§117 有理関数の微分

  1. 有理関数: もし \[ R(x) = \frac{P(x)}{Q(x)} \] で \(P\) と \(Q\) が多項式なら、§113 の結果 5 から \[ R'(x) = \frac{P'(x)Q(x) - P(x)Q'(x)}{\{Q(x)\}^{2}} \] が分かる。この式を使えば任意の有理関数の導関数を計算できるが、最も単純な形が得られるとは限らない。最も単純な形になるのは \(Q(x)\) と \(Q'(x)\) が共通因数を持たないとき、つまり \(Q(x)\) が重複する因数を持たないときである。\(Q(x)\) が重複する因数を持つなら、この形で計算した \(R'(x)\) はさらに簡略化できる。

    有理関数の微分では部分分数分解を利用できる場合が非常に多い。§116 と同様に \(Q(x)\) を \[ a_{0}(x - \alpha_{1})^{m_{1}} (x - \alpha_{2})^{m_{2}}\cdots (x - \alpha_{\nu})^{m_{\nu}} \] と表す。すると代数の文献1にあるように、多項式 \(\Pi(x)\) を前に出した次の形で \(R(x)\) を表せる: \[ \begin{aligned} \Pi(x) & + \frac{A_{1, 1}}{x - \alpha_{1}} + \frac{A_{1, 2}}{(x - \alpha_{1})^{2}} + \cdots + \frac{A_{1, m_{1}}}{(x - \alpha_{1})^{m_{1}}}\\ & + \frac{A_{2, 1}}{x - \alpha_{2}} + \frac{A_{2, 2}}{(x - \alpha_{2})^{2}} + \cdots + \frac{A_{2, m_{2}}}{(x - \alpha_{2})^{m_{2}}} + \cdots \end{aligned} \] これは一つの多項式と次の形をした項の和からなる: \[ \frac{A}{(x - \alpha)^{p}} \] ここで \(\alpha\) は \(Q(x) = 0\) の根である。多項式の微分方法は分かっているので、後は §113 の結果 (\(\alpha\) が複素数なら §114 で拡張した結果) を使えば分数の項の微分が \[ -\frac{pA(x -\alpha)^{p-1}}{(x - \alpha)^{2p}} = -\frac{pA}{(x - \alpha)^{p+1}} \] だと分かる。

    よって一般的な有理関数 \(R(x)\) の微分は \[ \Pi'(x) - \frac{A_{1, 1}}{(x - \alpha_{1})^{2}} - \frac{2A_{1, 2}}{(x - \alpha_{1})^{3}} - \cdots - \frac{A_{2, 1}}{(x - \alpha_{2})^{2}} - \frac{2A_{2, 2}}{(x - \alpha_{2})^{3}} - \cdots \] という形で書ける。ちなみにこの結果からは \(\bm{m}\) の正負に関わらず \(\bm{x^{m}}\) の微分は \(\bm{mx^{m-1}}\) であることが導ける。

    この節で説明した手法は有理関数を複数回微分するときに特に便利となる (例 45 を参照)。

例 42
  1. 次を示せ: \[ \frac{d}{dx}\left(\frac{x}{1 + x^{2}}\right) = \frac{1 - x^{2}}{(1 + x^{2})^{2}},\quad \frac{d}{dx}\left(\frac{1 - x^{2}}{1 + x^{2}}\right) = -\frac{4x}{(1 + x^{2})^{2}} \]

  2. 次を示せ: \[ \frac{d}{dx}\left(\frac{ax^{2} + 2bx + c}{Ax^{2} + 2Bx + C}\right) = \frac{(ax + b) (Bx + C) - (bx + c) (Ax + B)}{(Ax^{2} + 2Bx + C)^{2}} \]

  3. \(Q\) が \((x - \alpha)^{m}\) を因数を持つとき \(R'\) の分母は \((x - \alpha)^{m+1}\) で割り切れるが、\(m + 1\) より大きい \(x - \alpha\) のべきでは割り切れない。

  4. \(R'\) の分母が一次の因数 \(x - \alpha\) を持つことはない。よって、分母に一次の因数を含む任意の有理関数 (例えば \(1/x\)) は他の有理関数の導関数にならない。


  1. 例えばクリスタル著 Algebra, vol. i, pp.151 et seq. がある。[return]

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