§147 高階の平均値の定理 (テイラーの定理)
§125 で証明したように、\(f(x)\) が区間 \([a, b]\) で導関数 \(f'(x)\) を持つとき、\(a \lt \xi \lt b\) を満たす \(\xi\) で \[ f(b) - f(a) = (b - a) f'(\xi) \] が成り立つ。同じことを言い換えると、\(f(x)\) が \([a, a + h]\) で導関数を持つなら、とある \(\theta_{1}\ \) (\(0 \lt \theta_{1} \lt 1\)) で \[ f(a + h) - f(a) = hf'(a + \theta_{1} h) \qquad \text{(1)} \] が成り立つ。この定理の証明では関数 \[ f(b) - f(x) - \frac{b - x}{b - a} \{f(b) - f(a)\} \] を考えた。この関数は \(x = a\) と \(x = b\) で \(0\) となる。
\(f(x)\) が \([a, b]\) で二次導関数 \(f''(x)\) を持つと仮定する。これにより一次導関数 \(f'(x)\) の連続性も仮定される。関数 \[ f(b) - f(x) - (b - x) f'(x) - \left(\frac{b - x}{b - a}\right)^{2} \{f(b) - f(a) - (b - a)f'(a)\} \] を考えると、この関数も \(x = a\) と \(x = b\) で \(0\) になる。この関数の導関数は \[ \frac{2(b - x)}{(b - a)^{2}} \{f(b) - f(a) - (b - a) f'(a) - \dfrac{1}{2}(b - a)^{2}f''(x)\} \] であり、これは \(a\) と \(b\) の間にある \(x\ \) (\(a\) と \(b\) は除く) で \(0\) になる (§121)。つまり \(a\) と \(b\) の間のとある \(\xi\) で次の等式が成り立つ: \[ f(b) = f(a) + (b - a)f'(a) + \dfrac{1}{2}(b - a)^{2}f''(\xi) \] \(\theta_{2}\ \) (\(0 \lt \theta_{2} \lt 1\)) を使えば \(\xi = a + \theta_{2}(b - a)\) という形で表すこともできる。
\(b = a + h\) とすれば \[ f(a + h) = f(a) + hf'(a) + \dfrac{1}{2}h^{2} f''(a + \theta_{2}h) \qquad \text{(2)} \] を得る。これは二次の平均値の定理 (Mean Value Theorem of the second order) と呼ばれる命題の標準形である。
\(\text{(1)}\) と \(\text{(2)}\) を一般化すると、次の定理が導かれる:
\(x\) の関数 \(f(x)\) が \([a, b]\) で \(n\) 次までの導関数を持つなら、ある \(\theta_{n}\ \) (\(0 \lt \theta_{n} \lt 1\)) で \[ \begin{aligned} f(a + h) & = f(a) + hf'(a) + \dfrac{1}{2} h^{2}f''(a) + \cdots \\ & \qquad \quad \cdots + \frac{h^{n-1}}{(n - 1)!} f^{(n-1)}(a) + \frac{h^{n}}{n!} f^{(n)}(a + \theta_{n}h) \end{aligned} \] が成り立つ。
証明は \(n = 1\) と \(n = 2\) の特殊な場合と同じように進む。関数 \[ F_{n}(x) - \left(\frac{b - x}{b - a}\right)^{n} F_{n}(a) \] を考える。ここで \[ F_{n}(x) = f(b) - f(x) - (b - x)f'(x) - \frac{(b - x)^{2}}{2!} f''(x) - \cdots - \frac{(b - x)^{n-1}}{(n - 1)!} f^{(n-1)}(x) \] である。この関数は \(x = a\) と \(x = b\) で \(0\) になる。よってその導関数 \[ \frac{n(b - x)^{n-1}}{(b - a)^{n}} \left\{F_{n}(a) - \frac{(b - a)^{n}}{n!} f^{(n)}(x)\right\} \] は \(a\) と \(b\) の間のとある \(x\) で \(0\) になる。示すべき結果はここから得られる。
この定理は非常に重要なので、章の終わりで別証明を示す。ここで示した証明と本質的に異なるわけではないが、式の形が違っており、部分積分が利用される。
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\(f(x)\) を \(r\) 次の多項式とする。このとき \(f^{(n)}(x)\) は \(n \gt r\) で \(0\) に等しく、テイラーの定理は代数的な恒等式 \[ f(a + h) = f(a) + hf'(a) + \frac{h^{2}}{2!} f''(a) + \cdots + \frac{h^{r}}{r!} f^{(r)}(a) \] となる。
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定理を \(f(x) = \dfrac{1}{x}\) に適用すると、正の \(x\) と \(x + h\) に対して次の結果が得られる: \[ \frac{1}{x + h} = \frac{1}{x} - \frac{h}{x^{2}} + \frac{h^{2}}{x^{3}} - \cdots + \frac{(-1)^{n-1} h^{n-1}}{x^{n}} + \frac{(-1)^{n} h^{n}}{(x + \theta_{n} h)^{n+1}} \]
[等式 \[ \frac{1}{x + h} = \frac{1}{x} - \frac{h}{x^{2}} + \frac{h^{2}}{x^{3}} - \cdots + \frac{(-1)^{n-1} h^{n-1}}{x^{n}} + \frac{(-1)^{n} h^{n}}{x^{n}(x + h)}\quad \] が成り立つから、\(x^{n}(x + h)\) を \((x + \theta_{n}h)^{n+1}\) の形に表せることから示したい結果を確認できる。また \(x^{n+1} \lt x^{n}(x + h) \lt (x + h)^{n+1}\) という明らかな不等式を使っても示せる]
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等式 \[ \begin{aligned} \sin(x + h) = & \sin x + h\cos x - \frac{h^{2}}{2!}\sin x - \frac{h^{3}}{3!}\cos x + \cdots\\ \cdots & + (-1)^{n-1}\frac{h^{2n-1}}{(2n - 1)!}\cos x + (-1)^{n} \frac{h^{2n}}{2n!}\sin(x + \theta_{2n} h) \end{aligned} \] および \(\cos(x + h)\) に関する同様の等式、そして \(h^{2n+1}\) まで展開する等式を示せ。
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\(m\) を正の整数、\(n\) を \(m\) 以下の正の整数としたとき \[ (x + h)^{m} = x^{m} + \binom{m}{1}x^{m-1} h + \cdots + \binom{m}{n - 1}x^{m-n+1} h^{n-1} + \binom{m}{n}(x + \theta_{n} h)^{m-n} h^{n} \] を示せ。さらに \([x, x + h]\) が \(x = 0\) を含まないならこの等式が全ての実数1 \(m\) と全ての正の整数 \(n\) に対して成り立つこと、そして \(x \lt 0 \lt x + h\) あるいは \(x + h \lt 0 \lt x\) であっても \(m - n\) が正ならこの等式が成り立つことを示せ。
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\(f(x) = 1/x\) かつ \(x \lt 0 \lt x + h\) なら、\(f(x + h) = f(x) + hf'(x + \theta_{1}h)\) という関係は成り立たない。 [\(f(x + h) - f(x) \gt 0\) と \(hf'(x + \theta_{1} h) = -h/(x + \theta_{1} h)^{2} \lt 0\) から分かる。平均値の定理の前提条件が満たされない]
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\(x = -a,\ h = 2a,\ f(x) = x^{1/3}\) とすると、等式 \[ f(x + h) = f(x) + hf'(x + \theta_{1} h) \] は \(\theta_{1} = \frac{1}{2} ± \frac{1}{18}\sqrt{3}\) で満たされる。 [この例は、定理の証明に用いた前提条件が満たされなくても結果が成り立つ場合があることを示している]
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ニュートン法による方程式の根の近似: 代数方程式 \(f(x) = 0\) の根の近似値を \(\xi\) として、実際の根を \(\xi + h\) とする。このとき \[ 0 = f(\xi + h) = f(\xi) + hf'(\xi) + \dfrac{1}{2} h^{2}f''(\xi + \theta_{2}h) \] であり、ここから \[ h = -\frac{f(\xi)}{f'(\xi)} - \dfrac{1}{2} h^{2} \frac{f''(\xi + \theta_{2}h)}{f'(\xi)} \] が分かる。
つまり \[ x = \xi - \frac{f(\xi)}{f'(\xi)} \] は一般に \(x = \xi\) より優れた近似となる。もし根が単純な根なら \(f'(\xi + h) \neq 0\) であり、\(h\) を十分小さくとれば考えている全ての \(x\) で \(|f'(x)| \gt K\) となるように定数 \(K\) を選べる。このとき \(h\) が一次の小ささを持つとすれば \(f(\xi)\) は一次の小ささであり、誤差 \(\xi - \{f(\xi)/f'(\xi)\}\) は二次の小ささを持つ。
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最初の近似値を \(\xi = 3/2\) として \(x^{2} = 2\) に対してこの手続きを実行せよ。 [\(h = -1/12,\ \) \(\xi + h = 17/12 = 1.417\ldots\) となり、一度の実行にもかかわらずかなり正確な値が得られる。\(\xi = 17/12\) として手続きを反復すれば \(\xi + h = 577/408 = 1.414215\ldots\) が得られる。これは小数第五位まで正しい]
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\(y\) が小さいときの \(x^{2} - 1 - y = 0\) を前問および前々問と同様に考えることで、近似的に \(\sqrt{1 + y} = 1 + \frac{1}{2} y - \{\frac{1}{4}y^{2}/(2 + y)\}\) であり、この近似の誤差は四次だと示せ。
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\(f(x) = 0\) の根を \(\xi - (f/f') - \frac{1}{2}(f^{2}f''/{f'}^{3})\) と近似したときの誤差が三次だと示せ。全ての関数の引数は \(\xi\) とする。
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\(\alpha\) が小さいとき、方程式 \(\sin x = \alpha x\) は \(\pi\) にほぼ等しい根を持つ。\((1 - \alpha)\pi\) が \(\pi\) よりも優れた近似であり、\((1 - \alpha + \alpha^{2})\pi\) はさらに優れた近似であることを示せ。
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一般的な平均値の定理に出てくる \(\theta_{n}\) の \(h \to 0\) における極限が \(\dfrac{1}{n + 1}\) だと示せ。\(f^{(n+1)}(x)\) は連続とする。
[\(f(x + h)\) は次の二つの式と等しい: \[ \begin{gathered} f(x) + \cdots + \frac{h^{n}}{n!} f^{(n)}(x + \theta_{n}h),\\ f(x) + \cdots + \frac{h^{n}}{n!} f^{(n)}(x) + \frac{h^{n+1}}{(n + 1)!} f^{(n+1)}(x + \theta_{n+1}h) \end{gathered} \] ここで \(\theta_{n+1}\) と \(\theta_{n}\) は両方とも \(0\) と \(1\) の間にある。ここから \[ f^{(n)}(x + \theta_{n}h) = f^{(n)}(x) + \frac{hf^{(n+1)}(x + \theta_{n+1}h)}{n + 1} \] を得る。また一次の平均値の定理で \(h\) を \(\theta_{n}h\) としたものを \(f^{(n)}(x)\) に適用すれば \[ f^{(n)}(x + \theta_{n}h) = f^{(n)}(x) + \theta_{n}hf^{(n+1)}(x + \theta\theta_{n}h) \] であり、この \(\theta\) も \(0\) と \(1\) の間にある。よって \[ \theta_{n} f^{(n+1)}(x + \theta\theta_{n} h) = \frac{f^{(n+1)}(x + \theta_{n+1} h)}{n + 1} \] が成り立つ。\(f^{(n+1)}(x + \theta\theta_{n} h)\) と \(f^{(n+1)}(x + \theta_{n+1} h)\) はどちらも \(h \to 0\) で極限 \(f^{(n+1)}(x)\) に向かうから、示すべき式が得られる]
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\(h \to 0\) のとき \(\{f(x + 2h) - 2f(x + h) + f(x)\}/h^{2} \to f''(x)\) だと示せ。\(f''(x)\) は連続とする。 [§147 の式 \(\text{(2)}\) を使う]
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\(x = 0\) で \(f^{(n)}(x)\) が連続なら \[ f(x) = a_{0} + a_{1}x + a_{2}x^{2} + \cdots + (a_{n} + \varepsilon_{x}) x^{n} \] であり、\(a_{r} = f^{(r)}(0)/r!\) および \(x \to 0\) のとき \(\varepsilon_{x} \to 0\) だと示せ2。
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等式 \[ a_{0} + a_{1}x + a_{2}x^{2} + \cdots + (a_{n} + \varepsilon_{x}) x^{n} = b_{0} + b_{1}x + b_{2}x^{2} + \cdots + (b_{n} + \eta_{x}) x^{n} \] が成り立っていて、さらに \(\varepsilon_{x}\) と \(\eta_{x}\) が \(x \to 0\) のとき \(0\) に向かうとする。このとき \(a_{0} = b_{0},\ a_{1} = b_{1},\ \ldots,\ a_{n} = b_{n}\) だと示せ。 [\(x \to 0\) とすれば \(a_{0} = b_{0}\) が分かる。次に \(x\) で割ってから \(x \to 0\) とすれば \(a_{1} = b_{1}\) が分かる。後はこの手続きを好きなだけ繰り返せばよい。この命題と前問の結果を使えば、 \(f(x) = a_{0} + a_{1}x + a_{2}x^{2} + \cdots + (a_{n} + \varepsilon_{x}) x^{n}\) で \(f(x)\) の最初の \(n\) 個の導関数が連続なら \(a_{r} = f^{(r)}(0)/r!\) だと分かる]