§164 実変数の複素関数の積分
ここまで定積分の被積分関数は実関数だとしてきた。実変数 \(x\) の複素関数 \(f(x) = \phi(x) + i\psi(x)\) の \(a\) から \(b\) までの間の積分は次のように定義する: \[ \int_{a}^{b} f(x)\, dx = \int_{a}^{b} \{\phi(x) + i\psi(x)\}\, dx = \int_{a}^{b} \phi(x)\, dx + i \int_{a}^{b} \psi(x)\, dx \] この積分がこれまでに考えた実関数の積分と変わらない性質を持つことは明らかに分かる。
そのような性質の中に以降で使うことになるものが一つある。その性質は次の不等式で表される1: \[ \left|\int_{a}^{b} f(x)\, dx\right| \leq \int_{a}^{b} |f(x)|\, dx \qquad \text{(1)} \] この不等式は §156–§157 の定義から容易に示せる。\(\delta_{\nu}\) が §156 と同じ意味を持ち、\(\delta_{\nu}\) の適当な点における \(\phi\) と \(\psi\) の値を \(\phi_{\nu}\) と \(\psi_{\nu}\) とする。さらに \(f_{\nu} = \phi_{\nu} + i\psi_{\nu}\) とすれば \[ \begin{aligned} \int_{a}^{b} f\, dx & = \int_{a}^{b} \phi\, dx + i \int_{a}^{b} \psi\, dx \\ & = \lim \sum \phi_{\nu}\, \delta_{\nu} + i \lim \sum \psi_{\nu}\, \delta_{\nu} \\ & = \lim \sum (\phi_{\nu} + i\psi_{\nu})\, \delta_{\nu} = \lim \sum f_{\nu}\, \delta_{\nu} \end{aligned} \] であり、ここから \[ \left|\int_{a}^{b} f\, dx\right| = \left|\lim \sum f_{\nu}\, \delta_{\nu}\right| = \lim \left|\sum f_{\nu}\, \delta_{\nu}\right| \] が分かる。さらに \[ \int_{a}^{b} |f|\, dx = \lim \sum |f_{\nu}|\, \delta_{\nu} \] だから、求めたい不等式は \[ \left|\sum f_{\nu}\, \delta_{\nu}\right| \leq \sum |f_{\nu}|\, \delta_{\nu} \] から容易に示せる。
§162 の式 \(\text{(1)}\) と \(\text{(2)}\) が \(f\) が複素関数 \(\phi + i\psi\) の場合にも成り立つことも分かる。