§24 有理関数 (その 1)

  1. 簡単で重要な関数のクラスとしては有理関数 (rational function) が多項式に続く。有理関数は二つの多項式の商であり、一般的には多項式 \(P(x),\ Q(x)\) を使って次のように表せる: \[ R(x) = \frac{P(x)}{Q(x)} \]

    \(Q(x)\) が \(1\) あるいは定数 (\(x\) が関係しない式) となる特別なケースでは、\(R(x)\) が多項式となる。つまり有理関数は部分クラスとして多項式を含む。定義に関して注意すべき点をあげる:

    1. \(P(x)\) と \(Q(x)\) に共通因数 \(x + a\) あるいは \(x^{p} + ax^{p-1} + bx^{p-2} + \cdots + k\) がないことを通常は仮定する。つまり共通因数は除算によって全て削除されているとする。

    2. ただし共通因数を削除すると一般的に言って関数が変化することに気を付けなければならない。例えば関数 \(x/x\) は有理関数であり、共通因数を削除すると \(1/1 = 1\) を得る。しかし \(x/x\) と \(1\) は常に等しいわけではない。等しくなるのは \(x \neq 0\) のときだけであり、\(x = 0\) のとき \(x/x\) は \(0/0\) となって意味をなさなくなる。つまり \(x/x\) は \(x \neq 0\) のとき \(1\) に等しく、\(x = 0\) のときには定義されない。そのため関数としては \(1\) と等しくない。関数 \(1\) は常に \(1\) に等しい。

    3. 関数 \[ \left(\frac{1}{x + 1} + \frac{1}{x - 1}\right) \bigg/ \left(\frac{1}{x} + \frac{1}{x - 2}\right) \] は通常の代数法則で次の形に簡略化できる: \[ \frac{x^{2}(x - 2)}{(x - 1)^{2} (x + 1)} \] これは標準的な形の有理関数だが、ここでもこの簡略化が常には正しくないことに注意する必要がある。ある \(x\) の値に対する関数の値を計算するには、与えられた形の関数の \(x\) を置き換えなければならない。与えられた形の関数は \(x = -1,\ 1,\ 0,\ 2\) のとき意味のない形となるので、これらの \(x\) の値に対応する関数の値は定義されない。簡略化された式は \(x = -1\) と \(x = 1\) で定義されないが、\(x = 0\) と \(x = 2\) では \(0\) になる。よってここでも二つの関数は等しくない。

    4. (3) の例のように、標準形の有理関数でも特定の \(x\) に対しては値が定義されないことがある。具体的には分母が \(0\) になる \(x\) があるなら、関数はその \(x\) に対して定義されない、例えば有理関数 \((x^{2} - 7)/(x^{2} - 3x + 2)\) では \(x = 1\) と \(x = 2\) で定義されない。

    5. これから (2) や (3) で考えたような形の式を考えるときは、単純化が間違った意味を持ってしまう特別な \(x\) の値を無視して、有理関数の標準形まで単純化してしまうことにする。容易に確認できるように、この理解の下では二つの有理関数の和、積、商がどれも有理関数の標準系まで単純化できる。さらに一般に有理関数の有理関数は有理関数になる。つまり \(z = P(y)/Q(y)\) に対して \(y = P_{1}(x)/Q_{1}(x)\) を代入したとしても、単純化によって \(z = P_{2}(x)/Q_{2}(x)\) の形が得られる (\(P_{1},\ P_{2},\ Q_{1},\ Q_{2}\) は全て多項式を表す)。

    6. 有理関数の定義では、係数部分の定数が有理だとは指定されていない。「有理」という言葉は関数における変数 \(x\) の登場の仕方だけを示している。そのため例えば \[ \frac{x^{2} + x + \sqrt{3}}{x\sqrt[3]{2} - \pi} \] は有理関数となる。

      有理という言葉が使われる理由は次の通りである。有理関数 \(P(x)/Q(x)\) は \(x\) に対する有限回の操作だけで得られる。つまり \(x\) とそれ自身または定数との乗算、その乗算結果の加算、その乗算および加算結果の除算という操作であり、これは \(1\) から有理数を作る操作によく似ている。次の式で表される操作である: \[ \frac{5}{3} = \frac{1 + 1 + 1 + 1 + 1}{1 + 1 + 1} \]

      繰り返しになるが、上述の操作で手に入る \(x\) の関数に対してさらに同種の操作を行って得られる任意の関数は、有理関数の標準形に単純化できる。次の例を見れば、この方法で手に入る一般的な関数がどのようなものか理解できるだろう: \[ \Biggl(\frac{x}{x^{2} + 1} + \frac{2x + 7}{x^{2} + \dfrac{11x - 3\sqrt{2}}{9x + 1}}\Biggr) \Bigg/ \left(17 + \frac{2}{x^{3}}\right) \] これはもちろん有理関数の標準形に単純化できる。

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