§15 連続体

全ての実数 (有理数と無理数) の集まりを算術的連続体 (arithmetical continuum) と呼ぶ。

§2 の直線 \(\Lambda\) が算術的連続体に含まれる数に対応する点のみからなる1と考えると理解しやすい。線形連続体 (linear continuum) と呼ばれるこの直線上の点の集合は、算術的連続体の分かりやすいイメージとなる。

ここまではいくらかの時間をかけて、いくつかの実数のクラス、例えば有理数や二次の不尽根数が持つ重要な特徴を見てきた。ここでさらに例を示して、そういった非常に特別な個別のクラスが、算術的連続体を構成する無限に多くの数の (大雑把に言って) ほんの一部でしかないことを示す。

  1. 不尽根数を使ったこれまでよりも複雑な次の式を考える: \[ z = \sqrt[3]{4 + \sqrt{15}} + \sqrt[3]{4 - \sqrt{15}} \] \(z\) を表すこの式が意味を持つことの議論の一例を示す。まず §12 と同様に \(y^{2} = 15\) を満たす数 \(y = \sqrt{15}\) が存在することが示せる。そうすれば §10 と同様に \(4 + \sqrt{15},\ 4 - \sqrt{15}\) を定義できるので、続いて \(z_{1}\) に関する次の方程式を考える: \[ z_{1}^{3} = 4 + \sqrt{15} \] この方程式の右辺は有理数でない。しかし \(x^{3} = 2\) (あるいは他の有理数) を満たす実数 \(x\) が存在するのと同じ議論で、\(z_{1}^{3} = 4 + \sqrt{15}\) を満たす数 \(z_{1}\) が存在すると結論できる。そうすれば \(z_{1} = \sqrt[3]{4 + \sqrt{15}}\) および \(z_{2} = \sqrt[3]{4 - \sqrt{15}}\) を定義でき、§10 と同様にして \(z = z_{1} + z_{2}\) を定義できる。

    また \(z\) が与えられれば、次の等式2が成り立つかどうかは簡単に確認できる: \[ z^{3} = 3z + 8 \] この事実を使えば、\(z^{3} = 3z + 8\) を満たす実数 \(z\) がただ一つ存在することを直接的に証明できる。まず、そのような数が二つは存在しないことは容易に分かる。もし \(z_{1}^{3} = 3z_{1} + 8\) かつ \(z_{2}^{3} = 3z_{2} + 8\) だとすれば、両辺を引いて \(z_{1} - z_{2}\) で割ると \(z_{1}^{2} + z_{1}z_{2} + z_{2}^{2} = 3\) となる。さらにもし \(z_{1}\) と \(z_{2}\) が正であれば \(z_{1}^{3}\gt8\) かつ \(z_{2}^{3}\gt8\) であり、したがって \(z_{1} \gt 2,\ z_{2} \gt 2,\ z_{1}^{2} + z_{1}z_{2} + z_{2}^{2} \gt 12\) が分かる。つまり方程式は満たされない。さらに \(z_{1}\) と \(z_{2}\) が負でないのも容易に示せる。もし \(z_{1}\) が負で \(-\zeta\) だったとすると、\(\zeta\) は正であり \(\zeta^{3} - 3\zeta + 8 = 0\) すなわち \(3 - \zeta^{2} = 8/\zeta\) が成り立つ。よって \(3 - \zeta^{2} \gt 0\) となって \(\zeta \lt 2\) が分かる。しかしこのとき \(8/\zeta \gt 4\) であり、\(8/\zeta\) は \(3\) より小さい \(3 - \zeta^{2}\) と等しくならない。

    よって \(z^{3} = 3z + 8\) を満たす \(z\) は多くとも一つしかない。さらに \(z\) が有理数でないことも分かる。この方程式の有理根は整数かつ \(8\) の因数でなければならず (例 2.3)、\(1,\ 2,\ 4,\ 8\) がどれも根でないのはすぐに確認できるからである。

    以上より \(z^{3} = 3z + 8\) は多くとも一つの根を持ち、根が存在するならそれは正であり有理数でないことが分かる。有理数 \(x\) を \(x^{3} \lt 3x + 8\) であるものと \(x^{3} \gt 3x + 8\) であるものに分割して \(L,\ R\) とする。\(x^{3} \gt 3x + 8\) ならば \(x\) より大きい任意の \(y\) も \(y^{3} \gt 3y + 8\) を満たすのは明らかである。仮に \(y^{3} \leq 3y + 8\) だとすると、\(x^{3} \gt 3x + 8\) と両辺を引けば \(y^{3} - x^{3} \lt 3(y - x)\) すなわち \(y^{2} + xy + x^{2} \lt 3\) となるが、\(y\) が正で (\(x^{3} \gt 8\) から) \(x \gt 2\) なのでこれはあり得ない。同様にして \(x^{3} \lt 2x + 8\) かつ \(y \lt x\) ならば \(y^{3} \lt 3y + 8\) が分かる。

    最後に、\(L\) と \(R\) がどちらも存在することは容易に示せる。そして \(L\) と \(R\) が構成するのは正の有理数の切断、すなわち方程式 \(z^{3} = 3z + 8\) を満たす実数 \(z\) である。あるいはカルダノの方法を使った三次方程式の解法を使えば、方程式から直接 \(z\) の明示的な式を得られる。

  2. 方程式 \(x^{3} = 3x + 8\) に用いた上記の直接的な議論は (多少難しくはなるが) 次の方程式にも適用できる: \[ x^{5} = x + 16 \] その結果として、この方程式を満たす単一の正の実数の存在が結論できる。ただしこの場合には、不尽根数の組み合わせからなる \(x\) の単純な表現を得ることはできない。実は、次数が \(4\) より大きい方程式の根に対するそういった表現を一般的に見つけるのは不可能であることが示されている (ただし証明は難しい)。そのため、純粋な二次の不尽根数、混ざった二次の不尽根数、その他の不尽根数、およびそれらを組み合わせてできる実数の他にも、代数方程式の根であるがそういった形に表現できない数が存在する。実数に対してこういった不尽根数を使った表現が見つかるのは非常に特殊な場合に限られる。

  3. しかし、私たちが考えてきた無理数のリストに方程式 (\(x^{5} = x + 16\) など) の不尽根数でない根を加えたとしても、そのリストが算術的連続体に含まれる無理数を全て含むわけではない。直径が \(A_{0}A_{1}\) (単位直線) の円を描いたとき、その円周の長さを数値として表せると考えるのが自然である3。通常 \(\pi\) と表されるこの長さは、整数係数代数方程式の根でないことが証明されている4 (残念ながら証明は長く、難しい)。整数係数代数方程式とは例えば \[ \pi^{2} = n,\quad \pi^{3} = n,\quad \pi^{5} = \pi + n \] である (\(n\) は整数)。こういった方法を使うと、これまでに考えたどの無理数のクラスにも属さず有理数でもない数を定義できる。この \(\pi\) という数は独立した特殊ケースではなく、これ以外の例もいくらでも構築できる。実際、整数係数の代数方程式の根である無理数は特殊なクラスに過ぎず、不尽根数を使って表せる数はそれに含まれるさらに小さいクラスである。


  1. この命題は仮定に過ぎない。これを採用できる理由は、(i) 幾何学の目的を考えれば十分である、そして (ii) 解析学における手続きの幾何学的な図示がしやすくなる、ためである。私たちは幾何学の言語を図示にのみ用いるので、幾何学の基礎を掘り下げる必要はない。[return]

  2. 訳注: この等式は \(z = \sqrt[3]{4 + \sqrt{15}} + \sqrt[3]{4 - \sqrt{15}}\) で満たされる。[return]

  3. この証明は第七章にある。[return]

  4. ホブソン著 Trigonometry (3rd edition), pp. 305 et seq. あるいは同じくホブソン著 Squaring the Circle (Cambridge, 1913) を参照。[return]

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