19.6 真に大いなる期待値

公平なコインを独立に何回も投げて、特定のパターンが得られたら止める試行はこれまでに何度も考えてきたのでお手の物に違いない。この試行を使ったギャンブルをしよう。著者らが提案するギャンブルなんて信用できない? では、これならどうだろう: あなたがオッズを好きに決めて構わない。

19.6.1 過去の自分を上回る

そのギャンブルは次の通りである: まず、公平なコインを表が出るまで独立に投げる試行を行う。表が出たら、もう一度同じ試行を繰り返す。ただし、もう一度表が出るまでに裏が出る回数が最初の試行より少なかったら、さらにもう一度繰り返して以下同様とする。最初の試行より多い回数だけ連続で裏が出たら、そこでコインを投げるのを止める。あなたは試行を繰り返すたびに著者に \(1\) セントを支払い、最初の試行より多くの裏が出てコインを投げるのを止めたら著者があなたに大金を支払う。このギャンブルであなたは確実に大金を手にできることに注意してほしい ── 試行は何度でも繰り返せるので、最初の試行で裏が何回出たとしても、以降の試行でそれより多く裏が出る確率は \(1\) である!

例えば、最初の試行の結果が \(\texttt{TTTH}\) だったとする。このとき、それからは裏が \(4\) 回連続で出るまで試行が繰り返される。例えば、ギャンブルが終了するまでのコイン投げの結果の列は次のようになるかもしれない:

\[ \texttt{TTTHTHTTHHTTHTHTTTHTHHHTTTT} \]

この列に \(\texttt{H}\) は \(10\) 個含まれるので、試行は \(9\) 回繰り返されている。よって、あなたは著者らに \(9\) セント支払ってから最後に大金を手にすることになる。では、この「大金」はいくらに設定すべきだろうか? \(25\) セントで十分だろうか? 大事を取って \(1\) ドル、あるいは \(1000\) ドルにするべきだろうか?

もちろん、このギャンブルには罠がある。期待収益を計算してみよう。

最初の試行で裏が連続で \(k\) 回出たと仮定する。その後、表が出るたびに試行をやり直しながら裏が連続で \(k + 1\) 回出るまでコイン投げが続く。裏が連続で \(k + 1\) 回出ることを「障害」とみなし、試行をやり直すことを「正常動作」の \(1\) ステップとみなせば、やり直しの回数は「初めて障害が起きるまでのステップ数」に等しい。よって、やり直しの回数の期待値は \(2^{k+1}\) だと分かる: 裏が連続で \(k + 1\) 回出る確率は \(2^{-(k+1)}\) なので、その逆数を取ればよい (補題 19.4.8)。

最初の試行で裏が出る回数を表す確率変数を \(T\) として、ゲームが終わるまでに試行がやり直される回数を表す確率変数を \(R\) とする。このとき、ギャンブルの期待収益は最後に得られる「大金」から \(\operatorname{Ex}[R]\) を引いた値となる。\(\operatorname{Ex}[R]\) は \(T\) の値に関する条件付き期待値を考えると簡単に計算できる:

\[ \begin{aligned} \operatorname{Ex}[R] &= \sum_{k \in \mathbb{N}} \operatorname{Ex}[R \, | \, T = k]\ \operatorname{Pr}[T = k] \\ &= \sum_{k \in \mathbb{N}} 2^{k+1}\ 2^{-(k+1)} \\ &= 1 + 1 + 1 + \cdots = \infty \end{aligned} \]

よって、あなたは「大金」を得る前に \(1\) セントを無限回支払うことになる。「大金」をどれだけ大きく設定しても、このギャンブルが公平になることはない! 実は、これは次の驚くべき一般的事実の特殊例に過ぎない: 任意の実数値確率変数について、初回でサンプルされた値を上回るまでサンプルを続けるとき、生成されるサンプルの個数の期待値は無限大となる。

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