§82 上極限と下極限

\(\phi(n)\) を有界関数、\(M\) と \(m\) を \(\phi(n)\) の上限と下限とする。任意の実数 \(\xi\) を取り、大きい \(n\) に対する \(\phi(n)\) と \(\xi\) の間で成り立つ不等式について考える。可能性は三つあり、どれか一つだけが起こる:

  1. 十分大きい全ての \(n\) で \(\xi \geq \phi(n)\)
  2. 十分大きい全ての \(n\) で \(\xi \leq \phi(n)\)
  3. 無限個の \(n\) で \(\xi \lt \phi(n)\)、かつ無限個の \(n\) で \(\xi \gt \phi(n)\)

(1) のとき \(\xi\) を上の数 (superior number) と呼び、(2) のとき \(\xi\) を下の数 (inferior number)、(3) のとき \(\xi\) を中間の数 (intermediate number) と呼ぶ。明らかに、上の数は \(m\) および下の数より小さくならない。

上の数全体の集合を考える。要素が全て \(m\) 以上であるこの集合は下に有界であり、下限 \(\Lambda\) を持つ。同様に下の数を集めた集合は上限 \(\lambda\) を持つ。

\(\Lambda\) と \(\lambda\) を \(n\) が無限大に向かうときの \(\phi(n)\) の 上極限 (upper limit) および 下極限 (lower limit) と呼び1、次のように書く: \[ \Lambda = \limsup \phi(n),\quad \lambda = \liminf \phi(n) \] 上極限と下極限は次の性質を持つ:

  1. \(m \leq \lambda \leq \Lambda \leq M\)
  2. 中間の数の集合に要素が存在するなら、\(\Lambda\) と \(\lambda\) が中間の数の上限および下限となる。
  3. \(\varepsilon\) を任意の正の実数とすると、十分大きい全ての \(n\) に対して \(\phi(n) \lt \Lambda + \varepsilon\) および無限個の \(n\) に対して \(\phi(n) \gt \Lambda - \varepsilon\) が成り立つ。
  4. 同様に十分大きい全ての \(n\) に対して \(\phi(n) \gt \lambda - \varepsilon\) および無限個の \(n\) に対して \(\phi(n) \lt \lambda + \varepsilon\) が成り立つ。
  5. \(\phi(n)\) が極限に向かうための必要十分条件は \(\Lambda = \lambda\) である。これが成り立つなら、\(\phi(n)\) は極限 \(l = \Lambda = \lambda\) に向かう。

これらの性質の中で (1) は定義から直ちに従う。(2) は次のように示せる。もし \(\Lambda = \lambda = l\) なら中間の値は唯一 \(l\) だけであり、性質は明らかに成り立つ。そうでなくて \(\Lambda \gt \lambda\) なら、任意の中間の数 \(\xi\) は上の数より小さく下の数より大きく \(\lambda \leq \xi \leq \Lambda\) となる。そしてもし \(\lambda \lt \xi \lt \Lambda\) なら \(\xi\) は上の数でも下の数でもないので、中間の数となる。よって \(\lambda\) と \(\Lambda\) に好きなだけ近い \(\xi\) が存在する。

(3) を示すには、\(\Lambda + \varepsilon\) が上の数で \(\Lambda - \varepsilon\) が中間の数または下の数なことを利用する。これと定義を使えばすぐに示せる。(4) の証明も同様にできる。

(5) は次のように証明できる。\(\Lambda = \lambda = l\) なら \[ l - \varepsilon \lt \phi(n) \lt l + \varepsilon \] が任意の正の実数 \(\varepsilon\) と十分大きな全ての \(n\) に対して成り立つので、\(\phi(n) \to l\) と分かる。逆に \(\phi(n) \to n\) なら上の不等式が十分大きな全ての \(n\) で成り立つので、\(l - \varepsilon\) は下の数で \(l + \varepsilon\) は上の数となる。よって \[ \lambda \geq l - \varepsilon,\quad \Lambda \leq l + \varepsilon \] すなわち \(\Lambda - \lambda \leq 2\varepsilon\) であり、\(\Lambda - \lambda \geq 0\) よりこれは \(\Lambda = \lambda\) のときに限って正しい。

例 32
  1. 有限個の \(n\) で \(\phi(n)\) を変化させても、\(\Lambda\) と \(\lambda\) は変化しない。

  2. 全ての \(n\) で \(\phi(n) = a\) なら \(m = \lambda = \Lambda = M = a\) となる。

  3. \(\phi(n) = 1/n\) なら \(m = \lambda = \Lambda = 0\) そして \(M = 1\) となる。

  4. \(\phi(n) = (-1)^{n}\) なら \(m = \lambda = -1\) そして \(\Lambda = M = 1\) となる。

  5. \(\phi(n) = (-1)^{n}/n\) なら \(m = -1,\ \lambda = \Lambda = 0,\ M = \dfrac{1}{2}\) となる。

  6. \(\phi(n) = (-1)^{n}\{1 + (1/n)\}\) なら \(m = -2,\ \lambda = -1,\ \Lambda = 1,\ M = \dfrac{3}{2}\) となる。

  7. \(\theta \gt 0\) に対して \(\phi(n) = \sin n\theta\pi\) とする。\(\theta\) が整数なら \(m = \lambda = \Lambda = M = 0\) が成り立つ。\(\theta\) が整数でない有理数のときはいくつか可能性がある。\(\theta = p/q\) で \(p\) と \(q\) が \(1\) より大きい奇数で互いに素なら、\(\phi(n)\) は \[ \sin(p\pi/q),\quad \sin(2p\pi/q),\ \ldots, \] \[ \sin\{(2q - 1)p\pi/q\},\quad \sin(2qp\pi/q),\ \ldots \] という値を周期的に取る。このとき絶対値が最大となる \(\phi(n)\) の値は \(\cos(\pi/2q)\) と \(-\cos(\pi/2q)\) で、 \[ m = \lambda = -\cos(\pi/2q),\quad \Lambda = M = \cos(\pi/2q) \] となる。\(p\) と \(q\) の少なくとも一方が奇数でない場合は読者に任せる。

    \(\theta\) が無理数の場合はもっと難しくなるが、\(m = \lambda = -1\) および \(\Lambda = M = 1\) となることが示せる。また \(\phi(n)\) の値が \([-1, 1]\) の区間にまんべんなく散らばることも証明できる。ここでまんべんなく散らばるとは、この区間内の任意の \(\xi\) について、\(k \to \infty\) のとき \(\phi(n_{k}) \to \xi\) となるような列 \(n_{1},\ n_{2},\ \ldots\ \) を取れることを意味する2

    \(\phi(n)\) を「\(n\theta\) の小数部分」としても似た結果となる。


  1. 訳注: 原著では \(\phi(n)\) の上極限が “the upper limit of indetermination of \(\phi(n)\)” と呼ばれているが、これは標準的でないので変更した。下極限についても同様。[return]

  2. この結果の簡潔な証明が “Some Problems of Diophantine Approximation”, Acto Mathematica, vol. xxxvii にいくつか載っている。[return]



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