§183 項に正負が混じる級数

無限級数と第一種および第二種の無限積分は、級数の項や被積分関数の値が正でも負でも定義される。しかし本章で示した収束と発散の特別な判定法とそれを説明するための例では、値が正である場合だけを考えてきた。もちろん項や関数が常に負なら本質な違いはなく、\(u_{n}\) を \(-u_{n}\) に、\(\phi(x)\) を \(-\phi(x)\) に変えれば正の場合に帰着できる。

これまで級数を考えるときには、\(u_{n}\) に対する条件は有限個の項に対して成り立たなくてもよいと明示的にあるいは暗に仮定してきた。つまり条件 (例えば「全ての項が正」) は有限個の項よりも後ろの全ての項で成り立てば十分だった。同様に積分では条件がある定数より後ろの全ての \(\bm{x}\) で満たされる、あるいは \(a\) の近くで被積分関数が無限大に向かうなら有限区間 \((a, a + \delta)\) 内の全ての \(x\) で満たされることが仮定された。そのため例えば \[ \sum \frac{n^{2} - 10}{n^{4}} \] に対しては、\(n \geq 4\) で \(n^{2} - 10 \gt 0\) だから、前に触れた判定法を適用できる。同様に積分 \[ \int_{1}^{\infty} \frac{3x - 7}{(x + 1)^{3}}\, dx,\quad \int_{0}^{1} \frac{1 - 2x}{\sqrt{x}}\, dx \] に対しても、\(x \gt \frac{7}{3}\) なら \(3x - 7 \gt 0\) および \(0 \lt x \lt \frac{1}{2}\) なら \(1 - 2x \gt 0\) だから、正の関数に対する判定法を適用できる。

しかし \(u_{n}\) の値が級数全体で変化する、つまり負の項と正の項がどちらも無限に存在するなら、話は違ってくる。例えば級数 \(1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots\) や、 \[ \int_{1}^{\infty} \frac{\sin x}{x^{s}}\, dx \] のような \(x \to \infty\) で無限に符号が変わる関数の積分、あるいは被積分関数の不連続点 \(a\) に \(x\) を近づけると符号が無限に変わる \[ \int_{a}^{A} \sin\left(\frac{1}{x - a}\right) \frac{dx}{x - a} \] のような積分では、発散と収束に関する議論がより難しくなる。この場合には収束と発散に加えて振動の可能性も考慮しなければならない。

本書ではこういった積分に関するより一般的な問題を考えることはしない。ただ次章では、正の項と負の項をどちらも無限に含むとある簡単な級数を考える必要が生じる。

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