§155 微分小

微積分の応用、特に幾何学への応用では、§154 の式 \(\text{(1)}\) のような \(x,\ y,\ z\) の関数の増分 \(\delta x,\ \delta y,\ \delta z\) を使った式を使うよりも、\(dx,\ dy,\ dz\) で表される微分小 (differential) と呼ばれるものを使った式の方が便利な場合が多い。

しばらく一つの変数 \(x\) の関数 \(y = f(x)\) に話を戻す。\(f'(x)\) が連続なら、 \[ \delta y = \{f'(x) + \varepsilon\}\, \delta x \qquad \text{(1)} \] とすれば \(\delta x \to 0\) のとき \(\varepsilon \to 0\) が成り立つ。この事実を言い換えれば、等式 \[ \delta y = f'(x)\, \delta x \hphantom{\{{} + \varepsilon\}} \qquad \text{(2)} \] が「近似的に」正しい、ということになる。これまでは \(dy\) という単一の記号に意味を与えてこなかったが、ここで次の等式を使って \(dy\) を定義する: \[ dy = f'(x)\, \delta x \qquad \text{(3)} \]

\(x\) という具体的な関数を \(y\) として選べば \[ dx = \delta x \qquad \text{(4)} \] を得る。ここから \[ dy = f'(x)\, dx \qquad \text{(5)} \] が分かる。\(\text{(5)}\) の両辺を \(dx\) で割れば \[ \frac{dy}{dx} = f'(x) \qquad \text{(6)} \] となる。この \(dy/dx\) はこれまでのように \(y\) の微分係数を意味しているのではなく、二つの微分小の商を意味している。この結果として \(dy/dx\) という記号が二つの意味を持つことになったが、等式 \(\text{(6)}\) はどちらの意味であっても正しいので、何も問題は起こらない。

式 \(\text{(5)}\) には式 \(\text{(2)}\) と比べて二つの利点がある。まず \(\text{(5)}\) は近似ではなく正確な等式であり、その正しさに \(f'(x)\) の連続性が関係しない。反対に \(\text{(5)}\) の正確な等式から近似の等式 \(\text{(2)}\) へ変形が (特定の条件の下で) 可能であるというのは確実に言えるので、\(\text{(5)}\) がより重要となる。この「微分小」を使った記法の利点は純粋に技術的なものである。しかし特に複数の変数の関数を扱うときにこの技術的な利点が非常に大きくなるので、こういった記法の使用はまず避けられない。

\(f'(x)\) が連続なら、\(\delta x \to 0\) のとき \[ \lim \frac{dy}{\delta y} = 1 \] が成り立つ。この事実を指して「\(\delta x\) が小さいとき \(dy\) が \(\delta y\) の主部 (principal part) である」と表現することがある。「\(x\) が小さいとき \(ax\) は \(ax + bx^{2}\) の主部である」などと言うのと同様である。

これに対応する定義を二つの独立変数 \(x\) と \(y\) の関数 \(z\) に対しても考える。\(dz\) は次の等式で定義する: \[ dz = f_{x}'\, \delta x + f_{y}'\, \delta y \qquad \text{(7)} \] \(z = x\) および \(z = y\) を代入すれば \[ dx = \delta x,\quad dy = \delta y \qquad \text{(8)} \] が得られ、ここから \[ dz = f_{x}'\, dx + f_{y}'\, dy \qquad \text{(9)} \] が分かる。これは §154 の \(\text{(1)}\) に示した近似の式に対応する正確な形の等式と言える。ここでも同じ理由によりこの正確な等式が使われる。つまり実用上便利なことと、近似の式は正確な式から導けるというただそれだけの理由に過ぎない。

\(\text{(9)}\) には注目すべき性質が一つある。§153 で見たように、もし \(x\) と \(y\) が独立しておらず \(t\) という一つの変数の関数なら、\(z\) も \(t\) だけの関数であり \[ \frac{dz}{dt} = \frac{\partial f}{\partial x}\, \frac{dx}{dt} + \frac{\partial f}{\partial y}\, \frac{dy}{dt} \] が成り立つ。この等式の両辺に \(dt\) を乗じ、さらに \[ dx = \frac{dx}{dt}\, dt,\quad dy = \frac{dy}{dt}\, dt,\quad dz = \frac{dz}{dt}\, dt \] を使うと \[ dz = f_{x}'\, dx + f_{y}'\, dy \] が得られるが、これは \(\text{(9)}\) と同じ形をしている。つまり \(\bm{dz}\) を \(\bm{dx}\) と \(\bm{dy}\) で表した等式は、\(\bm{x}\) と \(\bm{y}\) が独立でも独立でなくても変わらない。この事実は応用において非常に重要となる。

また \(z\) が二つの独立変数 \(x\) と \(y\) の関数で \[ dz = \lambda\, dx + \mu\, dy \] なら \(\lambda = f_{x}',\ \mu = f_{y}'\) となることも分かる。§154 の最後の段落から容易に示せる。

ここまで三つの節を使って説明してきた定理や定義は、任意個数の変数の関数へと自明に拡張できる。

例 62
  1. 楕円の半軸を \(a,\ b\) とすると、面積は \(A = \pi ab\) で与えられる。 \[ \frac{dA}{A} = \frac{da}{a} + \frac{db}{b} \] を示し、さらに軸の増分と面積に関する近似的な等式を求めよ。

  2. 三角形 \(ABC\) の面積 \(\Delta\) を、(i) \(a,\ B,\ C,\ \) (ii) \(A,\ b,\ c,\ \) (iii) \(a,\ b,\ c\) の関数として表せ。さらに外接円の半径を \(R\) として \[ \begin{aligned} \frac{d\Delta}{\Delta} & = 2\frac{da}{a} + \frac{c\, dB}{a\sin B} + \frac{b\, dC}{a\sin C},\\ \frac{d\Delta}{\Delta} & = \cot A\, dA + \frac{db}{b} + \frac{dc}{c},\\ d\Delta & = R(\cos A\, da + \cos B\, db + \cos C\, dc) \end{aligned} \] を示せ。

  3. 三角形の面積を一定に保ったまま辺の長さを変化させるとき、\(a\) は \(b\) と \(c\) の関数とみなせる。このとき \[ \frac{\partial a}{\partial b} = -\frac{\cos B}{\cos A},\quad \frac{\partial a}{\partial c} = -\frac{\cos C}{\cos A} \] を示せ。

    [等式 \[ da = \frac{\partial a}{\partial b}\, db + \frac{\partial a}{\partial c}\, dc,\quad \cos A\, da + \cos B\, db + \cos C\, dc = 0 \] から従う]

  4. \(R\) を定数に保ったまま \(a,\ b,\ c\) が変化するなら \[ \frac{da}{\cos A} + \frac{db}{\cos B} + \frac{dc}{\cos C} = 0 \] が成り立ち、さらに \[ \frac{\partial a}{\partial b} = -\frac{\cos A}{\cos B},\quad \frac{\partial a}{\partial c} = -\frac{\cos A}{\cos C} \] となる。

    [等式 \(a = 2R\sin A,\ \ldots\) と \(R\) および \(A + B + C\) が定数である事実を使う]

  5. \(z\) が \(u\) と \(v\) の関数で、\(u\) と \(v\) が \(x\) と \(y\) の関数とする。このとき \[ \frac{\partial z}{\partial x} = \frac{\partial z}{\partial u}\, \frac{\partial u}{\partial x} + \frac{\partial z}{\partial v}\, \frac{\partial v}{\partial x},\quad \frac{\partial z}{\partial y} = \frac{\partial z}{\partial u}\, \frac{\partial u}{\partial y} + \frac{\partial z}{\partial v}\, \frac{\partial v}{\partial y} \] が成り立つ。

    [仮定から \[ dz = \frac{\partial z}{\partial u}\, du + \frac{\partial z}{\partial v}\, dv,\quad du = \frac{\partial u}{\partial x}\, dx + \frac{\partial u}{\partial y}\, dy,\quad dv = \frac{\partial v}{\partial x}\, dx + \frac{\partial v}{\partial y}\, dy \] が分かる。最初の等式の \(du\) と \(dv\) に後ろの二つの等式を代入し、 \[ dz = \frac{\partial z}{\partial x}\, dx + \frac{\partial z}{\partial y}\, dy \] と比較すれば求めたい式が得られる]

  6. \(z\) を \(x\) と \(y\) の関数として、\(X,\ Y,\ Z\) を次の等式で定義する: \[ x = a_{1} X + b_{1} Y + c_{1} Z,\quad y = a_{2} X + b_{2} Y + c_{2} Z,\quad z = a_{3} X + b_{3} Y + c_{3} Z \] このとき \(Z\) は \(X\) と \(Y\) の関数として表せる。\(\partial Z/\partial X\) と \(\partial Z/\partial Y\) を \(\partial z/\partial x\) と \(\partial z/\partial y\) を使って表せ。 [これらの微分係数を \(P,\ Q\) および \(p,\ q\) と表記する。このとき \(dz - p\, dx - q\, dy = 0\) であり、ここから \[ (c_{1} p + c_{2} q - c_{3})\, dZ + (a_{1} p + a_{2} q - a_{3})\, dX + (b_{1} p + b_{2} q - b_{3})\, dY = 0 \] が分かる。これを \(dZ - P\, dX - Q\, dY = 0\) と比較すれば \[ P = -\frac{a_{1}p + a_{2}q - a_{3}}{c_{1}p + c_{2}q - c_{3}},\quad Q = -\frac{b_{1}p + b_{2}q - b_{3}}{c_{1}p + c_{2}q - c_{3}} \] を得る]

  7. 前問の設定に加えて \[ (a_{1} x + b_{1} y + c_{1} z)p + (a_{2} x + b_{2} y + c_{2} z)q = a_{3} x + b_{3} y + c_{3} z \] が成り立つなら \[ (a_{1} X + b_{1} Y + c_{1} Z) P + (a_{2} X + b_{2} Y + c_{2} Z) Q = a_{3} X + b_{3} Y + c_{3} Z \] である。

    (Math. Trip. 1899.)

  8. 陰関数の微分: \(f(x, y)\) と \(f_{y}'(x, y)\) が点 \((a, b)\) の近傍で連続とする。さらに \[ f(a, b) = 0,\quad f_{b}'(a, b) \neq 0 \] なら、\(f_{y}'(x, y)\) の符号が同一な \((a, b)\) の近傍が存在する。例として \(f_{y}'(x, y)\) が \((a, b)\) の近くで正である場合を考える。このとき \(a\) に十分近い \(x\) と \(b\) に十分近い \(y\) で \(f(x, y)\) は \(y\) の狭義単調増加関数となる (§96)。よって §108 の定理から、\(x = a\) では \(b\) に等しく \(x\) が \(a\) に近いときには等式 \(f(x, y) = 0\) が成り立つような連続関数 \(y\) が存在する。

    さらに \(f(x, y)\) が \((a, b)\) の近傍で連続な \(f_{x}'(x, y)\) を持つとする。このとき \(f(x, y) = 0,\ x = a + h,\ y = b + k\) とすれば \[ 0 = f(x, y) - f(a, b) = (f_{a}' + \varepsilon) h + (f_{b}' + \eta) k \] であり、\(h\) と \(k\) が \(0\) に向かうとき \(\varepsilon\) と \(\eta\) は \(0\) に向かう。よって \[ \frac{k}{h} = -\frac{f_{a}' + \varepsilon}{f_{b}' + \eta} \to -\frac{f_{a}'}{f_{b}'} \] つまり \[ \frac{dy}{dx} = -\frac{f_{a}'}{f_{b}'} \] が成り立つ。

  9. 曲線 \(f(x, y) = 0\) 上の点 \((x_{0}, y_{0})\) における接線の方程式は \[ (x - x_{0}) f_{x_{0}}'(x_{0}, y_{0}) + (y - y_{0}) f_{y_{0}}'(x_{0}, y_{0}) = 0 \] である。