§237 二項定理の一般形
§215 では級数 \[ 1 + \binom{m}{1} z + \binom{m}{2} z^{2} + \cdots \] の和が \((1 + z)^{m} = \exp\{m\log(1 + z)\}\) であり、全ての実数 \(m\) と \(-1\) から \(1\) の全ての実数 \(z\) で成り立つことを示した。\(a_{n}\) を \(z^{n}\) の係数とすれば \[ \left|\frac{a_{n+1}}{a_{n}}\right| = \left|\frac{m - n}{n + 1}\right| \to 1 \] が実数および複素数 \(m\) で成立する。よって (例 53.3 より) この級数は大きさが \(1\) より小さい任意 \(z\) で収束することが分かる。その和が \(\exp\{m\log(1 + z)\}\) つまり \((1 + z)^{m}\) の主値で変わらないことをこれから証明しよう。
§236 から実数 \(t\) に対して \[ \frac{d}{dt}(1 + tz)^{m} = mz(1 + tz)^{m-1} \] だと分かる。ここで \(z\) と \(m\) は任意の実数または複素数であり、両辺は主値を考える。よって \(\phi(t) = (1 + tz)^{m}\) とすれば \[ \phi^{(n)}(t) = m(m - 1) \cdots (m - n + 1)z^{n} (1 + tz)^{m-n} \] を得る。これは \(t = 0\) でも成り立つので \[ \frac{\phi^{n}(0)}{n!} = \binom{m}{n} z^{n} \] が分かる。
§164 の最後で指摘したように \[ \phi(1) = \phi(0) + \phi'(0) + \frac{\phi''(0)}{2!} + \cdots + \frac{\phi^{(n-1)}(0)}{(n - 1)!} + R_{n} \] が成り立つ。ここで \[ R_{n} = \frac{1}{(n - 1)!}\int_{0}^{1} (1 - t)^{n-1} \phi^{(n)}(t)\, dt \] である。一方 \(z = r(\cos\theta + i\sin\theta)\) なら \[ |1 + tz| = \sqrt{1 + 2tr\cos\theta + t^{2}r^{2}} \geq 1 - tr \] だから、\(0 \lt \theta \lt 1\) を満たす \(\theta\) に対して \[ \begin{aligned} |R_{n}| & \lt \frac{|m(m - 1) \cdots (m - n + 1)|}{(n - 1)!}\, r^{n} \int_{0}^{1} \frac{(1 - t)^{n-1}}{(1 - tr)^{n-m}}\, dt\\ & \lt \frac{|m(m - 1) \cdots (m - n + 1)|}{(n - 1)!}\, \frac{(1 - \theta)^{n-1} r^{n}}{(1 - \theta r)^{n-m}} \end{aligned} \] を得る。つまり \[ |R_{n}| \lt K\frac{|m(m - 1) \cdots (m - n + 1)|}{(n - 1)!}\, r^{n} = \rho_{n} \] とできる (参考: §163)。そして \[ \frac{\rho_{n+1}}{\rho_{n}} = \frac{|m - n|}{n}r \to r \] だから、(例 27.6 より) \(n \to \infty\) のとき \(\rho_{n} \to 0\) および \(R_{n} \to 0\) となる。ここから上述の結果が得られる。
二項級数 \[ 1 + \binom{m}{1} z + \binom{m}{2} z^{2} + \cdots \] の和は \(\exp\{m\log(1 + z)\}\) である。ここで対数は主値を考え、\(m\) は実数および複素数の任意の値であり、\(z\) は \(|z| \lt 1\) を満たすとする。
より難しい \(|z| = 1\) の場合を含む二項級数に関する完全な議論はブロムウィッチ著 Infinite Series pp. 225 et seq. にある。
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\(m\) を実数とする。このとき \[ \log(1 + z) = \dfrac{1}{2} \log(1 + 2r\cos\theta + r^{2}) + i\arctan\left(\frac{r\sin\theta}{1 + r\cos\theta}\right) \] が成り立つから、 \[ \begin{aligned} \sum_{0}^{\infty} \binom{m}{n} z^{n} & = \exp\{\dfrac{1}{2}m \log(1 + 2r\cos\theta + r^{2})\} \operatorname{Cis} \left\{m\arctan\left(\frac{r\sin\theta}{1 + r\cos\theta}\right)\right\} \\ & = (1 + 2r\cos\theta + r^{2})^{\frac{1}{2}m} \operatorname{Cis} \left\{m\arctan\left(\frac{r\sin\theta}{1 + r\cos\theta}\right)\right\} \end{aligned} \] を得る。タンジェントの逆関数は \(-\frac{1}{2}\pi\) から \(\frac{1}{2}\pi\) の値を取る。特に \(\theta = \frac{1}{2}\pi,\ z = ir\) として実部と虚部をそれぞれ比較すると \[ \begin{aligned} 1 - \binom{m}{2} r^{2} + \binom{m}{4} r^{4} - \cdots & = (1 + r^{2})^{\frac{1}{2}m} \cos(m\arctan r), \\ \binom{m}{1} r - \binom{m}{3} r^{3} + \binom{m}{5} r^{5} - \cdots & = (1 + r^{2})^{\frac{1}{2}m} \sin(m\arctan r) \end{aligned} \] を得る。
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問題 1 の公式を \(m = 1,\ 2,\ 3\) について確認せよ。 [もちろん \(m\) が正の整数なら級数は有限となる]
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次の等式を \(0 \leq r \lt 1\) に対して示せ: \[ \begin{aligned} 1 - \frac{1·3}{2·4} r^{2} + \frac{1·3·5·7}{2·4·6·8} r^{4} - \cdots & = \sqrt{\frac{\sqrt{1 + r^{2}} + 1}{2(1 + r^{2})}}, \\ \frac{1}{2} r - \frac{1·3·5}{2·4·6} r^{3} + \frac{1·3·5·7·9}{2·4·6·8·10} r^{5} - \cdots & = \sqrt{\frac{\sqrt{1 + r^{2}} - 1}{2(1 + r^{2})}} \end{aligned} \] [問題 1 の最後の二つの公式で \(m = -\dfrac{1}{2}\) とする]
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次の等式を \(-\dfrac{1}{4}\pi \lt \theta \lt \dfrac{1}{4}\pi\) に対して示せ: \[ \begin{aligned} \cos m\theta & = \cos^{m} \theta \left\{1 - \binom{m}{2} \tan^{2} \theta + \binom{m}{4} \tan^{4} \theta - \cdots\right\}, \\ \sin m\theta & = \cos^{m} \theta \left\{\binom{m}{1} \tan\theta - \binom{m}{3} \tan^{3} \theta + \cdots\right\} \end{aligned} \] \(m\) は任意の実数とする。 [等式 \[ \cos m\theta + i\sin m\theta = (\cos\theta + i\sin\theta )^{m} = \cos^{m} \theta(1 + i\tan\theta)^{m} \] から直ちに従う]
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例 81.6 では級数の積を直接計算することで、\(|z| \lt 1\) なら関数 \(f(m, z) = \sum\dbinom{m}{n} z^{n}\) が関数方程式 \[ f(m, z) f(m', z) = f(m + m', z) \] を満たすと示した。ここから §216 と同様の議論で実数の有理数 \(m\) に対する等式 \[ f(m, z) = \exp\{m\log(1 + z)\} \] を §237 の結果を使わずに導け。
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\(z\) と \(\mu\) が実数で \(-1 \lt z \lt 1\) なら \[ \sum \binom{i\mu}{n} z^{n} = \cos\{\mu\log(1 + z)\} + i\sin\{\mu\log(1 + z)\} \] が成り立つ。