§93 \(x → 0\) の極限
\(\phi(x)\) を \(\lim\limits_{x \to \infty} \phi(x) = l\) を満たす関数とする。\(y = 1/x\) として \[ \phi(x) = \phi(1/y) = \psi(y) \] と定めると、\(x\) が \(\infty\) に向かうとき \(y\) は極限 \(0\) に向かい、\(\psi(y)\) は極限 \(l\) に向かう。
ここで \(x\) を無視して、\(\psi(y)\) を \(y\) の関数とみなす。大きい \(x\) に対応する \(y\) の値、つまり \(0\) に近い \(y\) の値だけに限って考えると、\(y\) の値を小さく取ることで \(\psi(y)\) を好きなだけ \(l\) に近くできる。変数が無限大に向かうときの極限の定義を正確に言うと、\(\lim\phi(x) = l\) は任意の正の実数 \(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(x_{0}\) 以上の全ての \(x\) で \(|\phi(x) - l| \lt \varepsilon\) が成り立つように \(x_{0}\) を選べることを意味する。そしてこれは、\(y_{0}\) より小さい全ての \(y\) で \(|\psi(y) - l| \lt \varepsilon\) が成り立つように \(y_{0} = 1/x_{0}\) を選べることに等しい。
こうして次の定義が導かれる:
任意の実数 \(\varepsilon\) について、\(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(0 \lt y \leq y_{0}(\varepsilon)\) で \[ |\phi(y) - l| \lt \varepsilon \] が成り立つように \(y_{0}(\varepsilon)\) を選べるとする。このとき「\(y\) が正の方向から \(0\) に向かうとき \(\phi(y)\) は極限 \(l\) に向かう」と言い、次のように表記する: \[ \lim_{y \to +0} \phi(y) = l \]
任意の実数 \(\Delta\) について、\(\Delta\) がどれだけ大きくとも、\(0 \lt y \leq y_{0}(\Delta)\) で \[ \phi(y) \gt \Delta \] が成り立つように \(y_{0}(\Delta)\) を選べるとする。このとき「\(y\) が正の方向から \(0\) に向かうとき \(\phi(y)\) は \(\infty\)に向かう」と言い、次のように表記する: \[ \lim_{y \to +0}\phi(y) \to \infty \]
「\(y\) が負の方向から \(0\) に向かうとき \(\phi(y)\) は \(l\) に向かう」つまり「\(y \to -0\) のとき \(\lim\phi(y) = l\)」も同様に定義する。一つ目の定義中の \(0 \lt y \leq y_{0}(\varepsilon)\) を \(-y_{0}(\varepsilon) \leq y \lt 0\) に変更すればそれですむ。二つ目の定義についても同様に \(y \to -0\) のときの \[ \phi(y) \to -\infty \] を定義する。
もし \(\lim\limits_{y \to +0} \phi(y) = l\) かつ \(\lim\limits_{y \to -0}\phi(y) = l\) なら、省略して \[ \lim_{y \to 0} \phi(y) = l \] と書く。このケースは非常に重要なので、定義をきちんと書いておく:
任意の正の実数 \(\varepsilon\) について、\(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、絶対値が \(y_{0}(\varepsilon)\) 未満の \(0\) でない全ての実数 \(y\) で \(\phi(y)\) と \(l\) が \(\varepsilon\) 未満しか離れないように \(y_{0}(\varepsilon)\) を選べるとする。このとき「\(y\) が \(0\) に向かうとき \(\phi(y)\) は極限 \(l\) に向かう」と言い \[ \lim_{y \to 0} \phi(y) = l \] と表記する。
同様に、\(y \to +0\) と \(y \to -0\) の両方で \(\phi(y) \to \infty\) なら「\(y \to 0\) で \(\phi(y) \to \infty\)」と言う。また「\(y \to 0\) で \(\phi(y) \to -\infty\)」も同様に定義する。
最後に、\(y \to +0\) のとき \(\phi(y)\) が極限にも \(\infty\) にも \(-\infty\) にも向かわないとする。このとき「\(y \to +0\) のとき \(\phi(y)\) は (有限または無限に) 振動する」と言う。\(y \to -0\) の場合も同様に振動を定義する。
ここまでの定義では変数を \(y\) と表記してきたが、もちろん変数の記号は重要でない。\(y\) の代わりに全て \(x\) と書いても構わない。