§17 実数の切断 (デデキントの定理)

§4§7 では有理数の「切断」、すなわち (正の) 有理数を二つのクラス \(L\) と \(R\) に分割する方法について考えた。\(L\) と \(R\) には次の性質がある:

  1. 考えている数全てが、二つのクラスのどちらか一方に属する。
  2. 両方のクラスが要素を持つ。
  3. \(L\) に属する任意の数は \(R\) に属する任意の数より小さい。

もちろん、全ての実数の集まりにもこの考えを適用できる。この考え方が非常に重要なことが後の章で分かる。

\(P\) と \(Q\) を互いに矛盾する実数に関する性質と仮定し1、全ての実数が \(P\) と \(Q\) のどちらかを持つとする。さらに \(P\) を満たす任意の数は \(Q\) を満たす任意の数より小さいとする。このとき \(P\) を 下クラス (lower class) あるいは 左手クラス (left-hand class) \(L\) と呼び、\(Q\) を 上クラス (upper class) あるいは 右手クラス (right-hand class) \(R\) と呼ぶ。

例えば \(P\) として \(x \leq \sqrt{2}\)、 \(Q\) として \(x \gt \sqrt{2}\) が考えられる。ここで有理数の切断を定義できる性質の組であっても実数の切断を定義できない場合があるのは重要な事実である。例えば \(x \lt \sqrt{2}\) と \(x \gt \sqrt{2}\) あるいは (正の数だけを考えているとして) \(x^{2} \lt 2\) と \(x ^{2} \gt 2\) である。全ての有理数はどちらかの性質を持つが、全ての実数ではそうでなく、\(\sqrt{2}\) が分類されない。

このとき二つの可能性がある2。\(L\) が最大要素 \(l\) を持つか、\(R\) が最小要素 \(r\) を持つかである。両方が起こることはない。もし \(L\) の最大要素 \(l\) と \(R\) の最小要素 \(r\) が存在するなら、\(\frac{1}{2}(l + r)\) という数が \(L\) に属する全ての数より大きく \(R\) に属する全ての数より小さくなり、どちらのクラスにも属さなくなる。一方で二つの可能性の片方は必ず成り立つ3

\(L_{1}\) と \(R_{1}\) を、\(L\) と \(R\) に属する有理数だけを取ってできるクラスとする。このとき \(L_{1}\) と \(R_{1}\) というクラスの組は有理数の切断を構成する。分けて考えるべきケースが二つある。

まず \(L_{1}\) が最大要素 \(\alpha\) を持つ可能性がある。このとき \(\alpha\) は \(L\) の最大要素でもある。もしそうでないとすると、\(\alpha\) よりも大きい数 \(\beta\) が \(L\) に属する。すると \(\alpha\) と \(\beta\) の間にある (\(\beta\) より小さい) 有理数も \(L\) に属することになり、その有理数は \(L_{1}\) にも属するが、これは仮定と矛盾する。したがって \(\alpha\) は \(L\) の最大要素となる。

一方で \(L_{1}\) が最大要素を持たない場合もある。このとき \(L_{1}\) と \(R_{1}\) という有理数の切断は実数 \(\alpha\) となる。この \(\alpha\) は \(L\) と \(R\) のどちらかに属する。もし \(\alpha\) が \(L\) に属するなら、前段落と同様にそれが \(L\) の最大要素だと示せる。もし \(\alpha\) が \(R\) に属するなら同じようにそれが \(R\) の最小要素となる。

よっていずれの場合でも、\(L\) が最大要素を持つか \(R\) が最小要素を持つかのどちらかとなる。つまり任意の実数の切断はとある実数に「対応」する。これは有理数の切断が有理数に対応するのと同様だが、有理数では切断が有理数に対応しない場合もあった。この結論は非常に重要である。なぜならこの結論は、全ての実数の切断を考えたとしても数の概念をさらに拡張する必要がないことを示すからである。有理数の切断を考えると有理数から実数というより一般的な新しい数の概念が導かれると私たちは発見した。それなら実数の切断を考えればさらに一般的な概念を得られると期待するかもしれない。しかしこれまでの議論はそれが起こらないことを示す。実数の集まり、またの名を算術的連続体には、有理数の集まりにはないある種の完全性がある。この完全性を専門用語で「算術的連続体は閉である」と表現する。

今ちょうど証明したこの結論は次のように表せる:

実数を次の条件が成り立つように二つのクラス \(L,\ R\) に分割したとする:

  1. 全ての実数が二つのクラスのどちらか一方に属する。
  2. どちらのクラスも少なくとも一つの要素を持つ。
  3. \(L\) の任意の要素は \(R\) の任意の要素より小さい。

このときある実数 \(\alpha\) があって、\(\alpha\) より小さい実数は \(L\) に属し、\(\alpha\) より大きい実数は \(R\) に属する。\(\alpha\) 自身は \(L\) と \(R\) のどちらかに属する。

応用においては全ての数の切断ではなく、とある区間 \([\beta, \gamma]\) に属する数の切断を考えることがよくある。この区間は \(\beta \leq x \leq \gamma\) を満たす \(x\) を表す。こういった区間に属する数の集まりの「切断」とは、もちろん上述の条件 (i), (ii), (iii) を満たす二つのクラスへの切断の分割を表す。区間の切断の \(L\) に \(\beta\) より小さい数を加え、\(R\) に \(\gamma\) より大きい数を加えれば、区間の切断を全ての実数の切断に変換できる。デデキントの定理の「実数」の部分を「切断 \([\beta, \gamma]\) 」に取り換えても正しく、そのとき \(\alpha\) は不等式 \(\beta \leq \alpha \leq \gamma\) を満たすことは容易に分かる。


  1. これ以降の議論は §6 の議論と様々な部分で似ているが、ある程度の反復を避けようとはしていない。この「切断」という考え方はデデキントによる有名な論文 Stetigkeit und irrationale Zahlen で広まった。この本の読者であればこの考え方を理解できるだろうし、実のところ §6§12 で触れた無理数の記法に関する議論を飛ばした読者であっても理解しておかなければならない。[return]

  2. §6 では可能性が三つあった。[return]

  3. §6 ではそうでなかった。[return]