§50 正整数関数

第二章では実変数 \(x\) の関数という概念についてたくさんの例を使って議論したが、説明に使った関数の間で大きく異なる重要な特徴が一つあった: 全ての \(x\) に対して定義される関数もあれば、有理数に対してだけ定義される関数もあり、さらに整数に対してだけ定義される関数もあった。

例えば次の関数が考えられる: (i) \(x\) (ii) \(\sqrt{x}\) (iii) \(x\) の分母 (iv) 分母と分子の積の平方根 (v) \(x\) の最大素因数 (vi) \(x\) の最大素因数と \(\sqrt{x}\) の積 (vii) \(x\) 番目の素数 (viii) ダートムーア刑務所の囚人 \(x\) の背の高さ (インチ)

それぞれの関数が定義される \(x\) の値の集まり、つまり関数の定義域は次のようになる: (i) 全ての \(x\), (ii) 全ての正の \(x\), (iii) 全ての有理数 \(x\) (iv) 全ての正の有理数 \(x\), (v) 全ての整数 \(x\), (vi), (vii) 全ての正の整数 \(x\) (viii) とある範囲の正の整数 \(x\)、具体的には考えている時点でダートムーア刑務所に収監されている囚人の数を \(N\) としたときの \(1\) から \(N\) までの整数1

(vii) のように正の整数 \(x\) に対してだけ定義される関数を考える。この関数は二つの少しだけ異なる視点から捉えられる。まずこれまでと同様に、実数変数 \(x\) の関数が \(x\) の一部の値 (つまり正の整数) に対してだけ定義されたものであり、他の \(x\) の値については定義されないとみなす考え方がある。そしてもう一つ、正の整数でない \(x\) の値を全く考慮せずに、関数を正整数変数 \(\bm{n}\) の関数とみなす考え方がある。後者の場合 \(n\) は \[ 1,\ 2,\ 3,\ 4,\ \ldots. \] という値を取る。そして関数を \[ y = \phi(n) \] と表記し、\(y\) を全ての \(n\) に対して定義された \(n\) の関数とみなす。

全ての \(x\) に対して定義された任意の関数から全ての \(n\) に対して定義された関数が作れるのは明らかである。例えば \(y = x^{2}\) から \(y = n^{2}\) を作るには、正の整数でない \(x\) とそれに対応する \(y\) を無視すればよい。一方で全ての \(n\) で定義された関数からは、正の整数でない \(x\) に対応する \(y\) に好きな値を割り当てることで、\(x\) の関数を無数に作れる。


  1. 最後のケースでは \(N\) が時間にも依存する。また囚人 \(x\) は確かな値を持つが、この値は時間によって変動する。そのため時間を考えに入れれば、この関係は二変数関数 \(y = F(x, t)\) の簡単な例となる。この関数が定義されるのは \(t\) のとある区間、具体的にはダートムーア刑務所が完成してから閉鎖されるまで、そして特定の正の整数 \(x\) についてだけとなる。\(x\) が取る値は \(t\) に応じて変わる。[return]

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