§190 複素級数

ここまでは全ての項が実数の級数だけを考えてきた。続いて \[ \sum u_{n} = \sum (v_{n} + iw_{n}) \] という形の級数を考える。ここで \(u_{n}\) と \(w_{n}\) は実数とする。もちろんこういった級数を考えても、何か全く新しい概念が必要になるわけではない。例えば級数が収束するための必要十分条件は、二つの級数 \[ \sum v_{n},\quad \sum w_{n} \] が両方とも収束することである。しかし重要な複素級数のクラスが一つあるので、それについては紙面を割いて説明する。§184 な自然な拡張として、次のように定義する:

級数 \(\sum u_{n} = \sum (v_{n} + iw_{n})\) が絶対収束する (converge absolutely) とは、級数 \(\sum v_{n}\) と \(\sum w_{n}\) が両方とも絶対収束することを言う。

\(\sum u_{n}\) が絶対収束するための必要十分条件は、\(\sum |u_{n}| = \sum \sqrt{v_{n}^{2} + w_{n}^{2}}\) が収束することである。

証明は次の通り。\(\sum u_{n}\) が絶対収束するなら \(\sum |v_{n}|\) と \(\sum |w_{n}|\) はどちらも収束し、したがって \(\sum \{|v_{n}| + |w_{n}|\}\) も収束する。よって \[ |u_{n}| = \sqrt{v_{n}^{2} + w_{n}^{2}} \leq |v_{n}| + |w_{n}| \] より \(\sum |u_{n}|\) も収束する。一方で \[ |v_{n}| \leq \sqrt{v_{n}^{2} + w_{n}^{2}},\quad |w_{n}| \leq \sqrt{v_{n}^{2} + w_{n}^{2}} \] だから、\(\sum |u_{n}|\) が収束するなら必ず \(\sum |v_{n}|\) と \(\sum |w_{n}|\) も収束する。

絶対収束する複素級数は収束することは、実部と虚部が別々に収束する事実から容易に分かる。さらにディリクレの定理 (§169) は簡単に複素数へ拡張でき、\(\sum v_{n}\) と \(\sum w_{n}\) という級数を別々に考えれば証明できる。

絶対収束する級数の収束性は収束の基本原則を使って直接示すこともできる (参考: 例 77.1)。これは読者への練習問題とする。

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