§85 複素関数と複素級数の極限

この章ではこれまで \(n\) の実関数と項が実数の級数を考えてきた。こういった概念と定義は関数の値や級数の項が複素数の場合へと自然に拡張できる。

\(\phi(n)\) が複素数 \[ \rho(n) + i\sigma(n) \] で、\(\rho(n)\) と \(\sigma(n)\) が \(n\) の実関数だとする。このとき \(\rho(n)\) と \(\sigma(n)\) が \(n \to \infty\) のときにそれぞれ極限 \(r\) と \(s\) に向かうなら \(\phi(n)\) は極限 \(l = r + is\) に収束すると言い、 \[ \lim\phi(n) = l \] と書く。同様に \(u_{n}\) が複素数 \(v_{n} + iw_{n}\) なら、級数 \[ u_{1} + u_{2} + u_{3} + \cdots \] が和 \(l = r + is\) に収束するのは、級数 \[ v_{1} + v_{2} + v_{3} + \cdots,\quad w_{1} + w_{2} + w_{3} + \cdots \] がそれぞれ \(r,\ s\) に収束するときである。

\(u_{1} + u_{2} + u_{3} + \cdots\) が和 \(l\) に収束するといった場合、もちろんそれは和 \[ s_{n} = u_{1} + u_{2} + \cdots + u_{n} = (v_{1} + v_{2} + \cdots + v_{n}) + i(w_{1} + w_{2} + \cdots + w_{n}) \] が \(n \to \infty\) で \(l\) に収束することを表す。

実関数と実級数では収束に他にも発散と有限および無限の振動を定義した。しかし複素関数と複素級数では \(\rho(n)\) と \(\sigma(n)\) の両方を考えなければならず細かな場合分けが多く生じるので、定義する意味がほとんどない。そこで収束しない複素関数と複素級数をさらに細かく区別する必要がある場合には、実部と虚部の振る舞いに関する議論を別々に行うことにする。

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