§74 補助的な不等式

以降で使うことになる初等的な不等式をいくつかここで示しておく。

  1. \(\alpha \gt 1\) で \(r\) が正の整数なら \[ r\alpha^{r} \gt \alpha^{r-1} + \alpha^{r-2} + \cdots + 1 \] が成り立つ。両辺に \(\alpha - 1\) を乗じれば \[ r\alpha^{r}(\alpha - 1) \gt \alpha^{r} - 1 \] となり、さらに両辺に \(r(\alpha^{r} - 1)\) を足して \(r(r + 1)\) で割れば \[ \frac{\alpha^{r+1} - 1}{r + 1} \gt \frac{\alpha^{r} - 1}{r}\quad (\alpha \gt 1) \qquad \text{(1)} \] を得る。同様に \[ \frac{1 - \beta^{r+1}}{r + 1} \lt \frac{1 - \beta^{r}}{r}\quad (0 \lt \beta \lt 1) \qquad \text{(2)} \] も示せる。

    ここから \(r\) と \(s\) が正の整数で \(r \gt s\) なら \[ \frac{\alpha^{r} - 1}{r} \gt \frac{a^{s} - 1}{s},\quad \frac{1 - \beta^{r}}{r} \lt \frac{1 - \beta^{s}}{s} \qquad \text{(3)} \] が成り立つと分かる。ここで \(0 \lt \beta \lt 1 \lt \alpha\) である。特に \(s = 1\) とすれば \[ \alpha^{r} - 1 \gt r(\alpha - 1),\quad 1 - \beta^{r} \lt r(1 - \beta) \qquad \text{(4)} \] を得る。

  2. 不等式 (3) と (4) は \(r\) と \(s\) が正の整数という仮定の下で証明したが、より一般的に \(r\) と \(s\) を正の有理数としても容易に示せる。例えば最初の不等式 (3) を示すには、\(a,\ b,\ c,\ d\) を正の整数として \(r = a/b,\ s = c/d\) とおく。このとき \(ad \gt bc\) で、\(\alpha = \gamma^{bd}\) とおけば示すべき不等式は \[ \frac{\gamma^{ad} - 1}{ad} \gt \frac{\gamma^{bc} - 1}{bc} \] となるが、これは既に示されている。同じ議論は不等式 (4) にも適用できる。また \[ \alpha^{s} - 1 \lt s(\alpha - 1),\quad 1 - \beta^{s} \gt s(1 - \beta) \qquad \text{(5)} \] も同様に示せる。

  3. これからは全ての記号が正の数を表し、\(r\) と \(s\) は有理数で、\(\alpha\) と \(r\) は \(1\) より大きく、\(\beta\) と \(s\) は \(1\) より小さいとする。(4) で \(\alpha\) に \(1/\beta\) を代入し、\(\beta\) に \(1/\alpha\) を代入すると \[ \alpha^{r} - 1 \lt r\alpha^{r-1}(\alpha - 1),\quad 1 - \beta^{r} \gt r\beta^{r-1}(1 - \beta) \qquad \text{(6)} \] を得る。同様に (5) からは \[ \alpha^{s} - 1 \gt s\alpha^{s-1}(\alpha - 1),\quad 1 - \beta^{s} \lt s\beta^{s-1}(1 - \beta) \qquad \text{(7)} \] が分かる。

    (4) と (6) を合わせると \[ r\alpha^{r-1}(\alpha - 1) \gt \alpha^{r} - 1 \gt r(\alpha - 1) \qquad \text{(8)} \] となり、\(\alpha\) に \(x/y\) を代入すると \[ rx^{r-1} (x - y) \gt x^{r} - y^{r} \gt ry^{r-1} (x - y) \qquad \text{(9)} \] が得られる。ただし \(x \gt y \gt 0\) である。同様に (5) と (7) からは \[ sx^{s-1} (x - y) \lt x^{s} - y^{s} \lt sy^{s-1} (x - y) \qquad \text{(10)} \] が分かる。

例 28
  1. (9) を \(r = 2,\ 3\) に対して、(10) を \(s = \frac{1}{2},\ \frac{1}{3}\) に対してそれぞれ確かめよ。

  2. (9) と (10) が \(y \gt x \gt 0\) のときも正しいと示せ。

  3. (9) が \(r \lt 0\) のときも正しいと示せ。 [クリスタル著 Algebra, vol ii, pp.43–45 を参照]

  4. \(n \to \infty\) のとき \(\phi(n) \to l\) で \(l \gt 0\) なら、任意の有理数 \(k\) に対して \(\phi^{k} \to l^{k}\) だと示せ。

    [§66 の定理から \(k \gt 0\) と仮定でき、さらに特定の値より後ろの全ての \(n\) で \(\frac{1}{2}l \lt \phi \lt 2l\) だとも仮定できる。\(k \gt 1\) とすると、\(\phi \gt l\) のとき \[ k\phi^{k-1}(\phi - l) \gt \phi^{k} - l^{k} \gt kl^{k-1}(\phi - l) \] が、\(\phi \lt l\) のとき \[ kl^{k-1}(l - \phi) \gt l^{k} - \phi^{k} \gt k\phi^{k-1}(l - \phi) \] が成り立つ。ここから \(|\phi^{k} - l^{k}|\) と \(|\phi - l|\) の比が \(k(\frac{1}{2}l)^{k-1}\) と \(k(2l)^{k-1}\) の間にあると分かる。\(0 \lt k \lt 1\) のときも同様に証明できる。また \(k \gt 0\) であれば、\(l = 0\) であっても結果は正しい]

  5. 例 27 の問題 7, 8, 9 を、\(r\) と \(k\) が任意の有理数の場合に拡張せよ。



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