§55 「\(n\) が無限大に向かうとき」について

これまで考えたことを少し異なる視点から観察する自然な方法がある。\(n\) が順に \(1,\ 2,\ 3,\ \ldots\) という値を取ると考える。「順に」という言い回しは時間の経過を暗に示しているが、例えば \(n\) が決まった時間 (例えば一秒) ごとに進むと考えればよい。\(n\) は時間の経過と共に大きくなり、その大きさは限りがない。私たちがどんなに大きな数 (例えば \(2147483647\)) を想像したとしても、\(n\) がその数よりも大きくなる瞬間がある。

この際限ない \(n\) の増加を表す簡便な表現として「\(\bm{n}\) が無限大に向かうとき (\(n\) tends to infinity)」あるいは「\(n \to \infty\)」をこれから使うことにする。ここで最後の記号 \(\infty\) は無限大を表す。「向かう」からは「順に」と同様に時間の経過が示唆されるので、上述のように \(n\) が時間と共に変化すると考える。ただしこれは考える上でそうすると分かりやすいだけに過ぎない。変数 \(n\) は論理的な対象であって、それ自体は時間と何の関係もない。

\(n\) が「\(\infty\) に向かう」と言ったとき、それは考えている \(n\) の値が大きくなり続ける終わらない列をなすことを意味する。読者はこの事実を強く心に刻んでおかなければならない。特に「無限大」という数は存在しない: 例えば \[ n = \infty \] と書いたところで、この式は全く意味を持たない。\(n\) が \(\infty\) と等しくなることは原理的にあり得ない。「\(\infty\) と等しい」が意味を持たないからである。さらに言えば、現在の私たちに対して \(\infty\) が意味を持つのは上に示した意味で「\(\infty\) に向かう」と言ったときだけであり、それ以外のときには意味を持たない。以降では \(\infty\) という記号に関連した他の言い回しに意味を与えていくが、そのときには次のことを常に意識する必要がある:

  1. \(\bm{\infty}\) 自体には意味がない。ただし \(\bm{\infty}\) を含んだ言い回しは意味を持つ場合がある。
  2. 記号 \(\infty\) を含んだ言い回しが意味を持つ全ての場合において、その言い回しが意味を持つ理由は、以前に特別な定義を通してその言い回しに意味を与えたからである。

この定義から次の事実がすぐに分かる: 大きな \(n\) に対して \(\phi(n)\) が性質 \(P\) を持ち、\(n\) が今説明した意味で「\(\infty\) に向かう」なら、いずれ考える \(n\) は十分大きくなり、\(\phi(n)\) が性質 \(P\) を持つ。さらに「\(n\) が十分大きいときに \(\phi(n)\) が持つ性質は何か?」という問題を言い換えると「\(n\) が \(\infty\) に向かうとき、\(\phi(n)\) はどのように振る舞うか?」となることも分かる。