§160 定積分の性質

定積分は次に示す重要な性質を持つ1

  1. \(\displaystyle\int_{a}^{b} f(x)\, dx = -\int_{b}^{a} f(x)\, dx\)

    これは \(F(x)\) を使った積分の定義から直ちに従う。つまり \(F(b) - F(a) = -\{F(a) - F(b)\}\) である。和を使った直接的な定義では上端が下端より大きいことが仮定されており、この定義は \(a \lt b\) のときの \(\displaystyle\int_{b}^{a} f(x)\, dx\) に適用できない。和を使った定義を基礎的なものとみなすなら、等式 \(\text{(1)}\) を右辺の定義とみなして定義を拡張する必要がある。

  2. \(\displaystyle\int_{a}^{a} f(x)\, dx = 0\)

  3. \(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)\, dx + \int_{b}^{c}f(x)\, dx = \int_{a}^{c}f(x)\, dx\)

  4. \(\displaystyle\int_{a}^{b}kf(x)\, dx = k \int_{a}^{b}f(x)\, dx\)

  5. \(\displaystyle\int_{a}^{b}\{f(x) + \phi(x)\}\, dx = \int_{a}^{b}f(x)\, dx + \int_{a}^{b}\phi(x)\, dx\)

こういった性質のきちんとした証明を書けば積分の理解が深まるだろう。不定積分を使った定義と和を使った直接的な定義の両方から示すとよい。次の関係も重要である:

  1. \(a \leq x \leq b\) で \(f(x) \geq 0\) なら \(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)\, dx \geq 0\) が成り立つ。

    §156 の和 \(s\) が負にならないと示すだけで済む。第七章に関するその他の例 41 ではこの条件の下では \(f(x)\) が常に \(0\) でない限り積分が \(0\) にならないことを示す。この事実は §121 の系 2 からも示せる。

  2. \(a \leq x \leq b\) で \(H \leq f(x) \leq K\) なら次が成り立つ: \[ H(b - a) \leq \int_{a}^{b}f(x)\, dx \leq K(b - a) \]

    \(f(x) - H\) と \(K - f(x)\) に対して \(\text{(6)}\) を適用すれば直ちに得られる。

  3. \(a\) と \(b\) の間にある \(\xi\) で \(\displaystyle\int_{a}^{b}f(x)\, dx = (b-a)f(\xi)\) が成り立つ。

    これは \(\text{(7)}\) を使えば示せる。\([a, b]\) における \(f(x)\) の最大値を \(H\) として最小値を \(K\) とすれば、積分の値は \(H\) と \(K\) の間の値 \(\eta\) を使って \(\eta(b - a)\) となる。\(f(x)\) は連続だから、\(f(\xi) = \eta\) を満たす \(\xi\) が存在する (§100)。

    \(f(x)\) の不定積分を \(F(x)\) とすれば、\(\text{(8)}\) は \[ F(b) - F(a) = (b - a)F'(\xi) \] と書ける。つまり \(\text{(8)}\) は §125 で説明した平均値の定理の別表現である。\(\text{(8)}\) の等式を積分に対する平均値の定理 (First Mean Value Theorem for Integrals) と呼ぶ。

  4. 積分に対する一般化された平均値の定理: \(\phi(x)\) が \([a, b]\) で常に正だとする。\(\text{(7)}\) と同じように \(H\) と \(K\) を定めると、 \[ H\int_{a}^{b} \phi(x)\, dx \leq \int_{a}^{b} f(x)\phi(x)\, dx \leq K\int_{a}^{b} \phi(x)\, dx \] および \[ \int_{a}^{b} f(x)\phi(x)\, dx = f(\xi) \int_{a}^{b} \phi(x)\, dx \] が成り立つ。ここで \(\xi\) は \(\text{(8)}\) と同様とする。

    \(\text{(6)}\) を次の積分に対して適用すれば得られる: \[ \int_{a}^{b} \{f(x) - H\}\phi(x)\, dx,\quad \int_{a}^{b} \{K - f(x)\}\phi(x)\, dx \] \(\phi(x)\) が常に負である場合に対応する結果を自分で書いてみるとよい。

  5. 積分の基本定理: 関数 \[ F(x) = \int_{a}^{x} f(t)\, dt \] の導関数は \(f(x)\) に等しい。

    これは前に §145 で示したが、ここできちんと述べておいた方がいいだろう。§157 でも指摘したように、この系として \(\bm{F(x)}\) は \(\bm{x}\) の連続関数だと分かる。

例 65
  1. 和を使った直接的な定積分の定義と上述の結果 \(\text{(1)}\) – \(\text{(5)}\) を使って次を示せ:

    1. \(\displaystyle\int_{-a}^{a} \phi(x^{2})\, dx = 2\int_{0}^{a} \phi(x^{2})\, dx,\quad \displaystyle\int_{-a}^{a} x\phi(x^{2})\, dx = 0\)
    2. \(\displaystyle\int_{0}^{\frac{1}{2}\pi} \phi(\cos x)\, dx = \int_{0}^{\frac{1}{2} \pi} \phi(\sin x)\, dx = \dfrac{1}{2} \int_{0}^{\pi} \phi(\sin x)\, dx\)
    3. \(\displaystyle\int_{0}^{m\pi} \phi(\cos^{2} x)\, dx = m\int_{0}^{\pi} \phi(\cos^{2} x)\, dx\quad \) (\(m\) は整数)

    [積分記号の中にある関数のグラフを描けば、これらの結果は幾何学的に分かる]

  2. 積分 \(\displaystyle\int_{0}^{\pi} \frac{\sin nx}{\sin x}\, dx\) の値は \(n\) が奇数のとき \(\pi\) で \(n\) が偶数のとき \(0\) だと示せ。 [等式 \((\sin nx)/(\sin x) = 2\cos \{(n - 1)x\} + 2\cos \{(n - 3)x\} + \cdots\) を使う。最後の項が \(1\) または \(2\cos x\) となる]

  3. 積分 \(\displaystyle\int_{0}^{\pi} \sin nx \cot x\, dx\) の値は \(n\) が奇数のとき \(0\) で \(n\) が偶数のとき \(\pi\) だと示せ。

  4. \(\phi(x) = a_{0} + a_{1}\cos x + b_{1}\sin x + a_{2}\cos 2x + \cdots + a_{n}\cos nx + b_{n}\sin nx\) とする。\(n\) 以下の正の整数 \(k\) に対して \[ \int_{0}^{2\pi} \phi(x)\, dx = 2\pi a_{0},\ {} \int_{0}^{2\pi} \cos kx \phi(x)\, dx = \pi a_{k},\ {} \int_{0}^{2\pi} \sin kx \phi(x)\, dx = \pi b_{k} \] だと示せ。\(k \gt n\) なら後ろの二つの積分の値は \(0\) となる。 [例 63.9 を使う]

  5. \(\phi(x) = a_{0} + a_{1} \cos x + a_{2}\cos 2x + \cdots + a_{n}\cos nx\) とする。\(n\) 以下の正の整数 \(k\) に対して \[ \int_{0}^{\pi} \phi(x)\, dx = \pi a_{0},\quad \int_{0}^{\pi} \cos kx \phi(x)\, dx = \dfrac{1}{2}\pi a_{k} \] だと示せ。\(k \gt n\) なら最後の積分の値は \(0\) となる。 [例 63.10 を使う]

  6. \(a\) と \(b\) が正なら \[ \int_{0}^{2\pi} \frac{dx}{a^{2}\cos^{2} x + b^{2}\sin^{2} x} = \frac{2\pi}{ab} \] だと示せ。[例 63.8 とこの例の問題 1 を使う]

  7. \(a \leq x \leq b\) で \(f(x) \leq \phi(x)\) なら \(\displaystyle\int_{a}^{b} f\, dx \leq \int_{a}^{b}\phi\, dx\) が成り立つ。

  8. 次を示せ: \[ \begin{alignedat}{2} 0 & \lt \int_{0}^{\frac{1}{2}\pi} \sin^{n+1}x\, dx & & \lt \int_{0}^{\frac{1}{2}\pi} \sin^{n}x\, dx,\\ 0 & \lt \int_{0}^{\frac{1}{4}\pi} \tan^{n+1}x\, dx & & \lt \int_{0}^{\frac{1}{4}\pi} \tan^{n}x\, dx \end{alignedat} \]

  9. \(n \gt 1\) なら次の不等式が成り立つ2: \[ .5 \lt \int_{0}^{\frac{1}{2}} \frac{dx}{\sqrt{1 - x^{2n}}} \lt .524 \]

    [\(\sqrt{1 - x^{2n}} \lt 1\) と \(\sqrt{1 - x^{2n}} \gt \sqrt{1 - x^{2}}\) から分かる]

  10. 次を示せ: \[ \dfrac{1}{2} \lt \int_{0}^{1} \frac{dx}{\sqrt{4 - x^{2} + x^{3}}} \lt \dfrac{1}{6}\pi \]

  11. \(0 \lt x \lt 1\) なら \(\dfrac{3x + 8}{16} \lt \dfrac{1}{\sqrt{4 - 3x + x^{3}}} \lt \dfrac{1}{\sqrt{4 - 3x}}\) だと示し、そこから次を示せ: \[ \dfrac{19}{32} \lt \int_{0}^{1} \frac{dx}{\sqrt{4 - 3x + x^{3}}} \lt \dfrac{2}{3} \]

  12. 次を示せ: \[ .573 \lt \int_{1}^{2} \frac{dx}{\sqrt{4 - 3x + x^{3}}} \lt .595 \]

    [\(x = 1 + u\) として、\(2 + 3u^{2} + u^{3}\) を \(2 + 4u^{2}\) および \(2 + 3u^{2}\) と置き換える]

  13. \(\alpha\) と \(\phi\) を正の鋭角とする。このとき \[ \phi \lt \int_{0}^{\phi} \frac{dx}{\sqrt{1 - \sin^{2}\alpha \sin^{2} x}} \lt \frac{\phi}{\sqrt{1 - \sin^{2}\alpha \sin^{2}\phi}} \] が成り立つ。もし \(\alpha = \phi = \frac{1}{6}\pi\) なら、積分の値は \(.523\) と \(.541\) の間にある。

  14. 次を示せ: \[ \left|\int_{a}^{b} f(x)\, dx\right| \leq \int_{a}^{b}|f(x)|\, dx \]

    [§156 の最後で考えた和 \(\sigma\) について、\(|f(x)|\) に対応する同じ和 \(\sigma'\) を考えれば \(|\sigma| \leq \sigma'\) が成り立つ]

  15. \(|f(x)| \leq M\) のとき次の不等式が成り立つ: \[ \left|\int_{a}^{b} f(x)\phi(x)\, dx\right| \leq M\int_{a}^{b}|\phi(x)|\, dx \]


  1. ここからの等式に登場する関数はもちろん連続とする。定積分は連続関数に対してしか定義されない。[return]

  2. 問題 9–13 はギブソン教授による Elementary Treatise on the Calculus から取った。[return]

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