§86 複素関数と複素級数の特徴
次の定理は実関数や実級数に関して証明したものと同様であり、証明は難しくない。
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\(\lim\phi(n) = l\) なら固定された任意の \(p\) に対して \(\lim\phi(n + p) = l\) となる。
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\(u_{1} + u_{2} + \cdots\) が収束して和が \(l\) なら \(a + b + c + \cdots + k + u_{1} + u_{2} + \cdots\) は和 \(a + b + c + \cdots + k + l\) に収束し、\(u_{p+1} + u_{p+2} + \cdots\) は和 \(l - u_{1} - u_{2} - \cdots - u_{p}\) に収束する。
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\(\lim\phi(n) = l\) かつ \(\lim\psi(n) = m\) なら \[ \lim\{\phi(n) + \psi(n)\} = l + m \] が成り立つ。
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\(\lim\phi(n) = l\) なら \(\lim k\phi(n) = kl\) となる。
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\(\lim\phi(n) = l\) かつ \(\lim\psi(n) = m\) なら \(\lim \phi(n)\psi(n) = lm\) となる。
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\(u_{1} + u_{2} + \cdots\) が和 \(l\) に収束し \(v_{1} + v_{2} + \cdots\) が和 \(m\) に収束するなら、\((u_{1} + v_{1}) + (u_{2}+ v_{2}) + \cdots\) は和 \(l + m\) に収束する。
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\(u_{1} + u_{2} + \cdots\) が和 \(l\) に収束するなら、\(ku_{1} + ku_{2} + \cdots\) は和 \(kl\) に収束する。
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\(u_{1} + u_{2} + u_{3} + \cdots\) が収束するなら \(\lim u_{n} = 0\) となる。
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\(u_{1} + u_{2} + u_{3} + \cdots\) が収束するなら、この級数の項に適当に括弧を付けてできる新しい級数も全て収束し、そういった級数と元の級数の和は等しい。
例として (5) を示す。 \[ \begin{gathered} \phi(n) = \rho(n) + i\sigma(n), \quad \psi(n) = \rho'(n) + i\sigma'(n), \\ l = r + is, \quad m = r' + is' \end{gathered} \] とする。
このとき \[ \begin{gathered} \rho(n) \to r,\quad \sigma(n) \to s,\\ \rho'(n) \to r',\quad \sigma'(n) \to s' \end{gathered} \] が成り立つ。
ここで \[ \phi(n)\psi(n) = \rho\rho' - \sigma\sigma' + i(\rho\sigma' + \rho'\sigma) \] および \[ \begin{aligned} \rho\rho' - \sigma\sigma' & \to rr' - ss',\\ \rho\sigma' + \rho'\sigma & \to rs' + r's \end{aligned} \] であり、ここから \[ \phi(n)\psi(n) \to rr' - ss' + i(rs' + r's) \] つまり \[ \phi(n)\psi(n) \to (r + is)(r' + is') = lm \] が分かる。
次の定理は少し異なる特徴を持つ:
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\(n \to \infty\) で \(\phi(n) = \rho(n) + i\sigma(n)\) が \(0\) に収束するための必要十分条件は \[ |\phi(n)| = \sqrt{\{\rho(n)\}^{2} + \{\sigma(n)\}^{2}} \] が \(0\) に収束することである。
\(\rho(n)\) と \(\sigma(n)\) が \(0\) が収束するなら、明らかに \(\sqrt{\rho^{2} + \sigma^{2}}\) も \(0\) に収束する。逆は \(\rho\) と \(\sigma\) の絶対値が \(\sqrt{\rho^{2} + \sigma^{2}}\) 以下なことから従う。
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より一般的に言うと、\(\phi(n)\) が極限 \(l\) に収束するための必要十分条件は \[ |\phi(n) - l| \] が \(0\) に収束することである。
\(\phi(n) - l\) が \(0\) に収束するので、(10) を適用できる。
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§83–§84 の定理は \(\phi(n)\) と \(u_{n}\) が複素数であっても成り立つ。
\(\phi(n)\) が \(l\) に収束するための必要十分条件が、\(n_{2} \gt n_{1} \geq n_{0}\) に対して \[ |\phi(n_{2}) - \phi(n_{1})| \lt \varepsilon \qquad \text{(1)} \] だと示せばよい。
\(\phi(n) \to l\) なら \(\rho(n) \to r\) かつ \(\sigma(n) \to s\) であり、\(\varepsilon\) に対応する \(n_{0}'\) と \(n_{0}''\) があって \[ \begin{aligned} |\rho(n_{2}) - \rho(n_{1})| & \lt \frac{1}{2}\varepsilon,\\ |\sigma(n_{2}) - \sigma(n_{1})| & \lt \frac{1}{2}\varepsilon \end{aligned} \] がそれぞれ \(n_{2} \gt n_{1} \geq n_{0}'\) と \(n_{2} \gt n_{1} \geq n_{0}''\) のとき成り立つ。よって \(n_{0}'\) と \(n_{0}''\) の大きい方を \(n_{0}\) とすれば \[ |\phi(n_{2}) - \phi(n_{1})| \leq |\rho(n_{2}) - \rho(n_{1})| + |\sigma(n_{2}) - \sigma(n_{1})| \lt \varepsilon \] が \(n_{2} \gt n_{1} \geq n_{0}\) のとき成り立つ。よって条件 (1) は必要である。十分性は次のように示す。\(n_{2} \gt n_{1} \geq n_{0}\) のとき \[ |\rho(n_{2}) - \rho(n_{1})| \leq |\phi(n_{2}) - \phi(n_{1})| \lt \varepsilon \] だから、\(\rho(n)\) は極限 \(r\) に向かうと分かる。同様に \(\sigma(n)\) が \(s\) に向かうことも分かる。