§109 逆関数
前節の定理で \(f(x, y)\) を \(F(y) - x\) とすると、次の結果が得られる。
\(y\) の関数 \(F(y)\) が \(y = b\) の近傍で連続かつ (§95 の意味で) 狭義単調増加 (あるいは減少) で、\(F(b) = a\) だとする。このとき \(x = a\) で \(b\) に等しく、かつ \(x = a\) の近傍で \(F(y) = x\) が恒等的に成り立つ関数 \(y = \phi(x)\) がただ一つ存在する。
こうして定義される関数を \(F(y)\) の逆関数と呼ぶ。
例えば \(y^{3} = x,\ a = 0,\ b = 0\) とすると定理の条件は全て満たされ、逆関数は \(x = \sqrt[3]{y}\) となる。
一方で \(y^{2} = x\) とすると定理の条件が成り立たない。\(y^{2}\) は \(y\) が負のとき単調減少で正のとき単調増加なので、\(0\) を含んだ任意の区間で \(y^{2}\) は単調とならない。この場合定理の結論は成り立たず、\(y^{2} = x\) は \(x\) の関数を二つ定義する。具体的には \(y = \sqrt{x}\) と \(y = -\sqrt{x}\) であり、これらはどちらも \(x = 0\) で \(0\) となり、正の \(x\) に対してだけ定義される。これは方程式が二つの解を持つこともあれば解を持たないこともある事実に対応する。一般的な方程式 \[ y^{2n} = x, \quad y^{2n+1} = x \] についても考察してみるとよい。方程式 \[ y^{5} - y - x = 0 \] も興味深い例となる。これについては前に 例 14.7 で考えた。
同様に方程式 \[ \sin y = x \] は \(x = 0\) のとき \(0\) となる解を一つしか持たない。つまり \(x = 0\) で \(0\) になる \(\arcsin x\) である。他の \(\arcsin x\) の値を取れば方程式を満たす関数は無限に得られる (例 15.10) が、\(x = 0\) のとき \(0\) という条件を満たす解は一つしかない。
ここまでは特定の \(x\) の近傍で何が起こるかを見てきた。次は \(F(y)\) がとある区間 \([a, b]\) 全体で単調増加 (あるいは減少) と仮定する。\([a, b]\) に含まれる任意の点 \(\xi\) について \(\xi\) を含んだ区間 \(i\) を取ることができ、\(i\) で連続な唯一の逆関数 \(\phi_{i} (x)\) が存在する。
区間 \(i\) を集めて \(I\) とすれば、ハイネ・ボレルの定理から \([a, b]\) を被覆する \(I\) の区間の有限集合を見つけられる。するとその集合に含まれる \(i\) に対応する関数 \(\phi_{i} (x)\) の集合は、\([a, b]\) 全体で連続な逆関数 \(\phi(x)\) を定義する。
こうして次の定理が得られる:
\(x = F(y)\) を単調増加な連続関数とする。\(x\) が \(a\) から \(b\) に増加するとき \(y\) が \(A\) から \(B\) へ増加するなら、連続な逆関数 \(y = \phi(x)\) であって \(x\) が \(A\) から \(B\) に増加するとき \(a\) から \(b\) へ単調に増加するものが存在する。
この結果は §108 の定理を使わずとも直接得られる。\(A \lt \xi \lt B\) に対して \(a \lt y \lt b\) かつ \(F(y) \leq \xi\) が成り立つ \(y\) の集合を考える。この集合には上限 \(\eta\) が存在し、この \(\eta\) に対して \(F(\eta) \leq \xi\) が成り立つ。\(F(\eta)\) が \(\xi\) より小さいとすると、\(y \gt \eta\) かつ \(F(y) \lt \xi\) となるような \(y\) が存在することになるが、このとき \(\eta\) は考えている集合の上限となれない。よって \(F(\eta) = \xi\) であり、方程式 \(F(y) = \xi\) は唯一の解 \(y = \eta = \phi(\xi)\) を持つ。\(\eta\) が \(\xi\) と共に連続かつ単調に増加することも示せるので、定理が証明される。