§191 べき級数 (その 1)
初等解析学 (サインとコサインおよび次章で触れる対数関数と指数関数) の理論で最も重要な概念の一つが、\(\sum a_{n}x^{n}\) という形の級数への関数の展開である。この級数を \(x\) の べき級数 (power series) と呼ぶ。これまでに登場したべき級数としてはテイラー級数とマクローリン級数 (§148) があるが、そこで考えたのは実変数 \(x\) のべき級数だった。ここからは複素変数 \(z\) のべき級数の一般的な性質をいくつか紹介する。
べき級数 \(\sum a_{n}z^{n}\) は全ての \(z\) で収束するか、特定の範囲の値で収束するか、\(z = 0\) でだけ収束する。
それぞれの例を示せば十分である。
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級数 \(\bm{\sum \dfrac{z^{n}}{n!}}\) は全ての \(\bm{z}\) で収束する。\(u_{n} = \dfrac{z^{n}}{n!}\) なら \(n \to \infty\) で \[ \frac{|u_{n+1}|}{|u_{n}|} = \dfrac{|z|}{n + 1} \to 0 \] となり、これは \(z\) の値によらない。よってダランベールの判定法より \(\sum |u_{n}|\) は全ての \(z\) で収束し、級数 \(\sum \dfrac{z^{n}}{n!}\) は全ての \(z\) で絶対収束する。べき級数が収束するなら一般に絶対収束することを後で示す。
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級数 \(\bm{\sum n!\, z^{n}}\) は \(\bm{z = 0}\) 以外で収束しない。\(u_{n} = n!\, z^{n}\) なら \(|u_{n+1}|/|u_{n}| = (n + 1)|z|\) であり、\(u_{n}\) は \(z = 0\) でない限り \(n\) と共に \(\infty\) に向かう。よって (例 27.1, 2, 5 から) 級数の第 \(n\) 項の大きさは \(n\) と共に \(\infty\) に向かうと分かるので、級数は \(z = 0\) でない限り収束しない。\(z = 0\) のとき収束するのは明らかに分かる。
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\(\bm{\sum z^{n}}\) は \(\bm{|z| \lt 1}\) なら収束し、\(\bm{|z| \geq 1}\) なら収束しない。これは §88 で示した。
これで三つの可能性が全て示せた。