§128 積分と対数関数

この章の前半部分の結果から、最も頻繁に登場する関数の積分が得られる。例えば \[ \int x^{m}\, dx = \frac{x^{m+1}}{m + 1},\quad \int \cos x\, dx = \sin x,\quad \int \sin x\, dx = -\cos x \qquad \text{(1)} \] である。

この等式は、左辺の積分記号の中にある関数の積分の一つが右辺の関数であると解釈されなければならない。もちろん最も一般的な積分は右辺に定数 \(C\) を加えることで得られる。この定数は積分定数 (arbitrary constant of integration) と呼ばれる。

一つ目の等式には一つだけ例外がある。それは \(m = -1\) の場合で、このとき右辺が意味を持たなくなる。多項式と有理関数の微分が \(1/x\) にならないことは前に見た (例 42.4)。

\(D_{x}F(x) = 1/x\) となる関数 \(F(x)\) が本当に存在することは次章で示すので、ここでは \(F(x)\) が存在するとして話を進める。明らかにこの関数 \(F(x)\) は多項式でもなければ有理関数でもない。実は \(F(x)\) は本質的に新しい関数であり、今まで考えてきたどの関数のクラスにも属さないことが示せる。言い換えると、これまでに出てきた関数を表す記号を有限回組み合わせただけではこの \(F(x)\) を表せない。残念ながらこの証明は込み入っている上にあまり面白くないのでこの本には載せられないが、\(F(x)\) の性質を体系的に調べる第九章ではこの問題をもう少し深く議論する。

\(x\) が正だと仮定する。そして \[ \int \frac{dx}{x} = \log x \qquad \text{(2)} \] と表記し、右辺の関数を対数関数 (logarithmic function) と呼ぶ。まずは正の \(x\) に対してだけ定義する。

次に \(x\) を負とする。すると \(-x\) が正なので、\(\log(-x)\) は上の方法で定義される。また \[ \frac{d}{dx} \log(-x) = \frac{-1}{-x} = \frac{1}{x} \] なので、\(x\) が負なら \[ \int \frac{dx}{x} = \log(-x) \qquad \text{(3)} \] が成り立つ。

\(\text{(2)}\) と \(\text{(3)}\) はまとめて次のように書ける: \[ \int \frac{dx}{x} = \log(±x) = \log|x| \qquad \text{(4)} \] ただし符号は \(±x\) が正になるように取る。この等式は \(x = 0\) を除く全ての \(x\) で成り立つ。

第九章で証明する \(\log x\) の性質の中で最も重要なものは次の式で表される: \[ \log 1 = 0,\quad \log \frac{1}{x} = -\log x,\quad \log xy = \log x + \log y \] 二番目の式は一番目と三番目の式から得られる。これらの等式はこの章の内容に必要ではないが、利用すると式を簡単に表せる場合もある。

三番目の式からは、\(\log x^{2}\) が \(x \gt 0\) なら \(2\log x\) に等しく、\(x \lt 0\) なら \(2 \log (-x)\) に等しいと分かる。まとめて書けば \(2 \log |x|\) であり、\(\text{(4)}\) は次の式と同値となる: \[ \int \frac{dx}{x} = \dfrac{1}{2}\log x^{2} \qquad \text{(5)} \]

\(\text{(1)}\) から \(\text{(3)}\) にある五つの等式は積分学で最も重要な標準形の積分である。ここには次の二つの等式も加えておくべきだろう1: \[ \int \frac{dx}{1 + x^{2}} = \arctan x,\quad \int \frac{x}{\sqrt{1 - x^{2}}} = ±\arcsin x \qquad \text{(6)} \]


  1. 曖昧な符号の取り方については §119 を参照。[return]

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