§89 \(x → ∞\) の極限

連続実変数の関数に話を戻そう。これからは一価関数だけに話を限定し1、考える関数を \(\phi(x)\) とする。\(x\) が基準直線 \(\Lambda\) 上の全ての点に対応する値を順に取るとして、考える点が固定された点から右に向かって止まることなく移動する様子を考える。このような状況を「\(x\) が無限大に向かう」あるいは「\(x\) が \(\infty\) に向かう」と言い、\(x \to \infty\) と表す。前章で議論した「\(n\) が \(\infty\) に向かうとき」との唯一の違いは、\(x\) が \(\infty\) に向かうときに全ての値を取る点にある。つまり \(x\) が \(\infty\) に向かうとき、\(x\) として考える値には \(\Lambda\) 上で最初の点から右にある全ての点が対応する。これに対して \(n\) が \(\infty\) に向かうときは対応する点が飛び飛びだった。この事実を「\(x\) は連続的に (continuously) \(\infty\) に向かう」と表現する。

前章の最初で説明したように、\(x\) の関数と \(n\) の関数には非常に密接な対応関係がある。例えば全ての \(n\) の関数は \(x\) の関数の整数に対応する値を取ってきたものとみなせる。\(n\) が \(\infty\) に向かうときの \(\phi(n)\) の振る舞いを特徴付ける特殊な性質を前章で見た。この章では同じ問題を \(\phi(x)\) について考えるが、登場する定義や定理は前章の繰り返しとなる。例えば §58 の定義には次の定義が対応する:

\(x\) が \(\infty\) に向かうときに 関数 \(\phi(x)\) が極限 \(l\) に向かうとは、任意の正の実数 \(\varepsilon\) について、\(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(x_{0}(\varepsilon)\) 以上の全ての \(x\) について \(\phi(x)\) と \(l\) の差が \(\varepsilon\) より小さい、つまり \[ |\phi(x) - l| \lt \varepsilon \] が成り立つように \(x_{0}(\varepsilon)\) を選べることを言う。

このとき次のように書く: \[ \lim_{x \to \infty} \phi(x) = l \] 意味が曖昧にならないなら \(\lim\phi(x) = l\) あるいは \(\phi(x) \to l\) と書く場合もある。また次の定義も得られる:

関数 \(\phi(x)\) が \(x\) と共に \(\infty\) に向かうとは、任意の実数 \(\Delta\) について、\(\Delta\) がどれだけ大きくとも、全ての \(x \geq x_{0}(\Delta)\) で \[ \phi(x) \gt \Delta \] が成り立つように \(x_{0}(\Delta)\) を選べることを言う。

このとき \[ \phi(x) \to \infty \] と書く。同様に \(\phi(x) \to -\infty\) も定義する2。最後に振動を定義する:

これまでの二つの定義のどちらにも当てはまらないとき、\(\phi(x)\) は \(x\) が \(\infty\) に向かうとき振動すると言う。\(x \geq x_{0}\) で \(|\phi(x)|\) が定数 \(K\) より小さいなら \(\phi(x)\) は有限に振動すると言い3、そうでないなら無限に振動するという。

前章では \(\phi(n) \to l\) や \(\phi(n) \to \infty\) という式と同じ事実を表すくだけた表現について非常に詳しく説明した。これからは第四章と同じ意味で「小さい」「ほぼ等しい」「大きい」といった言葉を使い、「\(x\) が大きいとき \(\phi(x)\) が \(l\) に小さい (ほぼ等しい)」などと言うことにする。

例 34
  1. 次の関数の \(x \to \infty\) における振る舞いを調べよ: \[ \dfrac{1}{x},\quad 1 + \dfrac{1}{x},\quad x^{2},\quad x^{k},\quad [x],\quad x - [x],\quad [x] + \sqrt{x - [x]} \]

    最初の四つの関数は第四章で考えた \(n\) の関数と同様に振る舞う。最後の三つのグラフは 例 16 1, 2, 4 で考えた。\([x] \to \infty\) および \(x - [x]\) が有限に振動すること、そして \([x] + \sqrt{x - [x]} \to \infty\) はグラフから容易に分かる。

    興味深い事実を一つ述べる。グラフから分かる通り関数 \(\phi(x) = x - [x]\) は \(0\) と \(1\) の間で振動する。しかし \(x\) が整数のとき \(\phi(x)\) は \(0\) なので、整数関数 \(\phi(n)\) は常に \(0\) であり、極限 \(0\) に向かう。また \[ \phi(x) = \sin x\pi,\quad \phi(n) = \sin n\pi = 0 \] でも同じ現象が起こる。つまり \(\phi(x) \to l\) や \(\phi(x) \to \infty\) あるいは \(\phi(x) \to -\infty\) なら \(\phi(n)\) も同じように振る舞うが、逆は決して成り立たない。

  2. 関数 \[ \frac{\sin x\pi}{x},\quad x\sin x\pi,\quad (x\sin x\pi)^{2},\quad \tan x\pi,\quad a\cos^{2} x\pi + b\sin^{2} x\pi \] のグラフを描いて、\(x \to \infty\) における振る舞いを求めよ。

  3. 連続関数に対する定義を §59 と同様に幾何学的に説明せよ。

  4. \(\phi(x)\cos x\pi\) と \(\phi(x)\sin x \pi\) は \(\phi(x) \to l\) で \(l \neq 0\) ならどちらも有限に振動し、\(\phi(x) \to \infty\) または \(\phi(x) \to -\infty\) なら無限に振動する。二つの関数のグラフは二つの曲線 \(y = \phi(x)\) と \(y = -\phi(x)\) の間を振動する波状の曲線となる。

  5. \(x \to \infty\) における次の関数の振る舞いを調べよ: \[ y = f(x)\cos^{2} x\pi + F(x)\sin^{2} x\pi \] \(f(x)\) と \(F(x)\) は単純な関数 (例えば \(x\) や \(x^{2}\)) とする。 [\(y\) のグラフは \(y = f(x)\) と \(y = F(x)\) の間を振動する曲線となる]


  1. つまりこの章で \(\sqrt{x}\) は一価関数 \(+\sqrt{x}\) だけを表し、§26 のような \( +\sqrt{x}\) と \(-\sqrt{x}\) の二つの値を取る二価関数は表さないとする。[return]

  2. \(\infty\) を使って \(x \to \infty,\ \phi(x) \to \infty\) と書く代わりに、\(+\infty\) を使って \(x \to +\infty,\ \phi(x) \to +\infty\) と書いた方が分かりやすい場合もある。[return]

  3. §62 では \(|\phi(n)| \lt K\) が全ての \(n\) で成り立つとき有限に振動すると定義し、\(n \geq n_{0}\) という条件は定義に使わなかった。しかし \(\phi(n)\) を考えるなら二つの定義は同値である: もし \(n \geq n_{0}\) で \(|\phi(n) \lt K|\) なら、\(|\phi(1)|,\ |\phi(2)|,\ \ldots,\ |\phi(n_{0} - 1)|\) と \(K\) の最大値を \(K'\) とすれば全ての \(n\) に対して \(|\phi(n)| \lt K'\) が成り立つ。しかし連続変数では \(x_{0}\) より小さい \(x\) が無限に存在するので、\(x \geq x_{0}\) を考えると話が難しくなる。[return]

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