§6 無理数 (その 4)

§4 では正の有理数 \(x\) を二つのクラスに分割する具体的な方法を説明し、\(x^{2} \lt 2\) を満たすクラスと \(x^{2} \gt 2\) を満たすクラスを考えた。この分割方法を、考えている数の切断 (section) と呼ぶ。二つのクラスの要素を特徴付ける不等式が \(x^{3} \lt 2\) と \(x^{3} \gt 2\)、あるいは \(x^{4} \lt 7\) と \(x^{4} \gt 7\) である場合にも切断を同じように構成できる。こういった正の有理数の「切断」の構築に関するごく自然な法則を示そう。

\(P\) と \(Q\) をとある性質とし、ある正の有理数が両方を同時に満たすことはなく、全ての正の有理数はどちらかを必ず満たすとする。さらに \(P\) を満たす全ての数は \(Q\) を満たすどんな数よりも小さいと仮定する。例えば \(P\) が「\(x^{2} \lt 2\)」という性質で \(Q\) が「\(x^{2} \gt 2\)」という性質かもしれない。このとき \(P\) を満たす数の集まりを下クラス (lower class) あるいは左手クラス (left-hand class) \(L\) と呼び、\(Q\) を満たす数の集まりを上クラス (upper class) あるいは右手クラス (right-hand class) \(R\) と呼ぶ。通常はどちらのクラスも存在するが、一方が要素を持たず、もう片方に全ての有理数が属することも特殊ケースとしてあり得る。例えば \(P\) (あるいは \(Q\)) を「有理数である」や「正である」とすると明らかにこの状況になる。しかし今は、二つのクラスの要素が存在するとして話を進める。このとき §4 で示したように、\(L\) の要素と \(R\) の要素の組でその差が好きなだけ小さいものを見つけられる。

§4 で考えた特殊ケースでは \(L\) は最大要素を持たず、\(R\) は最小要素を持たなかった。二つのクラスの最大要素と最小要素に関するこの問題は非常に重要である。まず、\(L\) が最大要素を持ってかつ \(R\) が最小要素を持つことはあり得ない。もし \(l\) が \(L\) の最大要素で \(r\) が \(R\) の最小要素なら \(l \lt r\) であり、このとき \(\frac{1}{2}(l + r)\) が \(l\) と \(r\) の間にある正の有理数となり、これは \(L\) にも \(R\) にも属さない。しかしこれは全ての正の有理数がどちらかのクラスに属するという仮定と矛盾する。よって可能性は三つある: (i) \(L\) に最大要素 \(l\) がある (ii) \(R\) に最小要素 \(r\) がある (iii) \(L\) の最大要素も \(R\) の最小要素も存在しない。これらが同時に複数起こることはない。

§4 では最後の可能性 (iii) を考えた。最初の可能性の例は \(P\) を「\(x^{2} \leq 1\)」そして \(Q\) を「\(x^{2} \gt 1\)」 とすると得られる。このとき \(l = 1\) となる。\(P\) が「\(x^{2} \lt 1\)」で \(Q\) が「\(x^{2} \geq 1\)」なら、\(r = 1\) である二番目の可能性の例が手に入る。\(P\) を「\(x^{2} \lt 1\)」として \(Q\) を「\(x^{2} \gt 1\)」とした場合にはそもそも切断が手に入らない点に注意してほしい。このとき \(1\) が例外となって分類されなくなる (例 3.5 も参照)。