補遺四 解析学と幾何学における無限

「無限遠にある直線」や「無限遠にある円周上の点」など、解析幾何学における系の中には “無限の” 要素が存在する場合がある。この短い文章の目的は、こういった概念が解析学における極限とは全く関係がないと示すことである。

通常の “デカルト幾何学” (Cartesian geometry) では実数の組 \(\bm{(x, y)}\)と呼び、どちらかが \(0\) でない実数 \(a,\ b\) を使った線形関係 \(ax + by + c = 0\) を満たす点の集合を直線と呼ぶ。無限の要素は存在せず、二つの直線に共通する点が存在しないことがあり得る。

“実同次幾何学” (real homogeneous geometry) の系では、いずれかが \(0\) でない実数の三つ組 \(\bm{(x, y, z)}\) を点と呼び、いずれかが \(0\) でない三つの実数 \(a,\ b,\ c\) を使った線形関係 \(ax + by + cz = 0\) を直線と呼ぶ。複数の点や直線が同じものを指す系もあれば、“特殊な” 点や直線が特別に区別される系もある。この特殊な要素と他の要素の関係に注目する。例えば “実同次デカルト幾何学” (real homogeneous Cartesian geometry) では \(z = 0\) を満たすのが特殊な点であり、直線 \(z = 0\) が特殊な直線となる。この特殊な直線を “無限遠にある直線” と呼ぶ。

本書は幾何学の本ではないので、この問題を深く考えることはしない。重要なのは次の点である。解析学の無限は無限に向かわせる “操作” であり、“本当の” 無限ではない。本書で \(\infty\) という記号は “不完全な” 記号であり、この記号を含んだ表現に意味があることはあっても、\(\infty\) 自体に独立した意味が付与されることはなかった。しかし幾何学の無限は本当の無限であり、無限に向かわせる操作を表すのではない。“無限遠にある直線” は他の直線と同じ意味で直線を表す。

“同次” と “通常” のデカルト幾何学の間に対応関係を作って、特殊な要素を除いた前者の要素を後者の要素に対応させることができる。例えば直線 \(ax + by + cz = 0\) は直線 \(ax + by + c = 0\) に対応し、前者の直線上の各点は \(z = 0\) を満たす点を除いて後者に対応する点が存在する。このとき前者の直線 \(ax + by + cz = 0\) 上の点 \((x, y, z)\) を \(z = 0\) となる特殊な点に向かって移動させると、後者の直線上の点は原点からの距離が無限大になるように移動する。この対応関係は歴史的に重要と言える。ここからこの分野の用語が生み出され、図を使った説明にも便利なためである。しかし図は図に過ぎず、図中の対応関係は幾何学的な無限を正しく表しているとは言えない。この点を混同している学生が大勢いるのは、広く使われている解析幾何学の教科書で図による説明が正しい論理とされていることに原因がある。



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