§203 実数 \(e\)
ここでとある実数を新しく定義する。通常 \(e\) で表されるこの実数は高等数学において途方もなく重要であり、\(\pi\) と同じように解析学の基礎的な定数の一つである。
\(e\) を対数が \(\bm{1}\) となる実数と定義する。違う表現を使うと、\(e\) は \[ 1 = \int_{1}^{e} \frac{dt}{t} \] という等式で定義される。\(\log x\) は (§95 の意味で) \(x\) の狭義単調増加関数だから、値 \(1\) を一度しか取らない。よってこの定義は一つの実数を確かに定義する。
ここで \(\log xy = \log x + \log y\) から \[ \log x^{2} = 2\log x,\quad \log x^{3} = 3\log x,\ \ldots,\quad \log x^{n} = n\log x \] が全ての正の整数 \(n\) に対して成り立つと分かる。よって \[ \log e^{n} = n\log e = n \] となる。また \(p,\ q\) を正の整数とすれば、\(e^{p/q}\) は \(e^{p}\) の \(q\) 乗根を表す。そして \[ p = \log e^{p} = \log(e^{p/q})^{q} = q\log e^{p/q} \] より \(\log e^{p/q} = p/q\) が分かる。よって正の有理数 \(y\) に対して \(e^{y}\) で \(e\) の \(y\) 次のべきを表すとすれば \[ \log e^{y} = y \qquad \text{(1)} \] となる。さらに \(\log e^{-y} = -\log e^{y} = -y\) が成り立つから、等式 \(\text{(1)}\) は正負を問わず全ての有理数 \(y\) に対して成り立つ。これを言い換えれば、二つの等式 \[ y = \log x,\quad x = e^{y} \qquad \text{(2)} \] は片方からもう一方を導ける。ただし \(y\) は有理数で、\(e^{y}\) は正とする。今の段階では指数が無理数のべき \(e^{y}\) を定義していないので、\(e^{y}\) は有理数の \(y\) に対してだけ定義される。
\(2 \lt e \lt 3\) を示せ。 [まず \[ \int_{1}^{2} \frac{dt}{t} \lt 1 \] から \(2 \lt e\) が分かる。同様に \[ \int_{1}^{3} \frac{dt}{t} = \int_{1}^{2} \frac{dt}{t} + \int_{2}^{3} \frac{dt}{t} = \int_{0}^{1} \frac{du}{2 - u} + \int_{0}^{1} \frac{du}{2 + u} = 4\int_{0}^{1} \frac{du}{4 - u^{2}} \gt 1 \] から \(e \lt 3\) が分かる]