§107 連続な多変数関数

連続性と不連続性の概念は複数の独立変数を持つ関数 (§31) へ拡張できる。しかし多変数関数に対する連続性では、この章で考えたものよりずっと複雑な問題が生じる。この問題について詳しく述べようと思っても紙面が足りないが、二変数関数については後で考えることになるので、ここで定義を与えておく。これは §98 で最後に示した形の定義を一般化したものである。

二つの変数 \(x,\ y\) の関数 \(\phi(x, y)\) が \(x = \xi,\ y = \eta\) で連続とは、任意の正の実数 \(\varepsilon\) が与えられときに、\(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(0 \leq |x - \xi| \leq \delta(\varepsilon)\) かつ \(0 \leq |y - \eta| \leq \delta(\varepsilon)\) のとき \[ |\phi(x, y) - \phi(\xi, \eta) | \lt \varepsilon \] が成り立つように \(\delta(\varepsilon)\) を取れることを言う。つまり中心が \((\xi, \eta)\) で一辺の長さが \(2\delta(\varepsilon)\) の辺が軸に平行な正方形を考えたときに、その中の全ての点で \(\phi(x, y)\) と \(\phi(\xi, \eta)\) の差が \(\varepsilon\) 以下であることを言う1

この定義は正方形の中の全ての点で \(\phi(x, y)\) が定義されていることを仮定している。特に \((\xi, \eta)\) での定義が必要となる。定義を別の方法で表現すると「\(\phi(x, y)\) が \(x = \xi,\ y = \eta\) で連続とは、\(x \to \xi,\ y \to \eta\) が近づき方に関わらず \(\phi(x, y) \to \phi(\xi, \eta)\) なことを言う」となる。一見するとこの定義の方が単純に見えるものの、この定義にはこれまでに正確な意味を定義していない言い回しが含まれており、それを説明するには最初の定義にあるような不等式を使うしかない。

連続な二変数関数の和・積・商が一般に連続になることは簡単に示せる。また二変数の多項式は全ての点で値において連続であり、通常の解析学で登場する \(x\) と \(y\) の関数も基本的には連続である。つまり \(x\) と \(y\) の間に特殊な関係があるときに限って不連続となる。

\(x\) と \(y\) という二つの変数に関する \(\phi(x, y)\) の連続性は、二つの変数を別々に考えたときの連続性とは異なる点によく注意しなければならない。\(\phi(x, y)\) が二つの変数 \(x\) と \(y\) の関数として連続なら、\(x\) (あるいは \(y\)) だけの関数についても連続となる。しかし逆は決して成り立たない。例えば \(x\) と \(y\) のどちらかが \(0\) でないとき \[ \phi(x, y) = \frac{2xy}{x^{2} + y^{2}} \] で \(x\) と \(y\) が両方 \(0\) のとき \(\phi(x, y) = 0\) とする。すると \(y\) の値を固定すれば、\(y\) が \(0\) であろうとなかろうと、関数 \(\phi(x, y)\) は連続な \(x\) の関数となる。例えば \(x = 0\) のときは \(\phi(x, y) = 0\) であり、\(x \to 0\) のときの極限も \(0\) なので連続となる。しかし \(x\) \(y\) の関数 \(\phi(x, y)\) は \(x = 0,\ y = 0\) で不連続となり、連続でない。\(x\) と \(y\) が直線 \(y = ax\) 上から \(0\) に向かうとき、 \[ \phi(x, y) = \frac{2a}{1 + a^{2}},\quad \lim\phi(x, y) = \frac{2a}{1 + a^{2}} \] が成り立つ。つまり \(a\) を変化させれば極限が \(-1\) から \(1\) の全ての値を取る。


  1. この定義を図示してみるとよい。[return]

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