§13 二次の不尽根数

有理数の二乗でない正の有理数 \(a\) に対して、\(±\sqrt{a}\) の形をした実数を純粋な二次の不尽根数 (pure quadratic surd) と呼ぶ。有理数 \(a\) と純粋な二次の不尽根数 \(\sqrt{b}\) に対して、\(a ± \sqrt{b}\) の形をした数を混ざった二次の不尽根数 (mixed quadratic surd) と呼ぶことがある。

二つの実数 \(a ± \sqrt{b}\) は次の二次方程式の根である: \[ x^{2} - 2ax + a^{2} - b = 0 \] 逆に \(p, q\) が有理数で \(p^{2} - q \gt 0\) なら、二次方程式 \(x^{2} + 2px + q = 0\) は二つの二次の不尽根数 \(-p ± \sqrt{p^{2} - q}\) を根に持つ。

§3 に示した幾何学的な考察によって存在が示される無理数は、純粋な二次の不尽根数、混ざった二次の不尽根数、そして二乗根を何度か使って表せる入り組んだ無理数に限られる。最後の例としては次の数がある: \[ \sqrt{2} + \sqrt{2 + \sqrt{2}} + \sqrt{2 + \sqrt{2 + \sqrt{2}}} \]

こういった形をした数と同じ長さの線分の幾何学的な構築は簡単に行える。読者はすぐに自分でできるだろう。ユークリッドの方法 (定規とコンパスを使った幾何学的な作図) で構築できるのがこの形の無理数に限られるのは重要な事実である (が、その証明は今は示さない。第二章に関するその他の例を参照)。この特徴により、二次の不尽根数は非常に興味深い数となる。

例 7
  1. 次の数を幾何学的に構成する方法を示せ: \[ \sqrt{2},\quad \sqrt{2 + \sqrt{2}},\quad \sqrt{2 + \sqrt{2 + \sqrt{2}}} \]

  2. 二次方程式 \(ax^{2} + 2bx + c = 0\) は \(b^{2} - ac \gt 0\) のとき実数の根を二つ持つ1。\(a,\ b,\ c\) は有理数とするが、三つの数の最小公倍数を両辺に乗じれば全て整数となるので、最初から整数と仮定しても問題はない。

    この方程式の根が \(\{-b ± \sqrt{b^{2} - ac}\}/a\) であることを読者は覚えているだろう。\(\sqrt{b^{2} - ac}\) から作っていけば、この長さの幾何学的な構築は簡単に行える。これよりも複雑だがずっと美しい構築を次に示す。

    直径が \(PQ\) の単位円を取り、\(PQ\) の両端で接線を引く。

    \(PP' = -2a/b\) と \(QQ' = -c/2b\) を符号を考慮して取る2。\(P'Q'\) をつなぎ、円との交点を \(M,\ N\) とする。\(PM\) と \(PN\) をつなぎ、\(QQ'\) の交点を \(X,\ Y\) とする。すると \(QX\) と \(QY\) が二次方程式の適切な符号付きの根となる3

    証明は簡単なので読者への練習問題とする。もう一つのより単純な構築は次の通りである: 単位長の線分を \(AB\) とする。\(BC = -2b/a\) を \(AB\) と垂直に取り、\(CD = c/a\) を \(BC\) に垂直に \(AB\) と同じ方向に取る。\(AD\) を直径とする円と \(BC\) の交点を \(X,\ Y\) とする。このとき \(BX\) と \(BY\) が根となる。

  3. 前問の一番目の構築において、\(ac\) が正なら \(PP'\) と \(QQ'\) は同じ方向に伸びる。さらに \(b^{2} \lt ac\) なら \(P'Q'\) が円と交わらず、\(b^{2} = ac\) なら \(P'Q'\) が接線になることを示せ。また二番目の構築において \(b^{2} = ac\) なら円が \(BC\) に接することを示せ。

  4. 次を示せ: \[ \sqrt{pq} = \sqrt{p} × \sqrt{q},\quad \sqrt{p^{2}q} = p\sqrt{q} \]


  1. つまり \(ax^{2} + 2bc + c = 0\) を満たす \(x\) の値が二つある。\(b^{2} - ac \lt 0\) ならその条件を満たす \(x\) は存在しない。初等代数ではそのような場合に「虚」根が存在すると言うことを読者は知っているはずである。この言葉の意味は 第三章 で説明される。

    \(b^{2} = ac\) のとき方程式は根を一つだけ持つ。考え方を統一するために「二つの等しい」根を持つと言う場合が多いが、これは慣習に過ぎない。[return]

  2. 図では \(b\) と \(c\) の符号が同じで、\(a\) の符号が異なっている。他の場合の図も書いてみるとよい。[return]

  3. この構築はクライン著 Leçons sur certaines questions de géométrie élémentaire (J・グリースによる仏訳, 1896, Paris) から取った。[return]

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