§188 交代級数

最も簡単で最もよく表れる条件収束級数は、正の項と負の項が交互に並んだ交代級数 (alternating series) である。この種の最も重要な級数の収束は、次の命題を使うと判定できる:

\(n\) の正関数 \(\phi(n)\) が \(n \to \infty\) で単調に \(0\) に向かうとする。このとき級数 \[ \phi(0) - \phi(1) + \phi(2) - \cdots \] は収束し、和は \(\phi(0)\) と \(\phi(0) - \phi(1)\) の間にある。

\(\phi(0),\ \phi(1),\ \ldots\) を \(\phi_{0},\ \phi_{1},\ \ldots\) と書くことにして \[ s_{n} = \phi_{0} - \phi_{1} + \phi_{2} - \cdots + (-1)^{n}\phi_{n} \] と定めると \[ s_{2n+1} - s_{2n-1} = \phi_{2n} - \phi_{2n+1}\geq 0,\quad s_{2n} - s_{2n-2} = -(\phi_{2n-1} - \phi_{2n}) \leq 0 \] が成り立つ。よって \(s_{0},\ s_{2},\ s_{4},\ \ldots,\ s_{2n},\ \ldots\) は減少列であり、極限または \(-\infty\) に向かう。同様に \(s_{1},\ s_{3},\ s_{5},\ \ldots,\ s_{2n+1},\ \ldots\) は増加列であり、極限または \(\infty\) に向かう。一方で \(\lim (s_{2n+1} - s_{2n}) = \lim (-1)^{2n+1} \phi_{2n+1} = 0\) が成り立つから、二つの列の極限は同じでなければならない。つまり \(s_{0},\ s_{1},\ \ldots,\ s_{n},\ \ldots\) は極限に向かう。\(s_{0} = \phi_{0}\) および \(s_{1} = \phi_{0} - \phi_{1}\) だから、この極限は明らかに \(\phi_{0}\) と \(\phi_{0} - \phi_{1}\) の間にある。

例 78
  1. 級数 \[ \begin{gathered} 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots,\quad 1 - \frac{1}{\sqrt{2}} + \frac{1}{\sqrt{3}} - \frac{1}{\sqrt{4}} + \cdots,\\ \sum \frac{(-1)^{n}}{(n + a)},\quad \sum \frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n + a}},\quad \sum \frac{(-1)^{n}}{(\sqrt{n} + \sqrt{a})},\quad \sum \frac{(-1)^{n}}{(\sqrt{n} + \sqrt{a})^{2}} \end{gathered} \] はどれも条件収束する。ここで \(a \gt 0\) とする。

  2. \(a \gt 0\) に対する級数 \(\sum(-1)^{n}(n + a)^{-s}\) は \(s \gt 1\) なら絶対収束し、\(0 \lt s \leq 1\) なら条件収束し、\(s \leq 0\) なら振動する。

  3. §188 で示した級数の和は常に \(s_{n}\) と \(s_{n+1}\) の間にある。級数全体ではなく最初の \(n\) 項だけを取ったときの和の誤差は第 \(n + 1\) 項の絶対値以下である。

  4. 級数 \[ \sum \frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n} + (-1)^{n}} \] を考える。ただし最初のいくつかの項の定義を複雑にしないために \(n = 2\) から級数を始めるとする。この級数を変形すると \[ \sum \left[\left\{ \frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n} + (-1)^{n}} - \frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n}}\right\} + \frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n}}\right] \] つまり \[ \sum \left\{\frac{(-1)^{n}}{\sqrt{n}} - \frac{1}{n + (-1)^{n}\sqrt{n}}\right\} = \sum (\psi_{n} - \chi_{n}) \] とできる。\(\sum \psi_{n}\) は収束するが、\(\chi_{n}\) は常に正で \(\lim n\chi_{n} = 1\) なので \(\sum \chi_{n}\) は発散する。よって最初の級数は、\(\phi_{2} - \phi_{3} + \phi_{4} - \cdots\) という形をしていて \(\phi_{n} \to 0\) にもかかわらず発散する。この例は「\(\phi_{n}\) が単調に \(0\) へ向かう」という条件が上述の結果に不可欠なことを示している。\(\sqrt{2n + 1} - 1 \lt \sqrt{2n} + 1\) だから、いま考えた級数はこの条件を満たさない。

  5. §188 の結果における条件が満たされず、\(\phi_{n}\) が単調に極限 \(l\) へ向かうなら、級数 \(\sum (-1)^{n}\phi_{n}\) は有限に振動する。

  6. 条件収束の級数を並べ替えると和が変化する: \(s\) を級数 \(1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots\) の和として、最初の \(2n\) 個の項の和を \(s_{2n}\) とする。このとき \(\lim s_{2n} = s\) が成り立つ。

    二つの正の項と一つの負の項を交互に並べた級数 \[ 1 + \dfrac{1}{3} - \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{5} + \dfrac{1}{7} - \dfrac{1}{4} + \cdots \qquad \text{(1)} \] を考える。この級数の最初の \(3n\) 個の項の和を \(t_{3n}\) とすると、 \[ \begin{aligned} t_{3n} & = 1 + \frac{1}{3} + \cdots + \frac{1}{4n-1} - \frac{1}{2} - \frac{1}{4} - \cdots - \frac{1}{2n}\\ & = s_{2n} + \frac{1}{2n + 1} + \frac{1}{2n + 3} + \cdots + \frac{1}{4n - 1} \end{aligned} \] が成り立つ。

    ここで \[ \lim \left[\frac{1}{2n + 1} - \frac{1}{2n + 2} + \frac{1}{2n + 3} - \cdots + \frac{1}{4n - 1} - \frac{1}{4n}\right] = 0 \] が成り立つ。括弧に含まれる項の和が明らかに \(n/(2n + 1)(2n + 2)\) より小さいためである。そして §156§158 からは \[ \lim \left(\frac{1}{2n + 2} + \frac{1}{2n + 4} + \cdots + \frac{1}{4n}\right) = \dfrac{1}{2} \lim \frac{1}{n} \sum_{r=1}^{n} \frac{1}{1 + (r/n)} = \dfrac{1}{2} \int_{1}^{2} \frac{dx}{x} \] が分かる。よって \[ \lim t_{3n} = s + \dfrac{1}{2} \int_{1}^{2} \frac{dx}{x} \] であり、級数 \(\text{(1)}\) の和は \(s\) でないことが判明する。この二つの級数の値を定義する方法を後で示す: §213第九章に関するその他の例 19 を参照。

    実は条件収束する級数を並べ替えると、任意の値に収束する級数および \(\infty\) や \(-\infty\) に発散する級数を作れる。その証明はブロムウィッチ著 Infinite Series, p. 68 に譲る。

  7. 級数 \[ 1 + \frac{1}{\sqrt{3}} - \frac{1}{\sqrt{2}} + \frac{1}{\sqrt{5}} + \frac{1}{\sqrt{7}} - \frac{1}{\sqrt{4}} + \cdots \] は \(\infty\) に発散する。 [ここでは \(s_{2n} = 1 - \dfrac{1}{\sqrt{2}} + \cdots - \dfrac{1}{\sqrt{2n}}\) とすれば \[ t_{3n} = s_{2n} + \frac{1}{\sqrt{2n + 1}} + \frac{1}{\sqrt{2n + 3}} + \cdots + \frac{1}{\sqrt{4n - 1}} \gt s_{2n} + \frac{n}{\sqrt{4n - 1}} \] が成り立つが、\(s_{2n}\) は \(n \to \infty\) で極限に向かう]

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