孤立頂点を持つ森は、頂点が \(1\) 個でない限り木にならない。よって連結な森 ── つまり木 ── が \(2\) 個以上の頂点を持つとき、その葉の次数は \(1\) と分かる。葉が多く存在するわけではない: 線グラフ \(L_{n}\) は木であり、葉を \(2\) 個しか持たない。ただ、この値は最小値である:

補題 12.11.3

\(2\) 個以上の頂点を持つ有限木は少なくとも \(2\) 個の葉を持つ。

証明 \(T\) を有限木とする。\(T\) に含まれる最長の路を一つ取って \(\textbf{p}\) として、\(\textbf{p}\) の終点を \(u\) とする。\(u\) を端点に持つ辺であって \(\mathbf{P}\) に含まれないものが存在するなら、その辺を \(\mathbf{P}\) に付け足すことで最長の路を伸ばすことができる。しかし \(\textbf{p}\) は \(T\) の最長の路なので、そのような辺は存在しない。

\(T\) は \(2\) 個以上の頂点を持つので、最長の路 \(\textbf{p}\) は少なくとも一つの辺を含む。よって最後の辺 \(\langle v\>\text{---}\>u \rangle\) が存在する。もし \(\textbf{p}\) に含まれる頂点 \(w \neq v\) と \(u\) を結ぶ辺が存在するなら、\(w\) から \(\textbf{p}\) をたどって \(u\) に到達し、そこから \(w\) に戻ることで閉路を構成できる。しかし \(T\) は木だから、そのような辺は存在しない。

以上より \(\langle v\>\text{---}\>u \rangle\) は \(u\) に接続する唯一の辺だと分かる。言い換えれば \(u\) は葉である。\(\textbf{p}\) の始点も同様の議論で葉だと示せる。

12.11.2 木の性質

木を特徴付ける性質は数多く知られている。これは木が様々な場面で現れる理由の一つと言える。

定理 12.11.4

\(G\) を単純グラフとする。次の条件は同値である:

  1. 連結かつ閉路を持たない (木である)。

  2. 連結かつ全ての辺がカット辺である (連結でありながら辺の個数が最小)。

  3. 非巡回かつ隣接しない任意の二頂点を辺で結ぶと閉路が生まれる (非巡回でありながら辺の個数が最大)。

  4. 任意の二頂点間の路が一意に定まる。

証明 これから \(4. \longrightarrow 2. \longrightarrow 1. \longrightarrow 3. \longrightarrow 4.\) を示す。最後のものを除けば、どの含意も簡単に示せる。

定理 12.11.4 の同値性は無限木に対しても成り立つ1。有限木に対しては、頂点の個数と辺の個数に関する有用な特徴付けがさらに二つ存在する。

定理 12.11.5

有限森 \(F\) は \(|V(F)| - |E(F)|\) 個の木から構成される。

証明 頂点の個数 \(n\) に関する数学的帰納法を用いる。次の述語 \(P(n)\) を帰納法の仮定とする:

\[ P(n) \ \ \overset{\text{def}}{\longleftrightarrow}\ \ \text{\(n\) 個の頂点を持つ任意の森 \(F\) は \(n - |E(F)|\) 個の木から構成される} \]

ベースケース: \(n = 1\) のとき、\(F\) は \(1\) 個の孤立頂点だけを持つ。このとき \(|E(F)| = 0\) であり、\(P(1)\) は成り立つ。

帰納ステップ: ある \(n \geq 1\) で \(P(n)\) が成立すると仮定する。これから \(P(n + 1)\) を示す。

\(F\) が孤立頂点 \(v\) を持つとき、\(F\) から頂点 \(v\) を除去したグラフ \(F - v\) は \(n \geq 1\) 頂点の森である。よって帰納法の仮定より、\(F - v\) は \(n - |E(F - v)| = n - |E(F)|\) 個の木から構成される。\(v\) は孤立頂点なので、\(F\) は \((n + 1) - \left| E(F) \right|\) 個の木から構成される。つまり \(P(n + 1)\) は成り立つ。

\(F\) が孤立頂点を持たないとき、\(F\) の各連結成分は \(2\) 個以上の頂点を持つ。\(T\) を \(F\) の連結成分 (木) とする。補題 12.11.3 より、\(T\) には次数が \(1\) の葉 \(v\) が存在する。\(F\) から頂点 \(v\) と \(v\) に接続する唯一の辺を除去したグラフを \(F - v\) とする。頂点と辺の除去で閉路が生まれることはないので、\(F - v\) は \(n\) 頂点の森である。そして、\(F - v\) の連結成分は \(T\) を除いて \(F\) の連結成分と同じであり、\(T\) は (\(F - v\) と同様に定義される) \(T - v\) となる。特に、\(F\) と \(F - v\) は同じ個数の連結成分を持つ。

帰納法の仮定より、\(F - v\) の連結成分の個数は

\[ \begin{aligned} n - |E(F - v)| &= n - (|E(F)| - 1) \\ &= (n + 1) - |E(F)| \end{aligned} \]

と分かる。つまり \(F\) は \((n + 1) - |E(F)|\) 個の連結成分を持ち、\(P(n + 1)\) は成り立つ。

定理 12.11.6

任意のグラフ \(G\) に対して、次の条件は同値である:

  1. 有限木である。

  2. \(|V(G)| = |E(G)| + 1\) を満たす有限森である。

  3. \(|V(G)| = |E(G)| + 1\) を満たす連結有限グラフである。

証明 \(1. \longrightarrow 2. \longrightarrow 3. \longrightarrow 1.\) を示す。

12.11.3 全域木

木はそこら中にある。例えば、全ての連結グラフは同じ頂点集合を持つ木を部分グラフに持つ。この木はグラフの全域木 (spanning tree) と呼ばれる。図 \(\text{12.20}\) にグラフとその全域木の例を示す。赤い辺で示された部分グラフが全域木の一つを表す。

グラフとその全域木 (赤色)
図 12.20グラフとその全域木 (赤色)
定義 12.11.7

\(G\) をグラフとする。\(G\) と同じ頂点集合を持つ \(G\) の部分グラフを \(G\) の全域部分グラフ (spanning subgraph) と呼ぶ。木である全域部分グラフを全域木 (spanning tree) と呼ぶ。

定理 12.11.8

全ての有限連結グラフは全域木を持つ。

証明 \(G\) を有限連結グラフとする。このときグラフ \(G\) 自身は連結な全域部分グラフである。よって整列原理より、\(G\) は辺の個数が最小な連結全域部分グラフ \(T\) を持つ。定理 12.11.4 の \(\text{2.}\) より、\(T\) は木である。

12.11.4 最小重み全域木

全域木は重み付きグラフ (辺に数値が割り当てられたグラフ) を考えるとき特に興味深く重要になる。重み付きグラフの重み (weight) は辺の重みの和と定義される。例えば図 \(\text{12.21}\) \(\text{(a)}\) に示された全域木の重みは \(19\) である。

グラフ \text{(b)} に対する重み 19 の全域木 \text{(a)}
図 12.21グラフ \(\text{(b)}\) に対する重み \(19\) の全域木 \(\text{(a)}\)

一般に、重みが最も小さくなる全域木を見つけることが目標となる場合が多い。この全域木を最小重み全域木 (minimum-weight spanning tree, MST) と呼ぶ。

図 \(\text{12.21}\) \(\text{(a)}\) の全域木は図 \(\text{12.21}\) \(\text{(b)}\) のグラフの MST ではない: 図 \(\text{12.22}\) に示す重み \(17\) の全域木が存在する。このグラフに重みが \(17\) より小さい全域木は存在しないのだが、それはどうすれば証明できるだろうか? さらに、一般の連結グラフ \(G\) の MST はどうすれば構築できるだろうか? \(G\) の部分木を一つずつ全て試す方法も考えられるものの、その方法だと大規模なグラフは手に負えなくなる。

重み 17 の全域木
図 12.22重み \(17\) の全域木

これから本節では、\(G\) が連結な重み付きグラフだと仮定する。これから \(G\) の MST を構築する単純かつ一般的な方法を説明する。

定義 12.11.9

\(G\) を単純グラフとする2。\(G\) の頂点集合 \(V(G)\) の \(2\) 個のブロックへの分割を白黒彩色 (black-white coloring) と呼ぶ。白黒彩色の一方のブロックに含まれる頂点を白頂点 (white vertex) と呼び、もう一方のブロックに含まれる頂点を黒頂点 (black vertex) と呼ぶ。端点が異なる色を持つ辺を灰色辺 (gray edge) と呼ぶ。

補題 12.11.10

\(G\) が連結グラフのとき、\(G\) の全ての白黒彩色には灰色辺が存在する。

証明 分割のブロックは定義より非空である。よって \(G\) の任意の白黒彩色は少なくとも一つの白頂点と少なくとも一つの黒頂点を持つ。加えて \(G\) は連結なので、\(G\) には黒頂点から白頂点への路が存在する。その路には黒頂点と白頂点を結ぶ辺が含まれ、それが灰色辺である。

これまでに例として示してきた重み付きグラフでは、同じ重みを持つ複数の辺が存在した。これは実際の応用でもよくある。しかし、重みが全て異なると仮定すると議論が簡単になる。そこで:

これから本節では、同じ重みを持つ辺がグラフに存在しないと仮定する: つまり、異なる辺の重みは異なるとする。

全ての辺が異なる重みを持つと仮定しても一般性は失われない。なぜなら、各辺に番号を一意に割り当て、同じ重みの二辺は番号が大きい方が「重い」と定めるのと同じことだからである。

この仮定があると、MST は次の補題を使って簡単に構築できる。証明は後回しとする:

補題 12.11.11[灰色辺補題 (gray edge lemma)]

連結グラフ \(G\) の任意の白黒彩色を固定する。その彩色において重みが最小の灰色辺は \(G\) の全ての MST に含まれる。

つまりグラフ \(G\) の MST を構築するには、辺の無いグラフから始めて任意に選んだ白黒彩色における重みが最小の灰色辺を加えていけばよい。具体的には次の通りである:

一般化された最小重み灰色辺アルゴリズム
  • 頂点集合が \(G\) の頂点集合と同じで、辺集合が空集合である切り離されたグラフを \(S\) とする。

  • 次の処理を \(S\) が連結になるまで繰り返す:

    • \(S\) の同じ連結成分に含まれる全ての頂点に同じ色を割り当てる \(G\) の白黒彩色を一つ選ぶ。

    • その彩色における重みが最小の灰色辺を \(S\) に加えたグラフを新たに \(S\) とする。

定理 12.11.12

上記の「一般化された最小重み灰色辺アルゴリズム」は MST を構築して停止する。

証明 一般化された最小重み灰色辺アルゴリズムの繰り返し処理が実行されるときグラフ \(S\) は連結でないので、選択される白黒彩色は \(S\) に含まれる任意の辺の端点に同じ色を割り当てる。よって任意の灰色辺は \(S\) に含まれず、\(S\) に追加される重みが最小の灰色辺も \(S\) に含まれない。

補題 12.11.10 より選択される白黒彩色には少なくとも一つの灰色辺が存在し、従って3重みが最小の灰色辺も存在する。\(S\) に一本の灰色辺を加えると、\(S\) の連結成分の個数が \(1\) だけ減少する。よって \(G\) の頂点数を \(n\) とすれば、初期状態の \(S\) に \(n - 1\) 本の灰色を加えた時点で \(S\) は連結になって停止する。停止するとき \(S\) は \(n-1\) 本の辺を持つ連結なグラフだから、定理 12.11.6 の \(\text{3.}\) より木でもある。

灰色辺補題 (補題 12.11.11) からは、このアルゴリズムが構築する MST \(T\) の任意の辺は \(G\) の全ての MST に含まれると分かる。これは全ての MST が \(T\) と同じ辺を持つ、つまり \(T\) と等しいことを意味する。言い換えれば、\(G\) は \(T\) の他に MST を持たない:

系 12.11.13

連結グラフ \(G\) が同じ重みを持つ辺を持たないなら、\(G\) の MST は一意である。

一般化された最小重み灰色アルゴリズムの特殊ケースには名前が付いているものがある:

アルゴリズム 1[Primプリム のアルゴリズム (Prim's algorithm)]

反復ごとに、端点のちょうど一方が \(S\) に属する辺の中で最小の重みを持つものを \(S\) に加える。ただし \(S\) の頂点集合は空集合から始まり、辺を加えるたびにその両端点が加わるものとする。

Prim のアルゴリズムは \(S\) の頂点を白く、それ以外の頂点を黒く塗る白黒彩色を常に用いる特殊ケースである。この白黒彩色における灰色辺の端点はちょうど一方が \(S\) に属する。

アルゴリズム 2[Kruskalクラスカル のアルゴリズム (Kruskal's algorithm)]

反復ごとに、\(S\) に追加しても閉路が生じない辺の中で最小の重みを持つものを \(S\) に加える。

「辺 \(e\) を \(S\) に追加したとき閉路が生じない」と「\(e\) の両端点が \(S\) の異なる成分に属する」は同値である。つまり Kruskal のアルゴリズムでは、\(S\) の異なる連結成分を結ぶ辺の中で重みが最小のものが追加される。

アルゴリズム 3

反復ごとに、\(S\) の成分を任意に選び、端点のちょうど一方がその成分に属する辺の中で重みが最小のものを \(S\) に加える。

このアルゴリズムでは、離れた場所にある連結成分を並列かつ独立に成長させることができる。これは限られた通信しかできない複数のプロセッサが個別に処理を進める分散計算で役立つ性質である4

最後に補題 12.11.11 を証明しよう。ある白黒彩色で重みが最小の灰色辺は必ず全ての MST に含まれることを示すために、次の補題を証明する:

補題 12.11.14[灰色辺交換補題 (gray edge swap lemma)]

\(G\) を重み付き連結グラフとする。ある \(G\) の白黒彩色において、重みが最小の灰色辺が \(e\) だったと仮定する。\(G\) の連結全域部分グラフ \(C\) が \(e\) を含まないなら、次の条件を満たす辺 \(g\) が存在する:

  • \(\operatorname{weight}(e) < \operatorname{weight}(g)\)
  • \(C - g + e\) が連結である。ここで \(C - g + e\) は \(C\) の辺集合から \(g\) を除去して \(e\) を加えたとき得られるグラフを表す。

証明 重みが最小の灰色辺が \(e\) である白黒彩色を固定する。\(C\) は連結な全域グラフなので、\(e\) の両端点を結ぶ路 \(\textbf{p}\) が \(C\) に存在する。この路 \(\textbf{p}\) は異なる色が塗られた二点 (\(e\) の両端点) を結ぶので、灰色の辺 \(g \neq e\) を少なくとも一つ含む。\(e\) は重みが最小の灰色辺より \(\operatorname{weight}(e) < \operatorname{weight}(g)\) が成り立つ。

続いて \(\textbf{p} + e\) が閉路である事実に注目する。この閉路から \(g\) を除去したとしても、\(g\) の両端点は閉路の残りの部分で接続される。これは \(C - g + e\) が連結であることを意味する。つまり、この \(g\) は二つの条件を満たす。

灰色辺補題 (補題 12.11.11) は灰色辺交換補題 (補題 12.11.14) から直ちに得られる: \(C\) が \(G\) の全域木で \(e\) を含まないとき、\(C - g + e\) は \(C\) より重みが小さい全域木となる。よって \(C\) は \(e\) を含まない限り MST になれない。

参考文献

[9], [15], [24], [27], [29]


  1. 証明で有限性が使われていないことを確認してみよ。 ↩︎

  2. 訳注: この定義および以降の議論では、\(G\) が \(2\) 個以上の頂点を持つことが仮定されている。 ↩︎

  3. ...有限集合に対する整列原理 (補題 2.4.5) より。 ↩︎

  4. 全域木を並列に成長させるアイデアは 1925 年にチェコ人数学者 Otakarオタカール Borůvkaブルーフカ によって始めて考案されたものと思われる。1995 年には Kargerカーガー, Kleinクライン, Tarjanタージャン が \(O(\log |V|)\) の並列時間で実行できる効率的な MST アルゴリズムを発表した。 ↩︎

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