§154 二変数関数の平均値の定理

前章の結果の多くは平均値の定理から導かれた。この定理は \[ \phi(x + h) - \phi(x) = hf'(x + \theta h) \] と表される。あるいは \(y = \phi(x)\) とすれば \[ \delta y = f'(x + \theta\, \delta x)\, \delta x \] とも書ける。

\(z = f(x, y)\) を二つの独立な変数 \(x\) と \(y\) の関数として、\(x\) と \(y\) の増分を \(h = \delta x\) および \(k = \delta y\) とする。\(z\) の増分 \[ \delta z = f(x + h, y + k) - f(x, y) \] を \(z\) の \(x\) と \(y\) に関する微分と \(h,\ k\) を使って表すことを考える。

\(f(x + ht, y + kt) = F(t)\) とすると、 \[ f(x + h, y + k) - f(x, y) = F(1) - F(0) = F'(\theta) \] となる \(\theta\ \) (\(0 \lt \theta \lt 1\)) が存在する。一方で §153 からは \[ \begin{aligned} F' (t) & = D_{t} f(x + ht, y + kt)\\ & = hf_{x}'(x + ht, y + kt) + kf_{y}'(x + ht, y + kt) \end{aligned} \] が分かり、二つの式から \[ \begin{aligned} \delta z & = f(x + h, y + k) - f(x, y) \\ & = hf_{x}'(x + \theta h, y + \theta k) + kf_{y}'(x + \theta h, y + \theta k) \end{aligned} \] が得られる。\(f_{x}'\) と \(f_{y}'\) は \(x\) と \(y\) の連続関数と仮定しているから、 \[ \begin{aligned} f_{x}'(x + \theta h, y + \theta k) & = f_{x}'(x, y) + \varepsilon_{h, k},\\ f_{y}'(x + \theta h, y + \theta k) & = f_{y}'(x, y) + \eta_{h, k} \end{aligned} \] とすれば \(h\) と \(k\) が \(0\) に向かうとき \(\varepsilon_{h, k}\) と \(\eta_{h, k}\) も \(0\) に向かう。よって上述の結果は \[ \delta z = (f_{x}' + \varepsilon)\, \delta x + (f_{y}' + \eta)\, \delta y \qquad \text{(1)} \] と書くことができる。ここで \(\delta x\) と \(\delta y\) が小さいとき \(\varepsilon\) と \(\eta\) も小さくなる。

\(\text{(1)}\) の結果を言い換えると「方程式 \[ \delta z = f_{x}'\, \delta x + f_{y}'\, \delta y \] が近似的に正しい」となる。つまり \(\delta x\) と \(\delta y\) の絶対値が大きい方1と比較するとこの式の両辺の差は小さい。ここで「\(\delta x\) と \(\delta y\) の絶対値の大きい方」と言わなければならないのは、\(\delta x\) と \(\delta y\) のどちらかがもう一方と比較して小さくなる場合があるためである。それどころか \(\delta x = 0\) あるいは \(\delta y = 0\) となるかもしれない。

\(\delta z = \lambda\, \delta x + \mu\, \delta y\) という形の方程式が今説明した意味で「近似的に」正しいなら \(\lambda = f_{x}',\ \mu = f_{y}'\) が成り立つことも示せる。仮定の式と (1) から \[ \delta z - f_{x}'\, \delta x - f_{y}'\, \delta y = \varepsilon\, \delta x + \eta\, \delta y,\quad \delta z - \lambda\, \delta x - \mu\, \delta y = \varepsilon'\, \delta x + \eta'\, \delta y \] が成り立ち、\(\delta x\) と \(\delta y\) が \(0\) に向かうとき \(\varepsilon,\ \eta,\ \varepsilon',\ \eta'\) は全て \(0\) に向かう。ここから \[ (\lambda - f_{x}')\, \delta x + (\mu - f_{y}')\, \delta y = \rho\, \delta x + \rho'\, \delta y \] とすれば \(\rho\) と \(\rho'\) も \(0\) に向かうと分かる。よって \(\zeta\) を任意の正の実数とすると、ある \(\sigma\) が存在して、絶対値が \(\sigma\) より小さい全ての \(\delta x\) と \(\delta y\) で \[ |(\lambda - f_{x}')\, \delta x + (\mu - f_{y}')\, \delta y| \lt \zeta(|\delta x| + |\delta y|) \] が成り立つ。\(\delta y = 0\) とすれば \(|(\lambda - f_{x}')\, \delta x| \lt \zeta|\delta x|\) つまり \(|\lambda - f_{x}'| \lt \zeta\) を得る。\(\zeta\) は好きなだけ小さくできるから、これは \(\lambda = f_{x}'\) でない限りあり得ない。同様に \(\mu = f_{y}'\) も示せる。


  1. \(|\delta x| + |\delta y|\) や \(\sqrt{\delta x^{2} + \delta y^{2}}\) でも構わない。[return]