§148 テイラー級数

点 \(x = a\) を囲む区間 \([a - \eta, a + \eta]\) で \(f(x)\) の全ての導関数が連続とする。\(h\) の絶対値が \(\eta\) より小さいなら、全ての \(n\) に対して \(\theta_{n}\ \) (\(0 \lt \theta_{n} \lt 1\)) があって \[ f(a + h) = f(a) + hf'(a) + \cdots + \frac{h^{n-1}}{(n - 1)!} f^{(n-1)}(a) + \frac{h^{n}}{n!} f^{(n)}(a + \theta_{n} h), \] が成り立つ。つまり \[ S_{n} = \sum_{0}^{n-1} \frac{h^{\nu}}{\nu!} f^{(\nu)}(a),\quad R_{n} = \frac{h^{n}}{n!} f^{(n)}(a + \theta_{n} h) \] とすれば、 \[ f(a + h) - S_{n} = R_{n} \] が成り立つ。

加えて \(n \to \infty\) で \(R_{n} \to 0\) とすれば、 \[ f(a + h) = \lim_{n\to\infty} S_{n} = f(a) + hf'(a) + \frac{h^{2}}{2!} f''(a) + \cdots \] となる。

この \(f(a + h)\) の展開にはテイラー級数 (Teylor's Series) という名前が付いている。\(a = 0\) とした \[ f(h) = f(0) + hf'(0) + \frac{h^{2}}{2!} f''(0) + \cdots \] はマクローリン級数 (Maclaurin's Series) と呼ばれ、関数 \(R_{n}\) はラグランジュの剰余項 (Lagrange's form of the remainder) と呼ばれる。

\(f(x)\) の全ての導関数の連続ならテイラー級数が存在するなどと思ってはいけない。どんなときでも \(R_{n}\) の振る舞いの直接的な議論が欠かせない。

例 56
  1. \(f(x) = \sin x\) とする。\(f(x)\) の全ての導関数は全ての \(x\) で連続となる。加えて全ての \(x\) と \(n\) で \(|f^{n}(x)| \leq 1\) が成り立つ。よって \(|R_{n}| \leq h^{n}/n!\) であり、\(h^{n}/n!\) は \(h\) の値に関わらず \(n \to \infty\) のとき \(0\) に向かう (例 27.12)。ここから \[ \sin(x + h) = \sin x + h\cos x - \frac{h^{2}}{2!}\sin x - \frac{h^{3}}{3!}\cos x + \frac{h^{4}}{4!}\sin x + \cdots \] が全ての \(x\) と \(h\) で成り立つと分かる。特に全ての \(h\) に対して \[ \sin h = h - \frac{h^{3}}{3!} + \frac{h^{5}}{5!} - \cdots \] である。同様に \[ \begin{aligned} \cos(x + h) & = \cos x - h\sin x - \frac{h^{2}}{2!}\cos x + \frac{h^{3}}{3!} \sin x + \cdots,\quad \\ \cos h & = 1 - \frac{h^{2}}{2!} + \frac{h^{4}}{4!} - \cdots \end{aligned} \] を示せる。

  2. 二項級数: \(m\) を正または負の有理数として、\(f(x) = (1 + x)^{m}\) と定める。このとき \(f^{(n)}(x) = m(m - 1) \cdots (m - n + 1) (1 + x)^{m-n}\) だから、マクローリン級数は次の形となる: \[ (1 + x)^{m} = 1 + \binom{m}{1}x + \binom{m}{2}x^{2} + \cdots \]

    \(m\) が正の整数なら級数は途中で打ち切られ、正の整数に対する通常の二項定理が得られる。一般的な場合には \[ R_{n} = \frac{x^{n}}{n!} f^{(n)}(\theta_{n}x) = \binom{m}{n}x^{n}(1 + \theta_{n}x)^{m-n} \] だから、ある \(x\) の区間で正の整数でない \(m\) に対してこのマクローリン級数が本当に \((a + x)^{m}\) を表すと示すには、その区間の全ての \(x\) で \(R_{n} \to 0\) を示さなければならない。実は \(R_{n}\) は \(-1 \lt x \lt 1\) で収束し、\(0 \leq x \lt 1\) の場合の収束は簡単に示せる。\(0 \leq x \lt 1\) なら \(n \gt m\) のとき \((1 + \theta_{n}x)^{m-n} \lt 1\) であり、\(n \to \infty\) のとき \(\dbinom{m}{n} x^{n} \to 0\) が成り立つ (例 27.13)。しかし \(-1 \lt x \lt 0\) のときには証明が難しくなる。\(n \gt m\) では \(1 + \theta_{n}x \lt 1\) と \((1 + \theta_{n}x)^{m-n} \gt 1\) が成り立つが、\(0 \lt \theta_{n} \lt 1\) だけでは「\(1 + \theta_{n}x\) がとても小さく \((1 + \theta _{n}x)^{m-n}\) がとても大きい」というケースを排除できない。

    実はテイラーの定理を使って二項定理を証明するには、\(R_{n}\) を別の形で表す必要がある。これは §162 で示す。

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