§168 コーシーの判定法とダランベールの判定法

現在の私たちが知っている特別なクラスの級数の収束に関する重要な事実の一つに、\(\sum r^{n}\) は \(r \lt 1\) なら収束し \(r \geq 1\) なら発散するというものがある1前節の定理 C を \(u_{n} = r^{n}\) に適用するのが自然であり、次の結果が直ちに得られる:

\(r \lt 1\) に対して十分大きな \(n\) で \(v_{n} \leq Kr^{n}\) なら \(\sum v_{n}\) は収束する。

\(K = 1\) とすれば、この条件は \(v_{n}^{1/n} \leq r\) となる。ここから正項級数の収束に関するコーシーの判定法 (Cauchy's test) として知られる命題を得る:

\(r \lt 1\) に対して十分大きな \(n\) で \(v_{n}^{1/n} \leq r\) なら \(\sum v_{n}\) は収束する。

発散についても対応する判定法がある:

無限個の \(n\) で \(v_{n}^{1/n} \geq 1\) なら \(\sum v_{n}\) は発散する。

\(v_{n}^{1/n} \geq 1\) なら \(v_{n} \geq 1\) なので、証明はほとんど必要ない。結果 2 と結果 2a は非常に広い応用を持つが、次の異なる判定法の方が使いやすい場合もある:

\(r \lt 1\) に対して十分大きな全ての \(n\) で \(\dfrac{v_{n+1}}{v_{n}} \leq r\) なら級数 \(\sum v_{n}\) は収束する。

証明には \(n \geq n_{0}\) で \(\dfrac{v_{n+1}}{v_{n}} \leq r\) のとき \[ v_{n} = \frac{v_{n}}{v_{n-1}}\, \frac{v_{n-1}}{v_{n-2}} \cdots \frac{v_{n_{0}+1}}{v_{n_{0}}}\, v_{n_{0}} \leq \frac{v_{n_{0}}}{r^{n_{0}}} r^{n} \] という事実を利用する。収束する級数 \(\sum r^{n}\) と比較すれば結果が得られる。この判定法は ダランベールの判定法 (d'Alembert's test) として知られる。後で見るように、ダランベールの判定法はコーシーの判定法よりも理論的に一般性が劣る。つまりダランベールの判定法が使えるならコーシーの判定法が必ず使えるが、逆は成り立たないことがある。さらにダランベールの判定法から得られる発散の判定法は結果 2a よりずっと一般性が劣る。全ての \(n\) または十分大きな全ての \(n\) で \(v_{n+1}/v_{n} \geq r \geq 1\) なら \(\sum v_{n}\) が発散することは示せるが、無限個の \(n\) で \(v_{n+1}/v_{n} \geq r \geq 1\) なだけでは級数が発散するとは言えない。これに対して結果 2a では条件が無限個の \(n\) で満たされるだけで発散することが分かる。それでもなおダランベールの判定法は実際の問題に対して非常に有用となる。\(v_{n}\) が複雑な関数のときには \(v_{n+1}/v_{n}\) を考えた方がずっと簡単な場合が多いためである。

解析学で登場する非常に単純なケースでは、\(n \to \infty\) で \(v_{n+1}/v_{n}\) や \(v_{n}^{1/n}\) が極限に向かう。この極限が \(1\) より小さいなら上述の結果 2 あるいは結果 3 の条件が満たされるので、次の結果が得られる:

\(n \to \infty\) で \(v_{n}^{1/n}\) または \(\dfrac{v_{n+1}}{v_{n}}\) が \(1\) より小さい極限に向かうなら、級数 \(\sum v_{n}\) は収束する。

二つの関数が \(1\) より大きい極限に収束するなら \(\sum v_{n}\) が発散することはほとんど明らかに分かる。細かな証明は読者への練習問題とする。\(v_{n}^{1/n}\) または \(v_{n+1}/v_{n}\) が \(1\) に収束するときにはこの判定法が使えなくなる。また \(v_{n}^{1/n}\) あるいは \(v_{n+1}/v_{n}\) が常に \(1\) より小さいものの、\(1\) に限りなく近づく値を取りながら振動する場合さえ判定できない。さらに \(v_{n+1}/v_{n}\) があるときには \(1\) より小さくあるときには \(1\) より大きい値を取って振動する場合にも判定できない。\(v_{n}^{1/n}\) がこのように振動する場合には結果 2a から級数の発散が示せるが、これ以外の多くの場合ではより細かな判定法が必要となる。

例 67
  1. コーシーとダランベールの判定法 (上述の結果 4) を級数 \(\sum n^{k} r^{n}\) に適用せよ。\(k\) は正の有理数とする。

    [\(v_{n+1}/v_{n} = \{(n + 1)/n\}^{k} r \to r\) なので、ダランベールの判定法から \(r \lt 1\) のとき収束し \(r \gt 1\) のとき発散すると分かる。\(r = 1\) のときはこの判定法が適用できないが、級数は明らかに発散する。\(\lim n^{1/n} = 1\) (例 27.11) だから、コーシーの判定法を使っても同じ結論が直ちに得られる]

  2. 級数 \(\sum(An^{k} + Bn^{k-1} + \cdots + K) r^{n}\) を考えよ。 [\(A\) を正とする。\(r^{n}\) の係数を \(P(n)\) とすれば \(P(n)/n^{k} \to A\) となる。§167 の定理 D から、この級数は \(\sum n^{k} r^{n}\) と同じように振る舞うと分かる]

  3. 次の級数を考えよ: \[ \sum \frac{An^{k} + Bn^{k-1} + \cdots + K} {\alpha n^{l} + \beta n^{l-1} + \cdots + \kappa} r^{n}\quad (A \gt 0,\ \alpha \gt 0) \]

    [この級数は \(\sum n^{k-l} r^{n}\) と同じように振る舞う。\(r = 1\) かつ \(k \lt l\) の場合にはさらに議論が必要になる]

  4. 第四章のその他の例 17 では、級数 \[ \sum \frac{1}{n(n + 1)},\quad \sum \frac{1}{n(n + 1) \cdots (n + p)} \] が収束することを見た。コーシーの判定法とアダマールの判定法ではこの級数の振る舞いを判定できないことを示せ。 [\(\lim u_{n}^{1/n} = \lim (u_{n+1}/u_{n}) = 1\) から分かる]

  5. \(2\) 以上の整数 \(p\) に対する \(\sum n^{-p}\) が収束することを示せ。[\(\lim \{n(n + 1)\cdots (n + p - 1)\}/n^{p} = 1\) だから、問題 4 の級数の収束性から従う。§77 の \(\text{(7)}\) では \(p = 1\) のとき発散することを見た。\(p \leq 0\) なら明らかに発散する]

  6. 級数 \[ \sum \frac{An^{k} + Bn^{k-1} + \cdots + K} {\alpha n^{l} + \beta n^{l-1} + \cdots + \kappa} \] が \(l \gt k + 1\) なら収束し、\(l \leq k + 1\) なら発散することを示せ。

  7. \(m_{n}\) が正の整数で \(m_{n+1} \gt m_{n}\) とする。\(\sum r^{m_{n}}\) は \(r \lt 1\) なら収束し、\(r \geq 1\) なら発散する。例えば級数 \(1 + r + r^{4} + r^{9} + \cdots\) は \(r \lt 1\) なら収束し、\(r \geq 1\) なら発散する。

  8. \(r = .1\) に対する級数 \(1 + 2r + 2r^{4} + \cdots\) を小数点以下第二十四位まで計算せよ。\(r = .9\) として同じ級数を小数点以下二位まで計算せよ。 [\(r = .1\) なら最初の \(5\) 項までの和が \(1.2002000020000002\) となり、誤差は \[ 2r^{25} + 2r^{36} + \cdots \lt 2r^{25} + 2r^{36} + 2r^{47} + \cdots = \frac{2r^{25}}{1 - r^{11}} \lt \frac{3}{10^{25}} \] となる。\(r = .9\) なら最初の \(8\) 項の和が \(5.458\ldots\) であり、誤差は \(2r^{64}/(1 - r^{17}) \lt .003\) より小さくなる]

  9. \(0 \lt a \lt b \lt 1\) なら \(a + b + a^{2} + b^{2} + a^{3} + \cdots\) は収束する。コーシーの判定法はこの級数に適用できるが、アダマールの判定法は適用できないことを示せ。 [等式 \[ v_{2n+1}/v_{2n} = (b/a)^{n+1} \to \infty,\quad v_{2n+2}/v_{2n+1} = b(a/b)^{n+2} \to 0 \] から分かる]

  10. 級数 \(1 + r + \dfrac{r^{2}}{2!} + \dfrac{r^{3}}{3!} + \cdots\) と \(1 + r + \dfrac{r^{2}}{2^{2}} + \dfrac{r^{3}}{3^{3}} + \cdots\) は全ての正の \(r\) に対して収束する。

  11. \(\sum u_{n}\) が収束するなら \(\sum u_{n}^{2}\) と \(\sum \dfrac{u_{n}}{1 + u_{n}}\) も収束する。

  12. \(\sum u_{n}^{2}\) が収束するなら \(\sum \dfrac{u_{n}}{n}\) も収束する。 [不等式 \(\dfrac{2u_{n}}{n} \leq u_{n}^{2} + \dfrac{1}{n^{2}}\) と \(\sum \dfrac{1}{n^{2}}\) が収束する事実から分かる]

  13. 等式 \[ 1 + \frac{1}{3^{2}} + \frac{1}{5^{2}} + \cdots = \frac{3}{4}\left(1 + \frac{1}{2^{2}} + \frac{1}{3^{2}} + \cdots \right) \] および \[ 1 + \frac{1}{2^{2}} + \frac{1}{3^{2}} + \frac{1}{5^{2}} + \frac{1}{6^{2}} + \frac{1}{7^{2}} + \frac{1}{9^{2}} + \cdots = \frac{15}{16} \left(1 + \frac{1}{2^{2}} + \frac{1}{3^{2}} + \cdots\right) \] を示せ。

    [一つ目の結果を示すには \[ \begin{aligned} 1 + \frac{1}{2^{2}} + \frac{1}{3^{2}} + \cdots & = \left(1 + \frac{1}{2^{2}}\right) + \left(\frac{1}{3^{2}} + \frac{1}{4^{2}}\right) + \cdots\\ & = 1 + \frac{1}{3^{2}} + \frac{1}{5^{2}} + \cdots + \frac{1}{2^{2}} \left(1 + \frac{1}{2^{2}} + \frac{1}{3^{2}} + \cdots\right) \end{aligned} \] を使う。この等式は §77 の \(\text{(8)}\) と \(\text{(6)}\) から分かる]

  14. \(\sum \dfrac{1}{n}\) が発散することを背理法で示せ。 [この級数が収束するなら、問題 13 と同じ議論で \[ 1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3} + \cdots = (1 + \dfrac{1}{3} + \dfrac{1}{5} + \cdots) + \dfrac{1}{2} (1 + \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3}+ \cdots) \] が分かるが、ここからは \[ \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{4} + \dfrac{1}{6} + \cdots = 1 + \dfrac{1}{3} + \dfrac{1}{5} + \cdots \] という式が得られる。左辺の級数の全ての項は右辺の級数の対応する項より小さいので、これはあり得ない]


  1. この章では \(r\) は常に正または \(0\) とする。[return]

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