§72 \(x^n\) の極限
§69 の結果を \(\phi(n) = x^{n}\) という特に重要な関数に適用しよう。\(x = 1\) なら \(\phi(n) = 1\) で \(\lim\phi(n) = 1\) となり、\(x = 0\) なら \(\phi(n) = 0\) で \(\lim \phi(n) = 0\) となる。これらの特殊ケースについてこれ以上考える必要はない。
まず \(x\) が正だとする。すると \(\phi(n + 1) = x\phi(n)\) なので、\(x \gt 1\) なら \(\phi(n)\) は \(n\) と共に増加し、\(x \lt 1\) なら \(n\) と共に減少する。
もし \(x \gt 1\) なら、\(x^{n}\) は (明らかに \(1\) より大きい) 極限または \(+\infty\) に向かう。極限 \(l\) に向かうなら 例 25.7 から \(\lim\phi(n + 1) = \lim\phi(n) = l\) であり、ここから \[ \lim\phi(n + 1) = \lim x\phi(n) = x\lim\phi(n) = xl \] となって \(l = xl\) が分かる。しかし \(x\) と \(l\) はどちらも \(1\) より大きいので、これはあり得ない。よって \[ x^{n} \to +\infty\quad (x \gt 1) \] が分かる。
読者は次の別証明を考え付くかもしれない。正の \(\delta\) を使って \(x = 1 + \delta\) とすれば二項定理から \(x^{n} \gt 1 + n\delta\) が分かるので、この式から \[ x^{n} \to +\infty \] が示せる。
一方で \(x \lt 1\) なら \(x^{n}\) は減少関数であり、極限または \(-\infty\) に向かう。\(x^{n}\) は正だから二番目の選択肢は無視できる。\(\lim x^{n} = l\) とおけば前と同じ理由で \(l = xl\) であり、\(l = 0\) が分かる。つまり \[ \lim x^{n} = 0\quad (0 \lt x \lt 1) \] である。
一つ前の例と同じ方法で \(0 \lt x \lt 1\) のとき \((1/x)^{n}\) が \(+\infty\) に向かうと示し、ここから \(x^{n}\) が \(0\) に向かうことを証明せよ。
最後に \(x\) が負の場合を考える。もし \(-1 \lt x \lt 0\) なら、\(x = -y\) とすれば \(0 \lt y \lt 1\) であり \(\lim y^{n} = 0\) が分かる。よって \(\lim x^{n} = 0\) となる。もし \(x = -1\) なら \(x^{n}\) は \(1\) と \(-1\) の間で振動する。最後に \(x \lt -1\) なら、\(x = -y\) とすれば \(y \gt 1\) であり \(y^{n}\) は \(+\infty\) に向かう。よって \(x^{n}\) は正負の符号を交互に取り、その絶対値は任意の数より大きくなる。つまり \(x^{n}\) は無限に振動する。以上の結果を次にまとめる: \[ \begin{alignedat}{2} & \phi(n) = x^{n} \to +\infty & & (x \gt 1),\\ & \lim \phi(n) = 1 & & (x = 1),\\ & \lim \phi(n) = 0 & & (-1 \lt x \lt 1),\\ & \phi(n) \text{ は有限に振動する} & & (x = -1),\\ & \phi(n) \text{ は無限に振動する} \qquad & & (x \lt -1) \end{alignedat} \]
この例は特に重要であり、一部は本書でこれから利用される。よく注意して取り組むこと。
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\(\phi(n)\) が常に正とする。ある \(K \gt 1\) が存在して全ての \(n\) に対して \(\phi(n + 1) \gt K \phi(n)\) なら、\(\phi(n) \to +\infty\) となる。
[不等式 \[ \phi(n) \gt K\phi(n - 1) \gt K^{2}\phi(n - 2) \cdots \gt K^{n-1}\phi(1) \] と \(K^{n} \to \infty\) からすぐに分かる]
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前問と同じ設定で条件が成り立つのが \(n \geq n_{0}\) のときだけでも結果は変わらない。
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\(\phi(n)\) が常に正で \(0 \lt K \lt 1\) に対して \(\phi(n + 1) \lt K \phi(n)\) なら \(\lim \phi(n) = 0\) が成り立つ。条件が満たされるのが \(n \geq n_{0}\) のときだけでも結果は変わらない。
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\(0 \lt K \lt 1\) に対して \(n \geq n_{0}\) のとき \(|\phi(n + 1)| \lt K|\phi(n)|\) なら \(\lim\phi(n) = 0\) が成り立つ。
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\(\phi(n)\) が正で \(\displaystyle \lim\{\phi(n + 1)/\phi(n)\} = l \gt 1\) なら \(\phi(n) \to +\infty\) が成り立つ。
[\(n \geq n_{0}\) で \(\phi(n + 1)/\phi(n) \gt K \gt 1\) となる \(n_{0}\) を取れる。例えば \(K\) を \(1\) と \(l\) の中間の値とすればよい。後は問題 1 を適用できる]
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\(\displaystyle \lim\frac{\phi(n + 1)}{\phi(n)} = l\) で、\(l\) の絶対値が \(1\) より小さいなら \(\lim\phi(n) = 0\) が成り立つ。 [問題 5 が問題 1 を使って示せたように、この問題は問題 4 を使って示せる]
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\(\phi(n) = n^{r}x^{n}\) の \(n \to \infty\) における振る舞いを調べよ。\(r\) は正の整数とする。
[\(x = 0\) なら全ての \(n\) に対して \(\phi(n) = 0\) で \(\phi(n) \to 0\) となる。そのほかの全ての場合で \[ \frac{\phi(n + 1)}{\phi(n)} = \left(\frac{n + 1}{n}\right)^{r}x \to x \] が成り立つ。\(x\) が正なら、\(x \gt 1\) のとき \(\phi(n) \to +\infty\) (問題 5) および \(x \lt 1\) のとき \(\phi(n) \to 0\) (問題 6) となる。一方で \(x\) が負なら、\(|x| \geq 1\) のとき \(|\phi(n)| = n^{r}|x|^{n}\) は \( +\infty\) に向かい、\(|x| \lt 1\) なら \(0\) に向かう。よって \(x \leq -1\) のとき \(\phi(n)\) は無限に振動し、\(-1 \lt x \lt 0\) のとき \(\phi(n) \to 0\) となる]
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\(n^{-r}x^{n}\) について同様に議論せよ。 [\(x=1,\ -1\) のとき \(\phi(n) \to 0\) になる点を除けば同じ結果となる]
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\(n \to \infty\) における \(n^{k}x^{n}\) の振る舞いを表にまとめよ。\(x\) は実数全て、\(k\) は正および負の整数全てを取るとする。
[\(x = 1\) と \(x = -1\) の特殊ケースを除けば \(k\) の値が意味を持たないことが分かるだろう。\(k\) が正であれ負であれ \(\lim\{(n + 1)/n\}^{k} = 1\) だから、比 \(\phi(n + 1)/\phi(n)\) の極限は \(x\) だけに依存する。つまり \(\phi(n)\) の一般的な挙動は \(x^{n}\) によって支配され、\(n^{k}\) の部分が意味を持つのは \(x\) の絶対値が \(1\) のときだけとなる]
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\(x\) が正なら \(n \to \infty\) のとき \(\sqrt[n]{x} \to 1\) だと示せ。
[\(x \gt 1\) とすれば \(x,\ \sqrt{x},\ \sqrt[3]{x},\ \ldots\ \) は減少列であり、加えて全ての \(n\) に対して \(\sqrt[n]{x} \gt 1\) が成り立つ。よってある \(l \geq 1\) に対して \(\sqrt[n]{x} \to l\) が分かる。もし \(l \gt 1\) なら \(\sqrt[n]{x} \gt l\) つまり \(x \gt l^{n}\) を満たす好きなだけ大きな \(n\) をいくらでも見つけられることになるが、\(n \to \infty\) のとき \(l^{n} \to +\infty\) なのでこれはあり得ない]
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\(\sqrt[n]{n}\to 1\)
[\((n + 1)^{n} \lt n^{n+1}\) つまり \(\{1 + (1/n)\}^{n} \lt n\) なら \(\sqrt[n+1]{n + 1} \lt \sqrt[n]{n}\) となる。この条件は \(n \geq 3\) なら成り立つ (証明は §73 を参照)。よって \(\sqrt[n]{n}\) は \(3\) 以降の \(n\) で減少し、かつ全て \(1\) より大きい。命題「\(\sqrt[n]{n}\to l\) で \(l \gt 1\)」が成り立つなら \(n \gt l^{n}\) となるが、\(n \to \infty\) のとき \(l^{n}/n \to +\infty\) (問題 7, 8) なので十分大きな \(n\) に対してこの命題は成り立たない]
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\(\sqrt[n]{n!} \to +\infty\)
[\(\Delta\) がどれだけ大きくとも、\(n\) が十分大きければ \(n! \gt \Delta^{n}\) が成り立つ: \(u_{n} = \Delta^{n}/n!\) とすれば \(u_{n+1}/u_{n} = \Delta/(n + 1)\) であり、これは \(n \to \infty\) のとき \(0\) に向かう。よって \(u_{n}\) も同じく \(0\) に向かう (問題 6)]
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\(-1 \lt x \lt 1\) なら \[ u_{n} = \frac{m(m - 1) \cdots (m - n + 1)}{n!} x^{n} = \binom{m}{n} x^{n} \] が \(n \to \infty\) で \(0\) に向かうと示せ。
[\(m\) が正の整数なら \(n \gt m\) のとき \(u_{n} = 0\) となる。そうでなければ \[ \frac{u_{n+1}}{u_{n}} = \frac{m - n}{n + 1}x \to -x \] が成り立つ (\(x = 0\) のときは除く)]