§62 振動関数
\(n\) が無限大に向かうとき \(\phi(n)\) が極限に向かわず、さらに \(+\infty\) にも \(-\infty\) にも向かわないとき、「\(n\) が無限大に向かうとき \(\phi(n)\) は振動する (oscillate)」と言う。
例えば前節の最後の例のように関数の取る値が周期的な列をなす場合、その関数は振動する。ただしこのような特殊な挙動をせずに振動する場合もある。関数が振動するのは他に特別なことをしないときであり、関数の振動は純粋に否定的に定義される。
もっとも単純な振動関数の例を次に示す: \[ \phi(n) = (-1)^{n} \] \(\phi(n)\) は \(n\) が偶数なら \(+1\) で \(n\) が奇数なら \(-1\) であり、二つの値を交互に取る。次に \[ \phi(n) = (-1)^{n} + \frac{1}{n} \] を考える。この関数の取る値は \[ -1 + 1,\quad 1 + \frac{1}{2},\quad -1 + \frac{1}{3},\quad 1 + \frac{1}{4},\quad -1 + \frac{1}{5},\ \ldots \] となる。\(n\) が大きいときの関数の値は \(+1\) と \(-1\) にほぼ等しくなる。\(\phi(n)\) が極限あるいは \( \infty\) や \(-\infty\) に向かうことはないので、この関数は振動する: しかし同じ値は繰り返されない。またこの関数の値の大きさが全て \(3/2\) 以下であることも分かる。同様に \[ \phi(n) = (-1)^{n} 100 + \frac{1000}{n} \] も振動する。\(n\) が大きいときの関数の値は \(100\) と \(-100\) にほぼ等しい。この場合の大きさの最大値は \(n = 1\) のときの \(900\) である。次に \(\phi(n) = (-1)^{n}n\) を考えると、関数は \(-1,\ 2,\ -3,\ 4,\ -5,\ \ldots\ \) という値を取る。\(\phi(n)\) は極限にも \(+\infty\) や \(-\infty\) にも向かわないので、この関数は振動する。しかしこの場合には、関数の値の大きさを上から抑える上限が存在しない。この二種類の例から、さらなる定義が必要だと分かる:
\(\phi(n)\) が \(n\) が無限大に向かうときに振動すると仮定する。全ての \(\phi(n)\) の大きさを上回る \(K\) を取れるとき、つまり全ての \(n\) について \(|\phi(n)| \lt K\) となる \(K\) が存在するとき、\(\phi(n)\) は有限に振動する (oscillate finitely) と言う。そうでないとき無限に振動する (oscilate infinitely) と言う。
次の関数について、\(n\) が無限大に向かうときの挙動を考察せよ:
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\((-1)^{n},\ 5 + 3(-1)^{n},\ (1000000/n) + (-1)^{n},\ 1000000(-1)^{n} + (1/n)\)
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\((-1)^{n}n,\ 1000000 + (-1)^{n}n\)
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\(1000000 - n,\ (-1)^{n}(1000000 - n)\)
- \(n\{1 + (-1)^{n}\}\): この場合 \(\phi(n)\) の値は \[ 0,\quad 4,\quad 0,\quad 8,\quad 0,\quad 12,\quad 0,\quad 16,\quad \ldots \] となる。奇数の項は全て \(0\) だが、偶数の項は \(+\infty\) に向かう: よって \(\phi(n)\) は無限に振動する。
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\(n^{2} + (-1)^{n}2n\): 二番目の項は無限に振動するが、\(n\) が大きいと最初の項がそれよりもずっと大きくなる。実際 \(\phi(n) \geq n^{2} - 2n\) であり、任意の \(\Delta\) に対して \(n \gt 1 + \sqrt{\Delta + 1}\) なら \(n^{2} - 2n = (n - 1)^{2} - 1\) は常に \(\Delta\) より大きい。\(\phi(2k + 1)\) は常に \(\phi(2k)\) より小さいので、\(\phi(n)\) は無限大へギザギザに進んでいく。ただしそれでも、上の定義によればこの関数は「振動」しない。
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\(n^{2}\{1 + (-1)^{n}\},\ (-1)^{n}n^{2} + n,\ n^{3} + (-1)^{n}n^{2}\)
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\(\sin n\theta\pi\): 例 23.9 では \(\theta\) が整数でない有理数のとき \(\phi(n)\) が振動することを見た。\(\theta\) が整数のときは \(\phi(n)= 0,\ \phi(n) \to 0\) となる。
\(\theta\) が無理数のときは少しだけ面倒になるが、\(\phi(n)\) が有限に振動するのを示すのは難しくない。一般性を失うことなく \(0 \lt \theta \lt 1\) と仮定する。\(|\phi(n)| \lt 1\) なので、\(\phi(n)\) は有限に振動するか極限に向かうかだと分かる。二つ目の選択肢が本当にあり得るのかを調べるために、 \[ \lim_{n \to \infty} \sin n\theta\pi = l \] と仮定する。すると正の \(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(n_{0}\) より大きい全ての \(n\) について \(\sin n\theta \pi\) が \(l - \varepsilon\) と \(l + \varepsilon\) の間にあるように \(n_{0}\) を選べる。よってそういった全ての \(n\) について \(\sin(n + 1)\theta\pi{} - \sin n\theta\pi\) の大きさは \(2 \varepsilon\) より小さい。したがって \(|\sin \frac{1}{2}\theta\pi \cos(n + \frac{1}{2})\theta\pi| \lt \varepsilon\) が成り立つ。
ここから \[ \cos(n + \frac{1}{2})\theta\pi = \cos n\theta\pi \cos\frac{1}{2}\theta\pi - \sin n\theta\pi \sin\frac{1}{2}\theta\pi \] の大きさが \(\varepsilon/|\sin\frac{1}{2}\theta\pi|\) 未満と分かる。同様に \[ \cos(n - \frac{1}{2})\theta\pi = \cos n\theta\pi \cos\frac{1}{2}\theta\pi + \sin n\theta\pi \sin\frac{1}{2}\theta\pi \] の大きさが \(\varepsilon/|\sin\frac{1}{2}\theta\pi|\) 未満だと分かる。よって \(\cos n\theta\pi \cos\frac{1}{2}\theta\pi\) と \(\sin n\theta\pi \sin\frac{1}{2}\theta\pi\) の大きさはどちらも \(\varepsilon/|\sin\frac{1}{2}\theta\pi|\) 未満でなければならない。ここから \(n\) が大きいとき \(\cos n\theta\pi \cos\frac{1}{2}\theta\pi\) が小さいと分かるが、これが成り立つのは \(\cos n\theta\pi\) が非常に小さい場合に限られる。同様に \(\sin n \theta \pi\) が非常に小さい (したがって \(l = 0\)) とも分かる。しかし \(\cos n\theta\pi\) と \(\sin n\theta\pi\) の二乗和は \(1\) なので、この両方が非常に小さくなることはない。よって \(\sin n\theta\pi\) が極限 \(l\) に向かうという仮定はあり得ず、\(n\) が \(\infty\) に向かうとき \(\sin n \theta \pi\) が振動すると分かる。
「\(\cos n\theta\pi \cos\frac{1}{2}\theta\pi\) が小さいと分かるが、これが成り立つのは \(\cos n\theta\pi\) が非常に小さい場合に限られる」という議論に注目してほしい。\(\cos\frac{1}{2}\theta\pi\) が「非常に小さく」ならないのはなぜだろうか? もちろんこの答えは、この文脈における「非常に小さい」という言葉の意味にある。私たちが「\(n\) が大きいとき \(\phi(n)\) は非常に小さい」と言うとき、それは「与えられた任意の正の実数に対して、全ての \(n \geq n_{0}\) で \(\phi(n)\) がその数より小さくなるように \(n_{0}\) を選べる」を意味する。\(\cos\frac{1}{2}\theta\pi\) のような \(0\) でない定数に対するこの命題は調べるまでもなく偽である。
同様の方法で、\(\theta\) が偶数の整数でない限り \(\cos n\theta\pi\) が振動すると示せ。
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\(\sin n\theta\pi + (1/n),\ \sin n\theta\pi + 1,\ \sin n\theta\pi + n,\ (-1)^{n} \sin n\theta\pi\)
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\(a\cos n\theta\pi + b\sin n\theta\pi,\ \sin^{2}n\theta\pi,\ a\cos^{2}n\theta\pi + b\sin^{2}n\theta\pi\)
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\(a + bn + (-1)^{n} (c + dn) + e\cos n\theta\pi + f\sin n\theta\pi\)
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\(n\sin n\theta\pi\): \(\theta\) が整数なら \(\phi(n) = 0\) であり \(\phi(n) \to 0\) となる。\(\theta\) が整数でない有理数か無理数のとき \(\phi(n)\) は無限に振動する。
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\(n(a\cos^{2} n\theta\pi + b\sin^{2} n\theta\pi)\): この場合 \(\phi(n)\) は \(a\) と \(b\) が両方正のとき \(+\infty\) に、両方負のとき \(-\infty\) に向かう。「\(a = 0,\ b \gt 0\)」「\(a \gt 0,\ b = 0\)」「\(a = 0,\ b = 0\)」の場合をそれぞれ考えよ。\(a\) と \(b\) が異なる符号のとき \(\phi(n)\) は一般的に無限に振動する。例外を全て見つけよ。
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\(\sin(n^{2}\theta\pi)\): \(\theta\) が整数なら \(\phi(n) \to 0\) で、そうでなければ \(\phi(n)\) は有限に振動する。例 23.9 と 例 24.7 と同様に証明が使えるが、議論がより複雑になる1。
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\(\sin(n!\, \theta\pi)\): \(\theta\) が有理数 \(p/q\) なら、\(q\) 以上の全ての \(n\) に対して \(n!\, \theta\) が整数となる。よってこのとき \(\phi(n) \to 0\) と分かる。\(\theta\) が無理数の場合の議論には、今までよりもずっと高度な概念が必要になる。
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\(\cos(n!\, \theta\pi),\ a\cos^{2}(n!\, \theta\pi) + b\sin^{2}(n!\, \theta\pi)\) (\(\theta\) は有理数)
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\(an - [bn],\ (-1)^{n}(an - [bn])\)
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\([\sqrt{n}],\ (-1)^{n}[\sqrt{n}],\ \sqrt{n} - [\sqrt{n}]\)
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\(n\) の一番小さい約数: 例えば \(n\) が素数なら \(\phi(n) = n\) で、\(n\) が偶数なら \(\phi(n) = 2\) となる。\(\phi(n)\) は無限に振動する。
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\(n\) の最大素因数
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西暦 \(n\) 年の日数
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\(\phi(n) \to +\infty\) かつ全ての \(n\) で \(\psi(n) \geq \phi(n)\) なら、\(\psi(n) \to +\infty\) が成り立つ。
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\(\phi(n) \to 0\) かつ全ての \(n\) で \(|\psi(n)| \leq |\phi(n)|\) なら、\(\psi(n) \to 0\) が成り立つ。
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\(\lim |\phi(n)| = 0\) なら \(\lim \phi(n) = 0\) が成り立つ。
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\(\phi(n)\) が有限に振動するか極限に向かうとする。さらに \(n \geq n_{0}\) で \(|\psi(n)| \leq |\phi(n)|\) なら、\(\psi(n)\) は有限に振動するか極限に向かう。
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\(\phi(n)\) が無限に振動する、あるいは \(+\infty\) または \(-\infty\) に向かうとする。さらに \(n \geq n_{0}\) で \[ |\psi(n)| \geq |\phi(n)| \] なら、\(\psi(n)\) は無限に振動するか、\(+\infty\) または \(-\infty\) に向かう。
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「任意に大きい \(n_{0}\) に対して \(\psi(n) \gt \phi(n)\) となる \(n_{0}\) より大きい \(n\) と \(\psi(n') \lt \phi(n')\) となる \(n_{0}\) より大きい \(n'\) が見つけられるなら、\(\phi(n)\) が振動するとき \(\psi(n)\) も振動する」は正しいか? 正しくないなら反例を示せ。
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\(n \to \infty\) のとき \(\phi(n) \to l\) なら、任意の定数 \(p\) に対して \(\phi(n + p) \to l\) である。 [定義からすぐに示せる。同様に \(\phi(n)\) が \(+\infty\) と \(-\infty\) に向かう、あるいは振動する場合にも \(\phi(n + p)\) が同じ挙動を示すことが示せる]
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前問の設定で \(p\) が \(n\) と共に変化したとしても、\(p\) の絶対値が常に整数定数 \(N\) 以下のとき、あるいは \(p\) が常に正のときには同じ結果が得られる (振動する場合は除く)。
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次の条件が成り立つ最小の \(n_{0}\) を求めよ: \[ \begin{aligned} \text{(a) }& n^{2} + 2n \gt 999999 & & (n \geq n_{0}), \\ \text{(b) }& n^{2} + 2n \gt 1000000 & & (n \geq n_{0}) \end{aligned} \]
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次の条件が成り立つ最小の \(n_{0}\) を求めよ: \[ \begin{aligned} \text{(a) }& n + (-1)^{n} \gt 1000 & & (n \geq n_{0}), \\ \text{(b) }& n + (-1)^{n} \gt 1000000 & & (n \geq n_{0}) \end{aligned} \]
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次の条件が成り立つ最小の \(n_{0}\) を求めよ: \[ \begin{aligned} \text{(a) }& & n^{2} + 2n & \gt \Delta & & (n \geq n_{0}), \\ \text{(b) }& & n + (-1)^{n} & \gt \Delta & & (n \geq n_{0}) \end{aligned} \] \(\Delta\) は正の実数とする。
[\(\text{(a)}\): \(n_{0} = [\sqrt{\Delta + 1}]\), \(\text{(b)}\): \([\Delta]\) の偶奇に応じて \(n_{0} = 1 + [\Delta]\) および \(2 + [\Delta]\)、違う書き方をすれば \(n_{0} = 1 + [\Delta] + \frac{1}{2} \{1 + (-1)^{[\Delta]}\}\)]
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\(n \geq n_{0}\) で次の条件が成り立つ最小の \(n_{0}\) を求めよ: \[ \begin{aligned} \text{(a) }& \frac{n}{n^{2} + 1} \lt .0001,\\ \text{(b) }& \frac{1}{n} + \frac{(-1)^{n}}{n^{2}} \lt .00001 \end{aligned} \] [\(\text{(b)}\) では \[ \frac{1}{n} + \frac{(-1)^{n}}{n^{2}} \leq \frac{n + 1}{n^{2}} \] を使う。\(n \geq n_{0}\) で \((n + 1)/n^{2} \lt .000001\) となる \(n_{0}\) が \(1000002\) であることは簡単に示せる。不等式 (b) は \(n = 1000001\) でも成り立ち、これが求める \(n_{0}\) の値である]
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ブロムウィッチ著 Infinite Series, p.485 を参照。[return]