§217 複素数の関数 (その 1)

第三章では複素変数 \[ z = x + iy \] を定義し1、多項式 \(P(z)\) などの \(z\) を使った式のクラスの簡単な性質を考察した。こういった式を \(z\) の関数とみなすのが自然であり、実際多項式 \(P(z)\) と \(Q(z)\) に対する \(P(z)/Q(z)\) は「有理関数」と説明されていた。しかし \(z\) の関数の一般的な定義は与えていない。

複素変数 \(z\) の関数を実変数 \(x\) の関数と同様に定義すればいいと思うかもしれない。つまり \(Z\) が \(z\) の関数であることを、\(z\) と \(Z\) の間に関係が存在して、全てまたは一部の \(z\) に対応する \(Z\) が一つまたは複数存在することとして定義するのである。しかし詳しく考察すると、この定義からは何も得られないことが分かる。というのも、\(z\) が与えられるとき \(x\) と \(y\) も与えられ、その逆も成り立つ: \(z\) に値を割り当てるとは、\(x\) と \(y\) の組に値を割り当てるのと等しい。つまりこの定義における “\(z\) の関数” は 二つの実変数 \(\bm{x}\) と \(\bm{y}\) に関する複素関数 \[ f(x, y) + ig(x, y) \] と同じになる。例えば \[ x - iy,\quad xy,\quad |z| = \sqrt{x^{2} + y^{2}},\quad \arg z = \arctan \frac{y}{x} \] はどれも “\(z\) の関数” となる。この定義に何も問題はないものの、新しい概念を全く定義しておらず、不毛と言える。よって “複素変数 \(z\) の関数” という言葉をもっと制限された意味で使うのが望ましい。つまりこの言葉は二つの実変数 \(x,\ y\) の複素関数からなる一般的なクラスではなく、その一部である特別なクラスを表し、そのクラスに含まれる式は何らかの制限を受けるべきである。しかしこの関数の選び方あるいは特別なクラスに選ばれた関数が持つ性質を説明しようとすると、本書の範囲を超えてしまう。そのため一般的な定義は与えずに、直接的に定義される特殊な関数だけをこれから考えることにする。


  1. 本章では基本的に \(x + yi\) ではなく \(x + iy\) と表記した方が都合がいい。[return]