§196 対数関数

これまでの章で考えた本質的に異なる関数の数というのはそれほど多くない。ここまでに登場した普通の用途で最も重要な関数をあげれば、多項式・有理関数・陽な代数関数・陰な代数関数・三角関数・三角関数の逆関数となる。

しかし数学で重要な関数がこれで全て揃ったとはとても言えない。数学的な知識の範囲は、新しい関数のクラスを一つずつ解析の対象に加えること段階的に拡張されてきた。新しい関数が対象に加わる一般的な理由は、そのとき数学者の注意を引いていた問題がそれまでに知られていた関数では解けないように思えるためである。この考え方は無理数や複素数を最初に導入した議論とよく似ている。こういった数はとある代数方程式がそれまでに認識されていた数では解けなかったために定義されていた。新しい関数を最も数多く生み出している問題の一つが積分であり、次のようにして新しい関数が導入される: とある関数 \(f(x)\) の積分をこれまでに知られた関数を使って計算する試みがなされるも、全て失敗する。失敗が何度も繰り返されるにつれ、積分が解けない可能性が現実性を帯びてくる。ときには解けないことが証明されることもあるが、一般的に言ってそういった命題の厳密な証明はもっと後になってから表れる。普通は数学者が十分に納得した段階でその積分は解けないものだとみなし、新しい関数 \(F(x)\) をその性質 \(F'(x) = f(x)\) で定義してしまう。数学者はこの定義からはじめて \(F(x)\) の様々な性質を調べ、その結果として \(F(x)\) には既知の関数を有限回組み合わせた関数が持たない性質を持っていることが判明し、最初の積分の問題がどうやっても解けないという仮定が正当化される。この本にもこういった関数は現れている。第六章では次の等式を使って関数 \(\log x\) を定義した: \[ \log x = \int \frac{dx}{x} \]

これまでに示した \(\log x\) が本当に新しい関数である証拠を考える。まず (例 42.7 から) 有理関数の導関数は分母に二次の因数だけを持つので、\(\log x\) は有理関数ではない。\(\log x\) が代数関数あるいは三角関数になり得るかという問題は扱いがより難しい。ただ微分しても代数的な無理性が消えないというのは実験からもすぐに納得できる。例えば \(\sqrt{1 + x}\) を何度微分したとしても結果は \(\sqrt{1 + x}\) と有理関数の積でしかなく、一般的な場合でも同様となる。いくつか例を使ってこの命題の正しさ試してみるとよい。同様に \(\sin x\) や \(\cos x\) を微分してもどちらかが結果に残る。

そうは言っても、\(\log x\) が新しい関数であることの厳密な証明を私たちは持っていない。本書ではこの証明は与えない1が、この仮定が正当化されるだけの理由は示した。そこで \(\log x\) を新しい関数だとみなして話を進め、解析によって \(\log x\) の性質がこれまでに登場したどの関数とも似つかないことを見る。


  1. 証明は §133 で示した文献を参照。[return]

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