§153 二変数関数の微分 (その 2)
一変数の関数の微分に関する全微分係数定理 (Theorem of the Total Differential Coefficient)と呼ばれる非常に重要な定理がある。この定理は前節で説明した二変数関数に関する概念を利用しており、 \[ f\{\phi(t), \psi(t)\} \] を \(t\) に関して微分する方法を与える。
最初に、\(x\) と \(y\) の二変数関数 \(f(x, y)\) が考えている全ての \(x,\ y\) で連続 (§107) な\(f_{x}',\ f_{y}'\) を持つ場合を考える。さらに \((x, y)\) の変動が曲線 \[ x = \phi(t),\quad y = \psi(t) \] に制限されていると仮定する。ここで \(\phi\) と \(\psi\) は \(t\) の関数で、連続な導関数 \(\phi'(t),\ \psi' (t)\) を持つ。このとき \(f(x, y)\) は単一の変数 \(t\) の関数となるので、これを \(F(t)\) と表記する。\(F'(t)\) を求める問題を考える。
\(t\) が \(t + \tau\) へ変化するとき \(x\) と \(y\) がそれぞれ \(x + \xi\) と \(y + \eta\) へ変化するなら、定義から \[ \begin{aligned} \frac{dF(t)}{dt} & = \lim_{\tau\to 0} \frac{1}{\tau}[f\{\phi(t + \tau), \psi(t + \tau)\} - f\{\phi(t), \psi(t)\}]\\ & = \lim \frac{1}{\tau}\{f(x + \xi, y + \eta) - f(x, y)\} \\ & = \lim \left[ \frac{f(x + \xi, y + \eta) - f(x, y + \eta)}{\xi}\, \frac{\xi}{\tau} + \frac{f(x, y + \eta) - f(x, y)}{\eta}\, \frac{\eta}{\tau} \right] \end{aligned} \] が分かる。
一方で平均値の定理からは、\(0\) と \(1\) の間にある実数 \(\theta\) と \(\theta'\) を使って \[ \begin{aligned} \frac{f(x + \xi, y + \eta) - f (x, y + \eta)}{\xi} & = f_{x}'(x + \theta\xi, y + \eta),\\ \frac{f(x, y + \eta) - f(x, y)}{\eta} \hphantom{{} + \xi} & = f_{y}'(x, y + \theta'\eta) \end{aligned} \] と書けることが分かる。\(\tau \to 0\) のとき \(\xi \to 0\) かつ \(\eta \to 0\) であり、さらに \(\xi/\tau \to \phi'(t)\) および \(\eta/\tau \to \psi'(t)\) そして \[ f_{x}'(x + \theta\xi, y + \eta) \to f_{x}'(x, y),\quad f_{y}'(x, y + \theta'\eta) \to f_{y}'(x, y) \] が成り立つ。よって \[ F'(t) = D_{t}f \{\phi(t), \psi(t)\} = f_{x}'(x, y)\phi'(t) + f_{y}'(x, y)\psi'(t) \] となる。この式を実際に計算するときには、まず \(x\) と \(y\) に関する微分を計算してから \(x = \phi(t)\) と \(y = \psi(t)\) を代入しなければならない。この結果の表記を変えれば \[ \frac{df}{dt} = \frac{\partial f}{\partial x}\, \frac{dx}{dt} + \frac{\partial f}{\partial y}\, \frac{dy}{dt} \] となる。
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\(\phi(t) = \dfrac{1 - t^{2}}{1 + t^{2}},\ \psi(t) = \dfrac{2t}{1 + t^{2}}\) とすれば、\((x, y)\) の軌跡は円 \(x^{2} + y^{2} = 1\) となる。このとき \[ \begin{aligned} \phi'(t) & = -\frac{4t}{(1 + t^{2})^{2}},\quad \psi'(t) = \frac{2(1 - t^{2})}{(1 + t^{2})^{2}},\\ F'(t) & = -\frac{4t}{(1 + t^{2})^{2}}f_{x}' + \frac{2(1 - t^{2})}{(1 + t^{2})^{2}}f_{y}' \end{aligned} \] が成り立つ。この式では \(f\) を微分した後に \(x\) と \(y\) へ \(\dfrac{1 - t^{2}}{1 + t^{2}}\) と \(\dfrac{2t}{1 + t^{2}}\) を代入する。
具体的な値として例えば \(f(x, y) = x^{2} + y^{2}\) とすれば \(f_{x}' = 2x,\ f_{y}' = 2y\) となり、\(F'(t) = 2x\phi'(t) + 2y\psi'(t) = 0\) が分かる。\(F(t) = 1\) なので、これは明らかに正しい。
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同じ要領で (a) \(x = t^{m},\ y = 1 - t^{m},\ f(x, y) = x + y\) および (b) \(x = a\cos t,\ y = a\sin t,\ f(x, y) = x^{2} + y^{2}\) に対して定理を確認せよ。
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この定理の最も重要なインスタンスの一つが \(t\) が \(x\) に等しい場合である。このとき \[ D_{x}f\{x, \psi(x)\} = D_{x}f(x, y) + D_{y}f(x, y)\psi'(x) \] を得る。ここで \(y\) は微分した後に \(\psi(x)\) と置き換える。
\(\partial f/\partial x\) と \(\partial f/\partial y\) という記法の導入が正当化されるのは、この等式が成り立つためである。つまり \(df/dx\) は \(D_{x}f\{x, \psi(x)\}\) と \(D_{x}f(x, y)\) のどちらかに対して使うのが望ましい。\(D_{x}f\{x, \psi(x)\}\) では微分の前に \(y\) に \(\psi(x)\) を代入し、\(D_{x}f(x, y)\) では微分の後に代入する。例えば \(y = 1 - x\) および \(f(x, y) = x + y\) とすれば、\(D_{x}f(x, 1 - x) = D_{x}1 = 0\) に対して \(D_{x}f(x, y) = 1\) が成り立つ。
二つの関数の区別するために \(D_{x}f\{x, \psi(x)\}\) を \(df/dx\) と書き、\(D_{x}f(x, y)\) を \(\partial f/\partial x\) と書く。こう定めれば上記の定理は次のように表せる: \[ \frac{df}{dx} = \frac{\partial f}{\partial x} + \frac{\partial f}{\partial y}\, \frac{dy}{dx} \] ただこの記法にも問題がないわけではない。\(f\{x, \psi(x)\}\) と \(f(x, y)\) という二つの関数は \(x\) の関数としての形が全く異なっているにもかかわらず、\(df/dx\) と \(\partial f/\partial x\) では同じ記号 \(f\) を使って表されてしまっている。
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\(x = \phi(t)\) と \(y = \psi(t)\) から \(t\) を削除した結果が \(f(x, y) = 0\) なら、 \[ \frac{\partial f}{\partial x}\, \frac{dx}{dt} + \frac{\partial f}{\partial y}\, \frac{dy}{dt} = 0 \] が成り立つ。
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\(x\) と \(y\) が \(t\) の関数とする。\((x, y)\) の極座標を \((r, \theta)\) とすれば \(r' = (xx' + yy')/r\) および \(\theta' = (xy' - yx')/r^{2}\) が成り立つ。ダッシュは \(t\) に関する微分を表す。