§102 連続関数の値域
区間 \([a, b]\) 内の全ての \(x\) で定義された \(\phi(x)\) を考える。これ以外の仮定は考えない。
\([a, b]\) に含まれる全ての \(x\) に対する \(\phi(x)\) の値を集めると、集合 \(S\) が構成される。この \(S\) には (§81 で \(n\) の関数に対して行ったように) §80 の議論を適用できる。例えば考えている全ての \(x\) について \(\phi(x) \leq K\) となる \(K\) が存在するなら、\(\phi(x)\) は上に有界 (bounded above) と言う。このとき、全ての \(\phi(x)\) は \(M\) 以下だが \(M\) より小さい任意の値に対してそれより大きい \(\phi(x)\) が少なくとも一つ必ず存在するという \(M\) がある。この \(M\) を上限 (supremum) と呼ぶ。連続変数 \(x\) の関数に対する下に有界、下限、有界の意味を同様に定義する。
\(\phi(x)\) が \([a, b]\) で連続なら \([a, b]\) で有界である。
証明は次の通り。\(\phi(x)\) が \(x = a\) で連続なので、任意の正の \(\varepsilon\) に対して、\(\varepsilon\) がどれだけ小さくとも、\(\phi(x)\) が \(\phi(a) - \varepsilon\) と \(\phi(a) + \varepsilon\) の間に収まる \(x\) の区間 \([a, \xi]\) が存在する。その区間では \(\phi(x)\) は有界なので、\(a\) から右に伸びる区間 \([a, \xi]\) であって \(\phi(x)\) が有界となるものが存在すると言える。
区間 \([a, b]\) に属する点 \(\xi\) を二つのクラス \(L,\ R\) に分割する。\(\phi(x)\) が \([a, \xi]\) で有界なら \(\xi\) を \(L\) に入れ、そうでないなら \(R\) に入れる。前段落の議論から \(L\) は存在すると分かるので、後は \(R\) が空だと示せばよい。\(R\) が空でないと仮定し、\(L\) と \(R\) の切断に対応する実数を \(\beta\) とする。\(\phi(x)\) は \(x = \beta\) で連続なので、任意に小さい正の実数 \(\varepsilon\) に対して \[ \phi(\beta) - \varepsilon \lt \phi(x) \lt \phi(\beta) + \varepsilon \] が成り立つ区間 \([\beta - \eta, \beta + \eta]\) が存在する1。\(\beta\) に関する仮定から \(\beta - \eta\) は \(L\) に属するので、\(\phi(x)\) は \([a, \beta - \eta]\) で有界と分かる。よって \(\phi(x)\) は区間 \([a, \beta + \eta]\) 全体で有界と結論できる。しかし \(\beta + \eta\) が \(R\) に属するので、\(\phi(x)\) は \([a, \beta + \eta]\) で有界でない。この矛盾から \(R\) が存在しないと分かる。つまり \(\phi(x)\) は区間 \([a, b]\) 全体で有界である。
\([a, b]\) で \(\phi(x)\) が連続で \(M\) と \(m\) がその上限と下限なら、\(\phi(x)\) は区間内で \(M\) と \(m\) を少なくとも一度ずつ取る。
証明は次の通り。与えられた任意の正の実数 \(\varepsilon\) に対して、\(M - \phi(x) \lt \varepsilon\) つまり \(1/\{M - \phi(x)\} \gt 1/\varepsilon\) となる \(x\) が存在する。よって \(1/\{M - \phi(x)\}\) は \([a, b]\) で有界でないので、一つ前の定理から不連続と分かる。一方 \(M - \phi(x)\) は連続関数であり、\(1/\{M - \phi(x)\}\) は分母が \(0\) にならない限り連続である (例 37.1)。よって分母が \(0\) となる点が存在し、この点で \(\phi(x) = M\) となる。同様に \(\phi(x) = m\) となる点も存在する。
これはどちらかと言うと手が込んでいて間接的な証明と言える。この定理はとても重要なので、後で別証明を示す2。
-
\(x \neq 0\) で \(\phi(x) = 1/x\)、\(x = 0\) で \(\phi(x) = 0\) とする。\(x = 0\) を含む任意の区間 (例えば \([-1, 1]\)) で \(\phi(x)\) は上限も下限も持たない。
-
\(x \neq 0\) で \(\phi(x) = 1/x^{2}\)、\(x = 0\) で \(\phi(x) = 0\) とする。区間 \([-1, +1]\) で \(\phi(x)\) は下限 \(0\) を持つが、上限は持たない。
-
\(x \neq 0\) で \(\phi(x) = \sin(1/x)\) 、\(x = 0\) で \(\phi(x) = 0\) とする。\(\phi(x)\) は \(x = 0\) で不連続であり、任意の区間 \([-\varepsilon, +\varepsilon]\) で下限 \(-1\) と上限 \(+1\) を持つ。その区間内に \(\phi(x)\) が上限および下限と等しくなる \(x\) は無限に存在する。
-
\(\phi(x) = x - [x]\) なら、この関数は整数の \(x\) で不連続となる。区間 \([0, 1]\) における \(\phi(x)\) の上限は \(1\) で下限は \(0\) である。\(x = 0\) で \(\phi(x)\) は \(0\) となるが、この区間で \(\phi(x)\) が \(1\) になることはない。つまり \(\phi(x)\) は上限と等しくならない。
-
\(x\) が無理数のとき \(\phi(x) = 0\)、\(x\) が有理数 \(p/q\) のとき \(\phi(x) = q\) とする。任意の区間 \([a, b]\) について \(\phi(x)\) の下限は \(0\) で上限は存在しない。また有理数 \(x = p/q\) に対して \(\phi(x) = (-1)^{p}q\) とした場合には \(\phi(n)\) は下限も上限も持たなくなる。