§54 \(n\) が大きいときの \(n\) の関数の性質 (その 2)
\(\phi(n)\) と \(P\) が前節の命題 (a) を満たす、つまり有限個の例外を除いた全ての \(n\) で \(\phi(n)\) が成り立つとする。例外の数を \(N\) として、全ての例外を \[ n_{1},\ n_{2},\ \ldots,\ n_{N} \] と表記する。当然これら \(N\) 個の値が最初の \(N\) 個の値 \(1,\ 2,\ \ldots,\ N\) である必要はない。実際に考える関数ではたいてい例外が \(1,\ 2,\ \ldots,\ N\) になるが、そうでなくとも \(n \gt n_{N}\) なら \(\phi(n)\) が性質 \(P\) を持つと言えればよい。例えば \(n\) 番目の素数は奇数となるのは \(n \gt 2\) のときであり、\(n = 2\) が唯一の例外となる。あるいは \(1/n \lt .001\) となるのは \(n \gt 1000\) のときで、最初から \(1000\) 個の \(n\) の値が例外となる。あるいは \[ \frac{1000\{1 + (-1)^{n}\}}{n} \lt 1 \] となるのは \(n \gt 2000\) のときで、例外は \(2,\ 4,\ 6,\ \ldots,\ 2000\) となる。つまり、こういった場合には最初の有限個より後ろの全ての \(\bm{n}\) が考えている性質を持つ。
これからこの事実を、\(\phi(n)\) が「大きい \(n\) で成り立つ」「非常に大きい \(n\) で成り立つ」「十分に大きい全ての \(n\) で成り立つ」などと表現する。そしてこのとき「\(\bm{\phi(n)}\) は大きな \(\bm{n}\) に対して性質 \(\bm{P}\) を持つ」と言う (性質 \(P\) は不等式で表されることが多い)。これはとある有限の値 \(n_{0}\) があって「\(n_{0}\) 以上の全ての \(n\) で \(\phi(n)\)」が成り立つことを意味する。例えば上記の例では、\(n_{0}\) として \(n_{N}\) (最大の例外) より大きい任意の数を取れる: \(n_{N} + 1\) とするのが自然だろう。
よって「大きい素数は全て奇数である」あるいは「大きい \(n\) に対して \(1/n\) は \(.001\) より小さい」といった命題の意味が定まる。読者はこういった命題における「大きい」という言葉の使い方をよく納得しておかなければならない。実のところ数学における大きいという言葉には決まった基準が存在せず、その意味では日常生活で使う「大きい」と大差ない。日常生活において、あるときには大きい数字も別のときには小さくなる例は当たり前のようにある: サッカーで \(6\) ゴールは大きな得点だが、クリケットで \(6\) ランは大きいとは言えない。クリケットの \(400\) ランは大きいが、£ \(400\) の収入はそうでもない。そして数学でも、一般的に言って大きい (large) は十分に大きい (large enough) を意味する。あるとき十分大きい数字も、別のときには十分大きくない可能性がある。
「大きい \(n\) に対して \(\phi(n)\) は性質 \(P\) を持つ」という主張が何を意味するのか理解できたと思う。この章ではこういった命題について考えていく。